第五十九話 疑念④
「……確か……こっちだったよな……」
寮を出ると物陰に隠れながら、記憶を頼りに秘密の抜け道へと足を進める。月明かりのおかげで蠟燭を使用しなくても視界は良好だ。秘密の抜け道の出口が再び開き、入り口として使用できるかはわかない。しかし疑惑を持ったまま留まることも危険であり、これはある種のかけでもある。
万が一の際には黒幕の配下でも第二王子の部下でもない、一般的な騎士に助けを求めることも考慮した方がいいだろう。だが俺には誰が黒幕の配下か第二王子の部下か、どうかを見分ける術を持たない。無害そうに見えた人間が、実は黒幕の配下であるなどという場合も十分にある。レイの前例がある為、簡単に信用するわけにもいかないのだ。俺はリベリーナの無実を証明する証拠品を持っている。これを取り上げられたら終わりだ。
レイの所属は分からないが、黒幕の配下か第二王子の部下のどちらかと接触したことになる。そのことにより、どちらかの派閥に動きがあるだろう。状況が進展してくれることを期待する。そしてこのタイミングで行われる王城でのパーティー。嫌でも何かが起こることが分かる。黒幕派と第二王子派は、お互いに何か起こす計画を準備しているだろう。その第二王子派の計画に『証拠品の保管係』として、俺が組み込まれている可能性は高い。計画を実行する為に迎えが来ることを考えると、はやりあの軟禁空間に戻るしかないのだ。それが今、考えられる最善である。
もしも本当の第二王子派に合流することが出来なかった場合は、その時に考えることにする。現状では臨機応変な対応が必要だ。今ある最優先事項は、リベリーナの無実を証明する証拠品を守ることだけだ。
「よし……ここだな」
記憶を頼りに物陰に隠れながら進み、秘密の抜け道の出口に辿り着いた。道中、誰とも遭遇することがなかった。生け垣に隠れながら、しゃがみ込み煉瓦造りの壁を探る。この生け垣は、謎の騎士と出会った騎士団員宿舎から丸見えだ。少しでも生垣から出れば怪しく思われる。幸いなことにこの時間帯に騎士団員宿舎に残っている騎士達は就寝中だろう。生け垣を進む際に騎士団員宿舎の建物を確認したが、こちら側に明かりが灯っている部屋は一つもなかった。
しかし巡回の騎士達も来る可能性が高く、手早く秘密の抜け道へと入らなくてはならない。
「開かないか……」
煉瓦造りの壁を叩いても、押しても開く様子はない。まるで秘密の抜け道など存在しないようである。矢張りこの秘密の抜け道は出口専用であり、入り口は別にあるのかもしれない。
「仕方がない……っ!?」
この場に長く留まるのは不審に思われる。秘密の抜け道を使用することが出来ないならば、予定が大きく狂う。何処か落ち着ける所を見付けて、今後のことを考えなくてはならない。そう思いながら、一つの煉瓦に手を着きながら体制を変えようとした。すると煉瓦の壁は支えを失ったように、秘密の抜け道への入り口を開ける。体重をかけていた為、俺は転がるように真っ暗闇の入り口へと飲み込まれた。




