第五十三話 見習い⑬
「これは右側に積んでね!」
「はい」
「それと……後は左側に乗せてね!」
「はい」
城門に着くと届いている荷物をレイの指示の下、リアカーに積み込んでいく。少し離れた所で人々が忙しなく行き交っている。皆自身の仕事に集中している為、特に俺たちが注目されることはない。追加の荷物は、大量の食材である。近日中に開催されるパーティーに参加する人間たちが多い為、食材の消費量も多いのだ。
そこで問題が一つ浮上した。パーティーに参加する為に事前に登城するということは、地方からの貴族達にも召集をかけている可能性がある。万が一にも俺の実家が呼ばれていた場合、俺は色々と苦しい状況になることが予想出来てしまう。俺が絶縁状を送った件や元王太子を解任に追いやった件など色々とある為、なるべくなら家族とは遭遇したくない。更に言えば黒幕派からすれば、俺を誘き出す為の人質という卑劣な行為に走る可能性もある。無論そんなことは到底許すことは出来ない。
国中から貴族達を召集しているならば、その指示は国王によるものだろう。元王太子という『てんさい』を生み出したという汚点があるものの、国王自身は信頼に当たる人物である。そのことを考慮すれば黒幕と黒幕派が潜んでいる王都に、安易に俺の家族を呼び寄せることはしないと思いたい。呼び寄せるにしても何らかの対策を講じる筈である。
黒幕を捕らえる『餌』ならば俺が居るのだ。家族を危険な目に遭わせる必要はない。単に地方男爵家として家族を召集したのならば問題はなく、万が一にも黒幕派からの襲撃には護衛の騎士達に頑張ってもらうしかないだろう。余計な危険に晒す必要がないように、出来る事ならば家族が召集されていないことを祈る。
「これって果実? よく見かけるけど、どれも葉が付いているね?」
「嗚呼、それは『神の慈悲』という果物ですよ」
家族のことを考えていると、レイの言葉に顔をあげた。すると彼は積み込んだ箱の中を興味深そうに覗きこんでいる。如何やら、丸く黄色い果物たちに興味があるようだ。俺はその果物の呼び名を口にした。
「え?! 『神の慈悲』? なんか特別な御利益があるの? そんなに凄い果実を食べていいの?!」
「いえ、そういう意味ではなく。その果実が持つ毒性に対して、解毒作用を持つ為に付けられた名前です」
レイは果物の名前に驚くと、果実をまじまじと見詰める。『神の慈悲』という大層な名前が着いていることもありその反応も致し方無い。しかし事実はそのようなものではないのだ。
「ど、毒!? え? この果実は普通に食べたりしているけど、大丈夫なのかい?!」
「ええ、普通に果肉部分を食べるのは大丈夫です。毒があるのは種の部分ですから」
毒があると告げれば、果実から身を離すレイ。その反応は本当に『神の慈悲』について知らないようだ。彼の正体が騎士であるならば知っていそうな気もするが、俺が『神の慈悲』について知ったのはゲーム内である。転生し実際に学園の図書館で確認をすることが出来たが一般的に種は食さないため、毒があることは広く知られていないようだ。
「なんだ! それなら良かった……って、種を間違って飲んだら?」
安心した様子から、再度心配そうに確認をするのは騎士として当然のことだろう。主である第二王子に万が一のことがあってはならないからだ。広く一般的に流通している果実に毒があると聞けば、誰もが同じ反応をすることだろう。
「大丈夫ですよ。種には毒がありますが、通常の状態で飲んでも中毒を起こすことはありません。大量の種を高温で煮だすと毒性が高まり致死性の毒になります」
『神の慈悲』の毒について詳しく説明をする。一般的に食されている果実に毒があり、被害が出れば報告をされるだろう。だが騎士であるレイが知らないのは、毒の生成方法が特殊だからだ。
「えっ……何だか怖いね……」
「そうですか? 万が一にもこの毒を使用する人物が現れた場合、確実な悪意を持つ愚者である証明だと思いますが?」
レイは少し怯えたような声色で感想を告げるが、俺はその言葉に首を傾げた。この毒を使用するには何十個もの種が必要であり、高温で煮詰める工程を経る。使用者には明確な殺意がある証明になるのだ。
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次回は4/23水曜日の7時10分に投稿予定です。




