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【祝!書籍化決定!】論破してみたら一石二鳥した~乙女ゲームに入りこんだモブなので、婚約破棄の場面に乱入してみた~  作者: 星雷はやと


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第四十七話 見習い⑦

 

「……そうだったね! はい、これ! 『返すね』」


 少し考える間があったが、レイは俺に書類一式が入った封筒を差し出した。俺が勝手な行動をするよりも、与えられた情報に従う方が第二王子派にとっては好都合であると判断をしたのだろう。

 若しくは、第二王子から封筒を渡すように指示をされていたかである。あの第二王子ならば俺が余計な質問をせずに、与えられた身分証明書に準じて行動をすると予測してもおかしくない。寧ろ、俺が勝手にあの軟禁空間から脱出することも、迷子になり困ること想定内だった可能性がある。そう考えなければ、この用意周到な封筒の中身についての説明がつかない。俺は第二王子の手の平の上で踊らされている気分である。

 現段階では他にも頼れる当てもないのも事実だ。大人しく従いつつ、黒幕に繋がる情報を集めるしかない。


「ありがとうございます」


 俺は封筒を受け取ると中身を確認する。


 名前の綴りは勿論、出身地や年齢、家族構成など記されていることを記憶していく。『ライト・ローク』の容姿はヘーゼル色の髪に瞳。出身地はクライン男爵領地、年齢は16歳、家族はクライン男爵領地に在住、父親・母親・長男・次男。

 確認した内容に溜息を吐きたくなるが、レイがいるため堪える。名前と年齢以外は、『ロイド・クライン』そのままの情報だ。経歴を大幅に捏造することは簡単だろう。しかし本人と遠く過ぎる人物像を作り出すと、咄嗟の際の対応が遅れる。その為、全く知らない地方ではなく、俺の実家を出身地に選んだのだろう。万が一にも同じ領地出身者が居た場合に、話が合わなければ不審がられるからだ。家族構成にも同じことがいえる。年齢は『ロイド・クライン』と最低限の違いを出すこと、飲酒を回避することの二点についてだろう。


 俺は酒が苦手である。


 如何いう訳か、匂いを嗅ぐと酷く気持ちが悪くなるのだ。その為、飲酒したとことはない。一応この国では飲酒は成人からであり、その為『ライト・ローク』の年齢は二歳引き下げた設定にされているのだろう。有事の際に、身動きが取れなくなるのを忌避してのことだ。

 酒が苦手であることを知る人物達は限られている。昨年の卒業パーティーの手伝いで倒れた俺を介抱してくれた学園の教師と、家族に酒が苦手であると手紙で知らせたぐらいだ。第二王子がそのことを知っているというのは、不自然極まりない。しかし彼の権力があれば、簡単に手に入れることが出来るのだろう。このことについては深く考えない方が懸命かもしれない。


 次に年齢を二歳も誤魔化したことにより、周囲から怪しまれないか心配になる。だが謎の騎士も年齢について言及をしたかった為、多少の誤差は大丈夫なようだ。モブ顔は少し年齢と違っていても、あまり気にされないという点も優位に働いた。


 この身分証明書や履歴書を目にしたことがない人物でなければ、噓を吐いたとしてもその真偽は判断出来ない。見習いモブが何か重要なことに巻き込まれることはないだろうが、此処は王城である。黒幕派が何処に潜伏しているか分からない上に、高位貴族などに遭遇した際は面倒だ。

 これらの書類は急ぎ目を通しても、記憶することが少なく自然に振舞えるように作られている。要らぬトラブルを防ぐ為に、真実と書類の齟齬を極端に少なくしているのだ。流石は第二王子殿下である。リベリーナの安否が気になるが、モブの俺に対してこれだけ手厚いのだ。彼女について『心の底から愛しています』と豪語していた第二王子ならば、対策は万全だろう。


 第二王子と第二王子の部下だけが、俺の偽りの姿『ライト・ローク』の情報が知らされているだろう。俺を知り話しかけてきたレイ・ナイバーがいい例である。第二王子派か如何か確認する必要がある際にはこの情報が使えるが、相手が黒幕派だった場合は逆に自分の正体を知られてしまう。使いどころを間違うと、窮地に追い込まれる。俺は『保管係』としてリベリーナの無実を証明する品を有しているのだ。迂闊な行動は出来ない。


「どう? 何か『分からない』ことある?」


 黙って書類を見ていた俺に、レイが話しかける。彼が質問している『分からない』は『ライト・ローク』についてだ。完璧に御膳立てされ、用意された『ライト・ローク』に『分からない』ところは一切ない。つまり余計な質問には答えないという、第二王子の明確な意思を感じる。

 レイ・ナイバーは気さくな態度ではあるが、彼は第二王子に近い騎士だ。第二王子の指示に忠実に従うだろう。あの第二王子の部下であれば、単なる質問に答えるわけがない。先ずは相手の土俵で主導権を握る必要がある。


「そうですね……では、ナイバーさん。『自己紹介』を致しましょう」


 鞄をソファーの横に置くと、俺は人畜無害の笑みを浮かべた。



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