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論破してみたら一石二鳥した~乙女ゲームに入りこんだモブなので、婚約破棄の場面に乱入してみた~  作者: 星雷はやと


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第四十三話 見習い③


「……っ?!」


 大声に驚きつつ振り向くと、漆黒の髪に眼鏡をかけた男性が此方に歩み寄って来る。如何やら俺たちに声をかけたのは彼のようだ。白いコック服を身に着けていることから、彼がこの王城に従事している者であることが分かる。

 目の前の騎士よりも背が高く、体格も良い。年齢も騎士と同じ頃のように見えるが、分厚い眼鏡により瞳は見えない。

 誰だが分からないが、騎士の援軍ではないことを祈る。そして出来れば、第二王子派と黒幕派のどちらの派閥にも属していない人物であってほしい。目の前の騎士で手一杯だというのに、援軍や他派閥など来られたらモブの俺には対応しきれないのだ。これ以上の面倒事は御免被る。


「本当にごめん! 城門まで迎えに行く筈だったのに、俺が遅れた所為で道に迷わせちゃって!」

「……え?」


 彼は俺の前で立ち止まると、最敬礼をした。俺は困惑の声が口から漏れる。彼とは初対面であり、謝られることなどない筈だ。


「……お知り合いの方ですか?」


 騎士が怪訝そうに俺に謝る男性について尋ねてくる。これでコック服の彼が騎士の仲間である確率は低くなった。知っていて敢えて他人のフリをしている可能性もあるが、騎士の表情を見るあたり演技とは思えない。


「いや……その……」


 俺は如何答えていいのか思案する。間違いなくコック服の彼とは初対面であり、城門まで迎えに来てもらう約束などしていない。単なる彼の勘違いの可能性は殆どないだろう。後ろ姿で俺だと分かり声をかけてきたのだ。

 つまり髪の色と服装と持ち物から、俺であると判断したことになる。俺の髪の色は特に珍しくもないヘーゼル色だ。他人と間違われる可能性が高いが、個人を断定するには不十分である。次に服装と持ち物についてだが、スーツを着用していたのは卒業パーティーからで、鞄を持っていたのは卒業パーティー後だ。

 そのことからコック服の彼は、確実に第二王子派か黒幕派である。


「あ! 彼とは初対面だよ、料理長から頼まれて俺が迎えに来ただけ。俺はレイ・ナイバーコック見習いだよ。今日から見習いとして働く、ライト・ロークくんを探していたところだよ」


 騎士と俺の言葉を聞き、コック服の彼が勢い良く顔を上げた。そして俺と騎士の間に立つと、騎士へと説明をする。文脈から『ライト・ローク』というのは俺へ当てられた偽名だろう。事前に用意された物なのか、それとも咄嗟の噓なのかはわかない。


「……では、ナイバーさんの身分証明書と、ライト・ロークさんの身分証明書・登城許可証を提出してください」

「えっと、俺のは、これで……。ライトくんのは、この封筒の中に入っていて……」


 何か思案すると騎士が、身分を証明する物の提出を求めた。するとそれに対して、レイ・ナイバーはスムーズに対応する。その行為は明らかに可笑しい。彼自身の身分証を持っているのは自然だが、俺の物まで持っているのは不自然である。


「何故、貴方がライト・ロークさんの証明書一式をお持ちなのですか?」

「え? あぁ! それは彼が入城後に落としたらしくて、門番さんが預かっていてくれたからだよ。因みにこの封筒にライトくんの履歴書も入っているよ。見る?」


 騎士が眉をひそめると、俺の気持ちを代弁する。それに対してもレイ・ナイバーは、ごく自然に対応して見せた。彼が見せている俺の身分証明書や登城許可証・履歴書さえも偽物である。俺の名前は『ライト・ローク』ではないのだから。

 レイ・ナイバーと名乗ったコック服の彼が、第二王子派か黒幕派のどちらにしても用意周到過ぎる。更に言えば、彼自身の気さくな雰囲気が相手に警戒心を与え難いということも優位に働いているのだ。


「……はい。確かに確認しました。ご協力ありがとうございました」

「いいよ! 確認は大事だからね!」


 確認が終わり証明書や書類が返される。騎士とレイ・ナイバーの会話と共に、封筒が擦れる音が響く。


 この二人が、第二王子派か黒幕派のどちらかに所属していることは明らかである。そうでなければあの執拗な質問と、偽名の身分証明書や書類について説明がつかない。露骨に怪しいのは騎士である。名前も名乗らない上に、執拗な質問と違和感があった。彼が黒幕派であると言われれば、直ぐに納得できる。だが、コック服のレイ・ナイバーも怪しさとしては充分だ。後ろ姿だけで俺だと判断をしたり、偽名の身分証明書などを持参していたりしていた。


「それでは、私は始業時間ですので……」

「あ! はい! ライトくんを保護してくださり、ありがとうございました」。


 騎士は一礼すると、俺たちの横を通り向かい側の建物へと歩いて行った。あれだけ執拗に俺の行き先を聞き出そうとしたというのに、潔く引き下がったことに拍子抜けする。黒幕派ならばもう少し粘りそうな気もするが、レイ・ナイバーの存在を警戒したのかもしれない。


「さてと……じゃあ、俺たちも行こうか。『ライト・ローク』くん?」


 レイ・ナイバーが俺へと向き直る。口元は弧を描いているが、分厚い眼鏡で表情が読めない。彼が第二王子派か黒幕派かは判断がつかない上に、俺には選択肢がないようだ。


 一難去ってまた一難である。


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