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第三十七話 新天地④

 

「……はぁぁぁ……」


 己を落ち着かせるように深呼吸をする。此処で俺が一人、焦ったところで何か現状を打開出来るわけではない。冷静さを欠くことこそ、危険である。

 別れ際に最後の質問で第二王子は、リベリーナに対して『心の底から愛しています』と言っていた。つまり愛しい相手を無碍に扱うことはない。寧ろ俺よりも手厚い保護を受けている可能性が高いだろう。きっとリベリーナは、安全で快適な所で過ごしているに違いない。


「落ち着け……落ち着け……」


 そもそも、この場所が王都ではないという確証があるわけではない。王都にも自然豊かであり、大きな公園も多くある。その近くに隣接しているか、俺が知らないだけでそういう条件が揃う場所がある可能性もあるのだ。情報が殆ど無い状態で、王都ではないと決め付けるのは些か軽率である。情報の無さから、冷静さを欠いていたことを反省する。


「……というか、これは軟禁なのでは?」


 落ち着いて考えてみると、俺の置かれている状況に疑問を持つ。


 住居と飲食物の提供はあるが、俺には何も説明がされていない。そもそも、俺は同意の上でこの場所に来たのではないのだ。馬車の中で第二王子から提供された睡眠薬を飲んでしまい、目が覚めたら此処に連れて来られていた。つまり誘拐であり、その上外出や部屋での行動を制限されている。軟禁状態だと捉えても可笑しくないだろう。


「全く……第二王子のくせに何をしているのやら……」


 溜息と共に、悪態を吐く。誰か居れば咎められるが、幸いこの場には俺以外には誰もいない。それだけ第二王子の行動が危ういということだ。客観的に見れば俺の状況は、非常に不味いものである。誘拐に軟禁なんて、将来国王になる第二王子にとっては酷い醜聞だ。俺がこの状況を黒幕に対抗する為だと理解し、色々と訴えないことも考慮しての判断だろう。そこがまた質が悪いのだ。単に俺のことを信用しているのか、地方男爵家の三男坊だからと油断しているのかは分からない。だが、自身で立場を危うくするような種を撒くなと、強く問い詰めたくなる。

 現に卒業パーティーで、元王太子がリベリーナを断罪するという不祥事を起こしている。そのことにより王族の信用や評判が傷ついたことは確かだ。貴族や国民からの信頼が失われれば王族の権威は失墜し、長く続いたこの国が終わりを迎えるだろう。そうならない為にも、次期国王になる『王太子』には第二王子が選出される筈である。元王太子の件もありまだ正式発表はされていないだろうが、『王太子』には第二王子が最適だ。約束された未来があるのに、自ら汚点や弱みを作るなど愚策である。

 そんなことは第二王子自身が理解している筈なのだが、俺への対応は軽率な行動だ。俺はイレギュラー対応が苦手だ。もしかすると第二王子はイレギュラー対応が得意だが、イレギュラーが嫌いなのかもしれない。

 つまり俺というイレギュラーな存在を隔離し、計画の障害にしたくないのだ。逆に俺が第二王子の立場なら、同じことをするだろう。


「本当に用意周到だな……」


 イレギュラーな存在を封じるのは簡単である。情報を与えず隔離することだ。現に俺へ状況説明や指示する手紙も用意されていないのが、その証拠である。情報が無ければ、動くことは出来ない。実に簡単である。

 加えて手紙が無いのは、万が一にも黒幕の配下にこの場所を知られた場合への配慮だ。敵側に指示と情報が洩れるのを防ぐ為と、第二王子の関係者ではないと逃れる為である。後者は第二王子との関わりを証明する証拠品を持っていなければ、白を切ることも出来るのだ。俺の場合だとリベリーナの無実を証明する童話の本を持っているが、第二王子との繋がりを示す物がなければ被害者面することも可能性だ。『第二王子に証拠品を奪われた。全ての証拠品は第二王子が持っている』と噓を吹き込み、黒幕側に混乱を与えるのもいいだろう。

 その場合、先に第二王子達が証拠品を奪われていない時にのみ限る。

 要するに第二王子との関係は上手くすれば後ろ盾になるが、下手をすれば窮地に追いやられる可能性があるのだ。正に諸刃の剣である。


「折角の期待だから応えてみるか」


 イレギュラーな存在と証拠品の保管係として、この場に封じられているが俺はこの場に留まる気は一切ない。リベリーナを貶めようとした黒幕を白日の下に晒し、然るべき処罰を与えるという崇高な目的がある。安全な場所で黒幕が捕まるのを吞気に待てる程、俺の気は長くないのだ。俺の手で引導を渡し、再起不能な絶望に落とさなくては気が収まらない。

 だから敢えて第二王子の好意も考えも計画も全てを無視し、『餌』として黒幕を誘き寄せる。第二王子はこの軟禁状態で完璧に、俺を封じることが出来たと思い込んでいるのだろう。 

 だが、その完璧を崩すのは実に楽しい。折角積み上げた積み木を、叩き壊すかのようだ。


 第二王子の善意に対して悪意で応えることになるが、俺は性格が悪いから仕方がない。


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