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論破してみたら一石二鳥した~乙女ゲームに入りこんだモブなので、婚約破棄の場面に乱入してみた~  作者: 星雷はやと


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第三十三話 第二王子⑨

 

「…………」

「殿下?」


 質問を聞いた第二王子は、アメジストの瞳を見開き固まった。彼の反応を見る辺り、俺の質問内容が予想外だったのだろう。先程の『女性当主について』に関しての質問でも、予想外という反応を見せた。だが固まっている様子を見ると、今回の質問は前回よりも驚いているようだ。反応がないので、一応名前を呼んでみる。


「……あ、いえ、失礼……。……クライン先輩が何故、私にその質問をするのか考えていました」


 第二王子は、はっとしたように俺を見ると視線を逸らした。随分と動揺しているようだ。俺は大変直接的な質問をした。戸惑う彼は噓を言っていない。質問の意味が分からないのではない、俺がその質問する理由が分からないのだ。優秀な頭脳を持つ彼でも、推し量れないことがあるようである。そこに少し人間味を感じ、安心感を覚えた。


「不躾な質問だとは私も重々理解しております。しかし……今回のようなことがあり、どうしてもリベリーナ様が心配なのです」


 本来ならば王族の婚約や結婚地に、地方男爵家の三男坊が口を挟むようなことではない。『望み』も王国の存続と比べれば反故にしたところで大した問題にはならないのだろう。仮に『望み』を反故にされとしても、リベリーナが許容し満足しているならば特段騒ぎ立てるつもりはない。地方男爵家の三男坊に出来ることは多くないのだ。『望み』も今の状況も、俺にとっては破格の待遇である。

 一つ気になるところは、黒幕の存在だ。だがそれは第二王子も理解している為、追って捕らえるだろう。俺の『望み』が正しく叶えられるとは思わない。貴族達の結婚に必ず愛があるかは分からないが、少なくともリベリーナには幸せになって欲しいのだ。

 元王太子との婚約が破棄となった現状では、マルセイ第二王子がリベリーナの最有力候補である。他国の王族や貴族との結婚も考えられるが、リベリーナの様な優秀な人材を流出する程の魅力的なメリットがあるとは思わない。

 第二王子は策士で食わせ者であるが、リベリーナの考える未来にも理解がある。他の者に任せることを考えれば、第二王子の方が断然安心なのだ。


 だから、この質問は単に第二王子がリベリーナを如何思っているのかを聞きたいだけだ。


 例え彼が如何答えようとも俺には関与することは出来ない。俺が出来ることは全て終えている。


「そうですか……」


 第二王子は俺の質問に裏があるのではと、無駄に疑っているようだが本当に何もないのだ。散々腹の探り合いをしていた為か、第二王子は俺の真意を計り兼ねているようである。残念ながら俺の質問の意味に裏などない。その優秀な頭脳が逆に混乱を招いているのだが、性格が悪い俺は敢えて放置しておく。


「…………」


 思案しているようだが、そろそろ馬車が着く頃だろう。つまり、タイムオーバーが近い。このまま答えを聞かないこともあり得るだろう。それについては気にしない。だが、万が一この第二王子がリベリーナに対して良い感情を持っていない場合、話が違ってくる。俺の『望み』を断固強行しなければならなくなるのだ。その可能性はかなり低いが、念には念を入れていた方が良い。


「マルセイ殿下。リベリーナ様を思い浮かべた際の感情に置き換えて頂いても構いません」


 安心して俺は実家に帰りたい。渋々、大変不本意ながら第二王子へ助け舟を出す。言い方は違うが大して質問の内容は変わらないだろう。


「……良いのですか?」

「はい。私の先程の質問では殿下が、お答え辛いようでしたから……」


 俺の提案に不思議そうに、第二王子は首を傾げた。質問に裏があると疑っていた彼からすれば、俺のことの提案は不思議でしかないだろう。これで少しは言葉通りの質問であると理解してほしい。


「ありがとうございます」

「い……え? ……っ?!」


 第二王子が笑顔で礼を告げると、馬車が大きく揺れた。そして俺は身体を支える事が出来ずに、座席へと倒れ込んだ。一瞬、黒幕からの刺客かと身を固くする。


「質問の答えですが……」

「で……んか?」


 何も無かったように第二王子は話しを続ける。馬車が揺れたと思ったが、揺れ倒れたのは俺の身体だけだった。四肢や頭が鉛のように重く、口も上手く動かない。唯一動くのは眼球のみである。矢張り先程の飲み物に何か混入されていたようだ。俺の様子に動揺していないことを見ると確信犯である。先程の長考は薬物の効果が出るまでの時間稼ぎであると考えれば、不本意ながらも納得することが出来る。


「そうですね。リベリーナ嬢のことは、心の底から愛しています」


 とても甘く優しい声色で質問の答えが告げられた。


 普通の状況で、その言葉を聞くことが出来れば素直に喜ぶことが出来ただろう。俺にも常識があり質問に答えてくれた礼として、祝いの言葉の一つでも送ることも出来ただろうが現状はそれを許さない。


「……っ……」


 痺れたように思い舌を必死に動かしても、俺の口から出たのは掠れた小さな呻き声一つである。更に言えば、瞼が重たくて仕方がない。眠気に逆らうように唯一、動く目を第二王子に向ける。


「だから……クライン先輩には此処で舞台を降りてもらいます」


 温度を無くしたアメジストの瞳が、静かに俺を見下ろす。


 襲ってくる睡魔に勝てずに、俺は意識を手放した。




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