第二十六話 第二王子②
「いやぁ……クライン先輩が察してくれて助かりました。ありがとうございます」
「いえ、それで私に何のお話でしょうか?」
馬車が動き出すと向かい側に座った第二王子が話しかけてくる。第二王子の提案に乗ったのは第一段階では正解だったようだ。俺は早々に話題を切り出す。
「……あれ? 先輩は気付いたから私の提案に乗ってくれたのではないのですか?」
「……? いえ? 思い当たりませんが?」
俺の質問を受けて第二王子は予想外だと目を見開いた。如何やら俺が第二王子の意図を汲んで、馬車に乗ったと思ったようだ。残念ながらゲーム内での情報が無い第二王子の考えは分からない。只でさえ、イレギュラーな対応をしてくる存在なのだ。俺は全ての出来事に対処出来るほど万能ではない。俺は只のモブなのだ。第二王子の考え分からないと素直に俺は首を傾げた。
「クライン先輩がリベリーナ嬢の無実を証明する証拠品を持ったまま大広間を後にしたので、それの回収に参りました」
呆れることもなく第二王子は俺に接触して来て理由を口にした。
「……あ……」
理由を聞き俺は自分のうっかり具合に頭が痛くなる。
卒業パーティーの際は断罪回避の為に論破することばかり考えていた。元王太子とイリーナと、その愉快な仲間たちが捕らえられたのだ。これから詳しい取り調べがある筈である。その際にはリベリーナの無実を証明する証拠の提示も必要になるのだ。国王や宰相と多くの貴族達の前でリベリーナの無実を証明し、それは認められている。だが正式な処罰に関しては調査がされるだろう。その際にリベリーナの無実を証明する証拠の提示は必須である。
俺はあの場を去ることばかり考えていた為に、証拠を渡すことをすっかり忘れていた。
「申し訳ございません。すっかり失念しておりました」
大切な証拠を持ち帰ってきてしまっては、騎士団に迷惑をかけてしまうところだった。いや既に第二王子殿下に迷惑をかけている。俺は第二王子に謝罪をした。
「いや、間に合って良かったですよ。クライン先輩の持つ証拠を狙っている輩がいましたから」
「そ、そうですね……」
笑顔で恐ろしいことを口にする第二王子。如何やら見張っていた人間たちは、俺が標的のようである。リベリーナの無実を証明する証拠品を狙うというのならば、確実に黒幕の配下の者達だろう。しかしそのおかげで黒幕の配下を捕えれば、黒幕に繋がる糸口を掴める可能性がある。黒幕へ繋がる者はイリーナも居るが、口を割るか分からない。更に言えば彼女がいつ処分されるかも分からないのだ。保険は多い方がいい。
「さあ、証拠の品を私に渡してください」
リベリーナの無実を証明する証拠品を渡すように第二王子が迫るが、簡単に渡すわけにはいかない。黒幕の正体は分からないのだ。一応、第二王子が黒幕である可能性は限りなく低いが、ゼロではない。確証がない上で、この大事な証拠を渡すわけにはいかないのだ。リベリーナの無実を証明するものは、俺が所有しているこの三つの証拠品しかない。
逆に言えばこれらを如何にか改竄するか隠滅してしまえば、無実を証明することは難しくなる。国王や宰相と多くの貴族達の前でリベリーナの無実を証明し、それは認められているが物証が有るのと無いのでは説得力が違う。黒幕も俺が提示した証拠品が厄介だから、消そうと躍起になっているのだ。配下の者達に堂々と証拠を奪うように命じている辺り、切羽詰まっているようである。黒幕にとって俺の介入と、国王や宰相が卒業パーティーに参加することは予想外だったのだろう。だからこうして、付け焼き刃のような計画を実行しているのだ。
その点を考えても第二王子が黒幕である確率はかなり低いだろう。秘密裏に国王と宰相を卒業パーティーに連れて来た第二王子が、こんなあからさま計画を実行するとは思えない。更に言えば国王や宰相を卒業パーティーに功績は大きく、スムーズに元王太子とイリーナと愉快な仲間たちを拘束出来たのも彼のおかげである。助かったことは事実だ。
だが、大事な証拠品を渡すほど信用していないのも事実である。
「殿下。それには幾つか私の質問にお答え頂けますか?」
第二王子が信用に足る人物か如何か、見極める緊急任務が始まった。




