第二十一話 願い事⑥
「リベリーナ嬢」
「はい」
愚か者達が外に出されると国王はリベリーナへと向き直る。俺は彼女の前から横へとずれ、国王の様子を窺う。
本来ならば国王と第二王子、宰相閣下に公爵令嬢が集う場は、地方男爵の三男坊が同席するのは可笑しい話である。どう考えても身分不相応なのだ。だが俺にはリベリーナの今後を見守る責任がある。
モブの俺が婚約破棄に介入し、リベリーナの冤罪を証明したことによりゲームの展開が変わった。何が起こるか分からないが、リベリーナの幸せと安全が確保されるまで俺はこの場を離れるつもりはない。公爵令嬢と地方男爵の三男坊が会える機会など今後あるとは考えられないからだ。黒幕が何者か分からない手前、実子でありながらも元王太子を捕縛した国王が信頼出来る人物か見定めなくてはならない。
「この度は愚息が大変な迷惑をかけたこと申し訳ない」
「こ、国王陛下! 私は大丈夫ですので、お顔を上げてくださいませ」
国王は頭を下げ、リベリーナへと謝罪をする。絶対権力の国王が頭を下げるという行為に、リベリーナは驚きながらも国王に頭を上げるように促す。
謝罪の言葉だけで終わらせる可能性もあったが、愚息と同い年である女性に頭を下げる態度に誠意は感じる。疑り深くなっている自覚はあるが、国王もそれなりに元王太子の行動に責任を感じているのだろう。
「しかし……此度の件では、リベリーナ嬢の名誉と尊厳を大きく傷付けた」
リベリーナの呼びかけにより、国王が姿勢を正すがその顔は晴れない。それもそうだろう、端的に言えば元王太子は国が滅ぶような行為をしたのだ。婚約者のベリーナ公爵令嬢を大衆の面前で、一方的な婚約破棄の上に冤罪をかけた。特に知性と品位を重んじる王族にあるまじき行為である。元王太子は良くて一生光を見られない牢屋で過ごすか、王族として自らの罪を贖うべく極刑を受けるかどちらかだろう。まあそれだけのことを仕出かしたのだ。憐れむ気持ちも同情もない。自業自得である。
「確かにそうですが……。私は助けて頂けたので、本当に大丈夫です」
「……そうか。そう言ってもらえると幾分救われる」
自身が苦しく大変な目に遭ったというのに、リベリーナは国王を気遣う。やはり元王太子は見る目がなかった。優しく気遣いが出来るリベリーナを貶めるなど言語道断である。優しいリベリーナの言葉に国王の顔色も幾分良くなる。流石はリベリーナだ。
「全てはクライン様のおかげですわ」
「うむ。そうであったな」
笑顔のリベリーナと神妙な面持ちの国王陛下が、俺へと振り向いた。




