第十九話 願い事④
「なっ……何故ですか!? 父上!」
「『何故』とは異なことを……『王太子』の任を解かれたというのが全てだ」
『劇薬』を受けて動揺する元王太子に対し、毅然とした態度を貫く国王。元王太子は父親である国王が、自身を助けに来た救世主だと思い込んでいたようだが違ったようだ。
如何やら俺が咄嗟に思い浮かんだ、彼らの登場理由のいい方向が当たったことに安堵する。俺が思い浮かんだ理由の一つは、国王たちが王太子殿下に与しリベリーナを捕らえに来たという理由。二つ目は、王太子殿下の横暴な振る舞いを諌めるべく来たという理由である。
確率的には一つ目が非常に高く、国王相手に大変苦しい戦いになる。二つ目は大変確率が低いが、元王太子とイリーナを確実に捕らえることが出来るのだ。初めから国王や宰相を動かすことが出来ていれば良かったが、地方貴族の男爵家三男には捏ねも人脈もない為断念した案である。
ゲーム内では国王や宰相の登場は勿論、『王太子』としての任を解かれたこともイレギュラーである。つまり俺がリベリーナの無実を証明した為に、ゲームの進行内容が変ったようだ。ゲーム内での知識が何処頼りになるか分からない。リベリーナに害を成さない限りは、俺は国王の行動を傍観することに徹する。
「お、お待ちください! 父上は勘違いされています!」
「勘違い?」
元王太子は国王へ弁明を図る。『王太子』の任を解かれたということは、将来の国王としての道が断たれたのだ。そのことに遅れて気が付いたようだ。しかし、愚かな『てんさい』には国王の怪訝そうな顔が見えていないようである。
「そうです! 僕は優秀です! 僕以外に『王太子』が務まるとは思えません! 現に愛するイリーナを虐げる悪女である、リベリーナとの婚約破棄もしました! 僕が『王太子』を務め、父上の後を継ぎ『国王』になるべきです!!」
現状を理解していない元王太子は国王へと恥ずかしげも無く、思いの丈を叫んだ。リベリーナに関して言葉にした為、フォルテア公爵の視線は絶対零度である。だがそのことにも元王太子は気付いた様子はない。流石は『てんさい』である。ある意味で国王を凌ぐ大物といえるのではないだろうか。
「その全てが間違いだというのだ。愚か者!」
「……っ!?」
国王の怒声が大広間に響き、空気が大きく揺れる。国の指導者であり絶対権力である、国王が声を荒げたという事実に貴族達は顔を蒼褪めた。元王太子も同じようである。温室育ちではあると予想していたが、一度も父親に咎められた事がなかったようだ。
「驕りに欺瞞、勝手な婚約破棄。 剰え、将来お前を支える存在であるリベリーナ嬢を貶めるとは何事だ?」
「ち、父上……?」
怒りを湛えたまま、静かに国王が元王太子の行動を責める。性格の悪い俺は、もっとリベリーナを傷付けたことを咎めてくれと国王を応援する。
「彼女の冤罪の証明が行われたというのに、それも全て無視するとは驚いたぞ……。真実を見極める目と耳を持ち合わせていないような者が『王太子』や、ましては『国王』など有り得ん!」
「な、何故……そ……そのことを……」
先程まで行われていたリベリーナの冤罪の証明について国王が口にする。大広間に居なかった国王がその状況を知っていたことに、元王太子は顔色をより悪くさせた。国王が自身の横暴な振る舞いを見ていたことを理解したからだ。つまり下手な言い訳が通用しないということである。
「それは隣の控室から見ていたからですよ。兄上」
国王と宰相の後ろから、銀髪アメジストの瞳を持つ男が現れた。




