第十八話 願い事③
「いいぞ! お前たち! 僕とイリーナに狼藉を働いたこの賊共を捕えろ!!」
騎士団の登場に王太子は勢いを取り戻すと、横暴な命令を叫んだ。全くもって反省はしていないようだ。騎士たちは俺たちへと勢い良く駆けてくる。
俺は静かに騎士たちに同情する。王太子殿下という立場なら騎士団は理不尽な命令でも従うしかないだろう。全く上が無能だと部下が苦労するのは、前世でも変わらないものだ。
「ルイズ。この騒ぎは何事だ?」
「父上!? 何故、このような所に……」
騎士たちが俺たちを囲むように立ち止まると、その列が割れ二人の男性が現れた。先に居る男性は王冠と堂々とした雰囲気を感から、彼がこの国の王であることが分かる。王太子も父だと呼んだ為、確定だろう。
そして国王の後ろに控える男性はリベリーナと同じサファイアの瞳である。更にリベリーナが息をのんだのを背中越しに感じた。そのことから、二人目の男性はリベリーナの父親であるフォルテア公爵であることがわかる。
国王、フォルテア公爵も第二王子と同じく設定上の人物であり、姿を見るのは初めてである。そもそも、地方貴族の三男坊が言葉を交わす距離に近付ける機会など有り得ないのだ。
彼らの登場は予想外だったが、何の為に現れたか咄嗟に二つほど予想が浮かぶ。だが相手は国王陛下と宰相閣下である。下手をすれば、リベリーナの冤罪の証明が白紙に戻る可能性もあるのだ。俺は周囲と同じように、お辞儀をしながら彼らの出方を待つ。
「私の問いに答えよ、ルイズ」
「……は、はい! リベリーナが自らの罪を認めず。逆にイリーナに非があるなどと戯言を申したのです! リベリーナとその地方貴族が、僕の大切なイリーナを傷付けたのです! 王太子である僕と王族に加わるイリーナに対しての不敬!! これは重罪です!!」
国王は貴族全員に顔を上げるように指示をすると、再度王太子へと質問を重ねる。すると王太子は絶対権力の国王へと噓を叫ぶ。王太子のこの行動は大変愚かだが、ある意味正しいと言える。孤立無援、絶体絶命の状態での絶対権力の登場だ。縋らない理由がない。
さて国王がその様な判断をするかによりこの後の行動が変わる。
俺の中では、この国の国王は少なくとも『勝手な暴君』という訳ではないという評価である。王都に来てから国王の不満は耳にしたことがないのは確かだ。しかし、散々証拠を提示しているというのに往生際が悪すぎる目の前の『てんさい』を王太子にしている時点で評価は著しくマイナス方向である。
及第点の王は、王太子の言葉を信じる愚者だろうか?そうならば、リベリーナを国外へ逃がす必要が出てくる。他国に知人や頼れる存在は居ない。だがリベリーナをこの国で腐らせる気はないのだ。俺の全てをかけて国外へ逃がすつもりである。
「そうか……では捕えねばならぬな……」
「ははは!! 覚悟しろ! 身の程を弁えずに僕を馬鹿にしたのが悪い!! 牢屋で悔いるがいい!!」
「そういう台詞は安易に使わない方が宜しいですよ?」
国王の言葉を聞くと、勝ち誇ったような言葉を叫ぶ王太子。勝利を確信しているようだが、本当にこれで王太子に軍配が上がるようならばこの国は終わりである。多くの貴族達の前で散々、醜態を晒しているがこれ以上は『謀反』による終焉しかない。
俺は最後の忠告を王太子へと贈る。きっと無駄であるが、親の前だから少しだけ体裁を取り繕う。
「……ルイズお前には失望したぞ」
「え? 父上?」
重々しく溜息を吐くと国王は口を開いた。言葉が理解出来なかったのか、鳩が豆鉄砲を食ったような顔する王太子。
「ルイズ・ハーバレント、この時をもち『王太子』としての任を解く!」
国王は王太子へと『劇薬』を口にした。




