第十四話 追撃⑪
「さて、バボラさん。話が逸れてしまって申し訳ございません。それで話しを戻しますが……王が王妃に狂い血税を湯水の如く王妃に使い放題! 税の徴収は厳しくなる一方、家財道具を売りパンも買えない……そしたら何が起きると思いますか?」
少しだけ王太子への鬱憤を晴らすと次に、放置していたエマへと視線を向ける。そして優しい俺は形だけの謝辞を口にした。エマ自身は王太子の発言が如何に危ういものだったか理解しているかは分からない。ゲーム内では優秀なキャラクターとして登場していた筈だったが、その姿は見る影も形もない。だから俺はエマへと優しく分かりやすい質問をする。
「な、何って……不満が……」
イリーナの名前を出さなければ、ほんの少しだけ彼女の思考は動くようだ。彼女は出会ってから唯一の正解を告げた。
「そうです! そうなった場合の対策としてのエマ・バボラさんです!」
「……は?」
エマの答えに対して手を叩き、大袈裟に俺はリアクションをとる。それはまるで、幼子を褒めるかのような対応だ。これは勿論、心からエマを褒めているのではない。俺が彼女を褒めてやる筋合いなど一切ない。先程の謝辞もそうだが、全ては相手を煽る行為だ。実際にエマは俺の反応に、怪訝そうな顔をしている。
「貴女には国民からの不満を受ける的になっていただきたいのですよ。国民の不満が爆発しないように自身が豪遊出来るようするのをサポートして欲しいのでしょう。それに貴女に書類仕事も任せると思いますよ。要するに……優しくするふりをして恩を売り、自分の思うように動く『エマ・バボラ』という駒が欲しかったのですよ」
唯一の正解を導き出した褒美に真実を告げる。
フォロン子爵令嬢であるイリーナが奨学生として特別入学した平民に優しく出来る筈がない。他の貴族令息令嬢たちも同じである。気位の高いイリーナは特に、貴族としてのプライドが許さないだろう。しかし学園の考えに反して虐めれば、自身が非難される対象となる。だからそれを逆に利用したのだ。
平民であり、煙たがられているエマに優しくすることで己の株を上げようと画策したのだ。その成果もあり王太子殿下の婚約者という立場を奪うまでになった。全く図太い神経の持つ主である。
「ち、違う! イリーナ様はそんなこと考えてない!! 全部あんたの想像じゃない!!」
俺の褒美をエマは大声で否定をした。少し考えれば導き出されるというのに、疑うことを止め思考を放棄している者には何を言ってもきっと無駄なのだろう。
「では……寮の同室を求めたのは何故だと思いますか? 優しさ? いいえ、違います。イリーナ様は一階にあり守衛室から死角になるその部屋がどうしても必要だったのですよ。リベリーナ様の評判を落とし糾弾する理由づくりの為にね?」
「な、なにを……」
短く溜息を吐くと、エマの希望を一つずつ砕く。先ずは寮の同室を求めたことについてである。本来、寮の同室は同じ爵位か、近い爵位の者と同室になるのが普通だ。子爵令嬢であるイリーナもそうなる筈だが、寮母に話を聞いた際にエマと同室になると強行したと発言をしていた。普通ならば貴族令嬢と平民との友情で美談となるだろうが、野心家のイリーナはそんなことは微塵も思っていない。全ては己の欲望を満たす為に利用したのだ。
「おや? そうなると……イリーナ様は学園の入学時には既に、リベリーナ様を糾弾する計画を立てていたということになりますね。何か間違っていますか? イリーナ様?」
「……っ、くっ……」
エマと話していても埒が明かない。真実を知る者へと俺は声をかける。エマが心酔し、唯一絶対的に信じる彼女の言葉ならばエマも信じるだろう。イリーナへと視線を向けるが彼女は俺を睨むだけで、反論がない。
「反論がないということは御認めになられるということですね?」
「……」
イリーナに再度、俺の発言に問題がなく真実であると確認を取る。すると彼女は俺から顔を逸らした。つまり手詰まりで、反論する余地がないようである。
「で、でも! リベリーナ様は私が困っていても無視して、見ないふりをしたわ! 私なんか……平民なんかどうでもいいのよ! でもイリーナ様は違うわ! 平民の私にも良くしてくださったわ!!……だから!」
何を考えているのか分からないが、エマが異を唱えた。真犯人であり、自身を利用する為に近付き利用したと認めたイリーナを庇い始めたのだ。終わった話しを蒸し返すとは、全くもって愚かである。