第百十六話 導き⑧
「はぁ……はぁ……」
白い猫の後を追いながら、ひたすら歩く。森を抜け、塀や小川を越える。案内役が猫だからか、道なき道を進む。日が随分と傾き、空が茜色に染まっていることに気が付く。
「にゃ!」
「ここは……」
先を行く白い猫の声を頼りに、背丈以上ある草を描き分けた。すると見覚えがある場所へと辿り着いた。
「戻ってきたのか……」
視界に広がった珍しい、色々取り取りの果実たち。如何やら『調理部門の菜園』に案内されたようだ。白い猫は役目を終えたとばかりに、ベンチに寝転ぶと毛繕いを始めた。
周囲に人の姿は確認することは出来ない。誰もいない時間のようだ。
「……っ、くっ!」
見知った場所に辿り着いたことに安堵すると、急に喉の渇きを覚えた。井戸から水を汲むと両手を洗う。井戸の冷えた水が心地いい。次に両手で水を掬い、喉を潤す。白い猫から貰った木の実で潤した喉は、疾うに渇いてしまった。喉を鳴らしながら水を飲む。
「はぁ……はぁぁ……」
水分を補給し終えると、井戸の横に座り込む。咽過ぎた所為で痛めた喉が、少し和らいだ気がする。
「にゃ?」
「貴方も、お水を如何ですか?」
傍に寄ってきた白い猫に桶から水を掬い、手を差し出す。随分と長い時間を歩いた。俺の喉が渇いていたならば、体が小さい白い猫はより喉が渇いている筈だ。
「にゃ……」
「此処まで案内ありがとうございました」
予想通り喉が渇いていたようだ。白い猫は水を飲み始めた。
此処まで誰にも遭遇することなく辿り着くことが出来たのは、この白い猫のおかげである。俺が放り出された『秘密の抜け道』の出口は、初めに出た所から離れていた。王城の敷地内であるから、舗装された道もあるだろう。だが、俺の事情を把握した様な道案内に助けられた。
加えて、クロッマー侯爵の悪事を証明する証拠品まで見付けてみせたのだ。単に猫であるからと片付けられない、理由がある様に感じる。
「んにゃ」
「おや、お疲れの様ですね」
水を飲み終えた白い猫が、俺の手に頬を寄せた。柔らかい毛が擽ったい。道案内をしてくれた恩人の、喉や背中を優しく撫でる。すると白い猫は瞼を閉じると、喉を鳴らし始めた。
「さてと……如何するかな……」
白い猫を撫でながら、今後のことを考える。
王城の直ぐ傍までは来ることが出来た。後は王城で行われるパーティーに、どの様にして潜入するかだ。厨房を通れば王城には入ることは出来るだろう。だがパーティー会場は騎士団が警備をしている筈だ。招待状を持たない俺が会場に入ることは叶わないだろう。
加えて、クロッマー侯爵の配下と遭遇すれば全てが徒労に終わる。黒幕の配下たちに、俺の存在を知られずに会場に潜入するなど不可能だろう。此処からは誰かの協力が無ければ、パーティー会場に入ることは出来ない。
協力者で思い浮ぶのは第二王子だが、彼の状況は分からない。接触するのは避けた方が良いだろう。
「っ! んにゃ!」
俺が考え込んでいると突然、白い猫が金色の瞳を見開く。そして飛び上がると草むらの中へと駆け込み、姿が見えなくなった。
「……あ、行ってしまった……」
俊敏な白い猫の動きに啞然とする。如何やら道案内中は、俺の歩行速度に合わせていてくれたようだ。
「おっ! ライト! こんな所にいたのか!?」
「……料理長」
『調理部門の菜園』の入り口から、料理長が手を振りながら歩いて来た。




