第百六話 前世の記憶①
大学の研究室。
『ぐすっ……ひっく……』
目の前には泣きじゃくる女性が一人。大学院生の先輩である。
『……そんな……教授が研究結果を盗み、更には論文を盗作していたなんて……』
俺たちの前に広げられた資料の山を見ると、俺は思わず呟く。信じられない内容だが、先輩から提示された資料が話しの内容が真実であること示している。
大学に入り二年目、俺たちに良くしてくれている先輩から助けを求められた。先輩の研究内容や論文が、全て教授に奪われていたのだ。
教授は有名な専門誌にも載る程、著名な教授である。その功績の殆どが、先輩の研究を盗んで得ていたことなのだ。その事実にショックを受けるが、納得をする部分がある。
俺も教授の講義を履修しているが、講義中は一切質問に答えない。質問がある場合はその内容を紙に書き事前に提出し、後日回答を記した紙が渡されるのだ。講義を取り始めた頃、その形式を疑問に思い教授に訊ねたことがある。その時は講義の時間を減らさない為だと
言われ、納得してしまった。
しかし今に思えば、自身が研究していない研究内容や論文について答えることが出来ないからだろう。後日渡される回答も、先輩に書かせていた筈である。
『信じられないが、事実だ。証拠も充分に揃っている』
俺の隣に居る友達が、冷静な意見を告げる。先輩は俺と友達を信用して、教授の悪事を明かしてくれた。その信頼に応えなければならない。
『そうだな。このことはしっかりと、報告しないといけない』
友達の言葉に頷くと、決意を固めた。
〇
『教授。貴方が先輩の研究結果を盗み、論文も盗作したことは既に明らかになっています。自身の罪を認めてください』
大学の研究室。俺は教授に証拠品を提示する。
先輩から提供された研究内容と、論文に関しての資料だ。本当に研究を重ね、論文を書いた本人にしか提出することの出来ない証拠品である。
『……っ!!? な、何を……言っているのだ……貴様ら、私を誰だと思っている!?』
予想外の出来事に教授は憤慨し、顔を赤くした。立ち上げると怒鳴り散らす。
『既に学部長と理事長には報告済みです』
友達が冷静に状況を告げる。
俺たちは事前に学部長と理事長に、教授の行いを伝えてあるのだ。そして彼等はその状況を重く受け止め、教授の解雇を決めた。大学側も味方をしている言い逃れは出来ない。
『なっ! 貴様っ! 裏切ったな!!』
状況が悪いと判断した教授は、俺たちの後ろに居る先輩へと怒声を飛ばした。




