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論破してみたら一石二鳥した~乙女ゲームに入りこんだモブなので、婚約破棄の場面に乱入してみた~  作者: 星雷はやと


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第百三話 脱出⑤

 

「はぁ……漸く静かになった……」


 水音を立てて立ち去る音が完全に消えてから、俺は扉に凭れ掛かる。足元に広がる酒と、クロッマー侯爵の存在に気持ち悪さが限界だ。


「ゆっくり休んでもいられないな……」


 扉から体を離すと、壁に手を当てながら隣の部屋へと進む。漸く『秘密の抜け道』から脱出をすることが出来るのだ。先程クロッマー侯爵が言っていたことが本当ならば、後数分後には火が放たれるだろう。度数の高いワインが気化している。そこに火が点いた矢を射られたら、即座に引火するだろう。下手をすれば爆発をする可能性もある。

 その前に『秘密の抜け道』に入り、遠くに逃げなければならない。だが、ワインの臭いを嗅ぎ過ぎた所為か体が重く鉛のようである。

 更に言えば、床に広がったワインが足に纏わり付く様に感じられ気分が悪い。ワインは床の木々に染み込み、一センチにも満たない水溜まりを作っている。歩みを進める毎に、それらを踏みしめると嫌な水音が響く。まるで俺をワインの水溜まりに、引きずり込もうとしているかのようだ。


「はぁ……火は点けられないな……」


 壁を伝いながら『秘密の抜け道』がある暖炉の前に辿り着く。幸いなことにこの部屋までは、ワインが染み込んでいいないようだ。上着のポケットから蠟燭と燭台、マッチ箱を取り出すが暖炉の上に置く。引火する可能がある。『秘密の抜け道』の中まではワインが染み込んでいることはないかもしれない。

 しかしワインが気化している状態では、何が原因で引火や爆発するか分からない。この証拠品は絶対に守らなければならないのだ。上着を脱ぐと腹に巻き、リベリーナの無実を証明する証拠品を守る。


「さてと……」


『秘密の抜け道』へと入る暖炉のスイッチを確認する。


 火が使えないということは、『秘密の抜け道』の暗闇を手探りで進むしかない。幸いなことに事前情報がある為、絶望的な状態ではないが余裕もないのだ。

 以前は灯りがなかったが、時間制限は無かった。しかし今回は灯りが無い上に、時間制限がある。加えて、クロッマー侯爵とワインの所為で体の動きが鈍い。この状態で暗闇の中を追われる様に、四階分の階段を一度に降ることになる。


 だがクロッマー侯爵たちが外に出て、火の点いた矢を射る迄の時間は少しだけある。


 その根拠は、相手が嫌になる程の用意周到であるクロッマー侯爵だということだ。クロッマー侯爵とハリソン伯爵は、大量のワインで足元を濡らしている。ハリソン伯爵に関しては樽を割っていたことからも、他にもワインが付着しているだろう。引火することを避けたい筈である。

 そのことからも自身の安全確保が完全に出来る迄、矢を放つことはないだろう。火が点けられるまで、猶予は五数分前後だ。


 ハリソン伯爵が叫んでいた声からして、正面玄関からこの部屋は一番離れている。引火や爆発をしたとしても、被害は受けづらい位置だ。

 しかし問題は螺旋階段の部分である。途中で爆発の影響により階段が倒壊する可能だ。それにより『秘密の抜け道』の使用が困難になる場合、退路が無くなる。加えて建物の倒壊により、俺が生き埋めになることも回避しなければならない。リベリーナの無実を証明する証拠品を燃やすことも、失うことも許されないのだ。


 螺旋階段を急ぎ下り、横に繋がる道へと飛び込むしかない。離宮が燃えた状態で『秘密の抜け道』の横道に入れば、『秘密の抜け道』を焼くことになる。『秘密の抜け道』に火が広がることを防がなければならない。時間との戦いだ。


「はぁぁ……よし、行こう」


 深呼吸をして呼吸を整えると『秘密の抜け道』のスイッチを押した。そして暗闇が広がる螺旋階段へと足を踏み入れた。




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