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第一話 断罪ルート

「リベリーナ・フォルテア公爵令嬢! 俺はここに君との婚約破棄を宣言する!」


 卒業パーティーが行われている大広間に大声が響く。発言者はこの国のルイズ王太子殿下である。彼の言葉に、集った老若男女に困惑の色が広がる。


「……はあ。始まったか……」


 ただ一人、俺は壁に寄りかかりながら溜息を吐いた。いくら物語の展開を知っているからとはいえ、この後のことを考えると頭が痛くなる。


 突然だが俺には前世というものがあり、その時に友達から勧められた乙女ゲームがある。そして何故か俺はその乙女ゲームの世界に転生した。因みに俺は地方貴族であり、男爵家の三男である。王太子の取り巻きになることもなく、作品の中にも登場することのない存在。つまりモブ中のモブだ。


 そんな俺も一応は貴族な為、王都の学園に在学している。要はこの機会に上流貴族に取入り就職先を見つけるか、良い婿入り先を見つけろというものである。地方貴族の三男坊には家督を継ぐ必要も期待もないが、上流貴族からすれば魅力のない物件だ。

 一応、俺の将来を考えて王都の学園へと進学させてくれた家族には感謝しているが、この展開には遭遇したくなかった。しかし俺も卒業生な為、この卒業パーティーに参加をしている。余談だが、今のところ上流貴族に取入ることも、良い婿入り先も見つかっていない。


「ルイズ王太子殿下! 何故ですか!?」


 美しい女性が王太子に声を上げる。絹のように輝くブロンドにサファイアのような瞳。彼女こそこの乙女ゲームの世界において悪役令嬢と名高いリベリーナ・フォルテア公爵令嬢である。周囲からは悪役令嬢と知られているが、友達の大好きで推しキャラクターだ。


「『何故か?』自分の胸に手を当てて考えてみろ! イリーナに散々酷いことをして来たのを忘れたのか!? 他にもお前の悪行は山のように報告されている!!」


「リベリーナ様……酷いですわ……私のことを田舎者と……」


「なっ!? イリーナ様!?」


 王太子の後ろから姿を現した可愛らしい容姿の女性。彼女はピンク色の髪にエメラルドの瞳を持つ、イリーナ・フォロン子爵令嬢である。このゲームのヒロインだ。彼女の怯えた表情は周囲の同情を買う。


 如何やらこのヒロインは悪役令嬢断罪ルートを選んだようだ。悪役令嬢断罪ルートとは、その名の通りリベリーナ・フォルテア公爵令嬢を断罪し、王太子を彼女から奪い取り婚約し全ての人から愛されるルートである。

 ゲームでは和解ルートなどもあるが、このヒロインはリベリーナを断罪するルートを選択した。


 ゲームの内容では『リベリーナ・フォルテア公爵令嬢』はヒロインを虐めたとして、婚約破棄され国外追放されるのだ。この卒業パーティーは彼女を断罪する為に用意されているのである。


「僕がイリーナと真実の愛に目覚め、彼女のことを愛しているからとはいえ! 何も悪くないイリーナを虐げるなど、公爵令嬢にあるまじき行為だ!!」

「……っ?! お待ちください、殿下! 私がイリーナ様を虐げるなど……決してその様な行為は致しておりません!」


 ヒロインを抱き寄せると、王太子はリベリーナを鋭く睨む。その態度に驚愕しながらもリベリーナは無実を訴える。


「この期に及んで言い訳など見苦しいぞ! こちらには証人たちがいるのだぞ!」

「俺はリベリーナ様がイリーナ様を階段から突き落とす所を見ました!」

「私は卒業パーティーの為に用意されていたイリーナ様のドレスが破られ、それがリベリーナ様のロッカーから出ているのを見ました!」


 王太子の言葉に示し合わせたかのように、一組の男女が横から現れた。そしてリベリーナの悪事を肯定する。


「……っ、そ……そんなっ……」


 身に覚えのない行いに対する証言者の登場に驚き、彼女は顔面蒼白である。


「婚約破棄の件については、僕から父上と公爵に伝えよう! リベリーナ! お前のような悪女がこの国に居てはイリーナが安心して暮らすことが出来ない。お前は国外追放だ!」

「なっ……」


 再び周囲に動揺が広がる。この国の宰相を勤めるフォルテア公爵家の令嬢との婚約破棄。その上、リベリーナの国外追放命令。正常な思考を持ち合わせている者ならば、困惑して当然である。


「……嗚呼、そうだ。国を出る前にイリーナに謝罪をしろ! 床に額を擦りあわせ、イリーナの慈悲を請うが良い!!」

「……っ……」


 追い打ちをかけるような要求に、遂にリベリーナな言葉を失い俯いた。


「さあ! 早くしろ! 今までの己の悪行を認め、イリーナに謝れ!!」

「リベリーナ様……罪を御認めになってください! そうすればルイズ様に国外追放を取り下げていただき、シビア修道院に送って頂くように私がルイズ様にお願いします! ですから罪を御認めください!」


 謂れのない罪への謝罪を要求するルイズ王太子。更にヒロインであるイリーナは減刑を進言する。一見すると慈悲があるように見えるが、シビア修道院は貴族で問題を起こした者が収容され戒律の厳しい修道院である。国外追放よりも好待遇に聞こえるが、その実は厳しい監視下に置かれ国外追放よりも辛いものになるだろう。


「イリーナ。……君はなんて慈悲深い女性だ! こんな悪女を庇うなんて!」

「ルイズ様……そんな……」


 世間知らずか頭の中が空っぽなのか、王太子はヒロインの言葉を真に受けている。見つめ合う王太子とヒロイン。イリーナは恥じらうように王太子へと擦り寄ると、笑った。


「……っ!……」


 その笑みを受け、俺は両手を強く握る。イリーナは悪役令嬢断罪ルートを選んだ。謂れのない罪を作り上げ、リベリーナ・フォルテア公爵令嬢を断罪し、王太子を彼女から奪い取る選択をした。つまりイリーナは悪意を持ってリベリーナを断罪している。

 この世界は乙女ゲームの舞台だが、イリーナがプレイヤーかは分からない。俺と同じ転生者か、向こう側から参加しているプレイヤーなの如何かはどうでもいい。ただ悪意を持ってリベリーナを糾弾し非難し、良いヒロインを演じているイリーナが気に食わない。


「さあ!! リベリーナ!! 赦しを請え!!」

「……っ、くっ……」


 王太子の大きな声での催促に、リベリーナが膝を折ろうとした。


「失礼」


 俺はリベリーナを背中に庇うようにして、ルイズ王太子の前に立った。




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