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桑都エケベリア  作者: 富良原 清美
1,神のお口付け
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1-5,神のお口付け

次→4月19日(土)20:00


一章終わりです。


初投稿作品です。大いに褒めてください。

「しらーーーーーーーー。」

てんてんてん。

かっけぇくてあっちぃ雰囲気、だだ下がりである。知恵の実のぷつぷつした感触を思い出し、指でいたずらに転がす。

誰だよ、儀式名『お口付け』とかにしたやつ。神の世界へと、住まう層、レイヤーを変える儀式。めっちゃ重要な儀式にそんな名前がついてたらさ、ほら、ノーカンなあんな行為とかこんな行為とかすんのかなーってちょーーっと?思っちゃったじゃないか。ノーカンな?儀式的行為?みたいな???

(最後に図星をついて帰るなあの人外はっ!)

わなわなと。ただし、

「……ぁ……っ!?」

(あれ、上手く、こえ出なっ)

声が声になっていない事に、私は体のリミットを思い出す。そういえば急がないと消えちまう。急に焦りを覚える。体は相変わらず重い。感覚も鈍い。どの筋肉も全然動かない。転がしていた実の感触も気づけば感じられない。あれ。知らないうちに床に落としてしまっていた。拾い上げる気力もなく、手近な実を新たにちぎりじっと見つめる。まだ青白い実。知恵の実。これを口に含めば私は神の世界の住人。無常にさようなら。人の信心。私がやるべき事。体を手に入れてやるべき事。

「……みんな」

墓のシロいのたち。地蔵たち。私を感じてさえずり、鳴いていた鳥や虫たち。寺のみんな。みやちゃん。

皆が私を感じることは、もうないけれど。でもちゃんと見てるから。私はこっちから皆に幸福を授けるから。

「行ってきます」

顔を落とす。

前髪が浮き実を影で覆う。

片手でで髪を耳にかけ直す。ひだり。みぎ。

実を半分転がす。

親指をくっと反らす。

舌先が歯より前に出る。

目を閉じる。

唇に触れたその実が口に入る。


甘……くはない。見た目からして青白そうだったし。ぷつぷつした感じは見たまんま。食べては駄目、呑んでも、噛んでも駄目。

「……?」

一瞬の間。血?が巡る?感覚。ん、いや。


「……っ!!!」


呑まないように、吐かないように、口を閉じて堪える。目が大きく開く。

真っ白い糸が全身から出てくる。これは、絹糸……?いや、生糸か。撚っていない、蚕から今吐き出されたかのような、まっさらで、もったりとした、細い糸。どろっと、私から分離するように。不定形にうねうねと動きながら、しかし、私と似たような形か……?少しだけ人型に近づきつつある。

(人型になろうとしている、のか)

とろけるような生糸のかたまりが私から完全に分離する。いつの間にか、落としていた実を踏んでしまっている。足の指先に砕けた実が絡んでいる。

(おわ、おわ)

うわ、なんか全然力入んない。次は、次は何すればいいんだっけ。次なんかあったっけ。やば、今なにしてんだっけ。あえ、ここどこだっけ。

(なんか……くらくらする……)

頭が回らない。ぼーっとする。砕けた足元の実で指の間が気持ち悪い。指をちょっと動かす。なんとなく安心する。

目の前のなんとなく人型生糸がほとんど人型生糸になって、確定人型生糸になる。

真っ白だが多分同じ背丈。多分同じ髪型、同じシルエット。なるほど、これは。

(私自身、か)

整った鼻にあどけない口元。揃えられた長い髪。シンプルなシャツにリボン、着物。

(傍から見ると、なんとまあ)

自分で言うのもなんだが端正である。めっちゃ神っぽいな……。誰だかがどこだかに描いた吉祥天ってこんな感じじゃなかったか。

ふわふわな頭でまじまじと全身を見つめる。人型、もとい私型生糸はふわりと立ち止まったまま動かない。目は閉じられている。眠っているみたいだ。まつげ、長いな。というか目ってどうなってるんだ?

ぽやぽや。後ろで手を組んで、ぐっと顔を覗き込んでみる。近くで見ても、なんか、すごいな。特に、くちびる、とか。


(その名の通り、甘美な時間だからさ。せいぜい楽しみなよ、ラクシュミィ)


あ、分かった。


いやに吸い込まれそうな生糸の艶。言われずとも、ねえ。真っ白い頬に手を当ててみる。すべすべ。

(あっはは、首あつー)

言われなくとも、次にやることが何となくわかる。今は確信がある。神の儀式。その名は「お口付け」。こうだろ。儀式の完成は、これだろ。


そうだ、お前に名前やるよ。首を少し傾ける。今日から私は、ユキヨノクチドケ。


「んっふふ、こぇ、あげう」


あん


はむ


すり


くち


ちょっと失礼。親指で口の端を抑える。やば、唾液めっちゃ出る。


ぐち


ぐち


わー。


うあーーーーーーーー、


あーーーーーーーーーーーま。


つぶつぶが消えていく。糸が解けていく。私は、ユキヨノクチドケは、身を任せて目を閉じる。

口から、全身へ。余すことなく温かさが広がっていく。ぼーっとする。眠たい。体が重たい感じが、いつの間にか無くなっている。温かいくらくら感をそのままに、様々な感覚を覚えていることに気づく。んー。もう少しだけ。

「んっ……んむ……っは」

石畳を足裏で感じる。血が巡っている。閉じたまぶたがぴくりと動く。粉雪が降っている。ゆっくりと、目を開ける。


暗い夜。雪夜。吉松院。立っているこの体。


そんで私は


「んぅ……?」



ひとっつも知らん誰かと、ちゅーしていた。


次→4月19日(土)20:00


カクヨムでも投稿予定です。同じ名前です。好きな方で読んでいただけますと。


執筆用のツイッターはじめました。(@Huraharakiyomi)

ここまで読んでいただける皆様ならきっと仲良くなれると思います。


では。

JKよりJD派の富良原より

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