1-2, 神のお口付け
初投稿作品です。大いに褒めてください。
(ふいー、もう夜か)
鳥居をくぐってすっかりただの概念へと戻ったラクシュミーこと吉祥天こと私は、かなり真っ暗な見晴台にいた。大体の位置関係がわかっている人でなければ鳥居はおろか、見晴台への道すじすら分からないだろう。月の光といっても頼れるほどではなく、子供でなくとも後ろを振り向くことが躊躇われるような、そんな雰囲気すら感じる。
私はふと向こうの景色を見やる。夕方の美しさとは全く異なった、暗い夜空に影を落とすような真っ黒な高尾山の影が見える。
(まあ、なあ)
なんとも形容しがたい感じだ。別に体を持って口で暮らせないわけじゃない。世界の層が、レイヤーが変わるだけ。それでも選択肢はありえない、断るしかない、と思う。
ふよふよと見晴台を出て境内を下る。左には九体の地蔵が、右には墓場が見える。地蔵達が私を目で追う。そばを通過すると、すっと一列になって後を追ってくる。
墓場の皆も徐々に私に気が付く。シロいの達が一人二人、気づけば通路脇にそって目で追ってくる。
やっぱり良いよなあ。改めて思う。人にも、人じゃないのにも、今の私とそれらとの間に壁が何も無い感じ。全てと直接触れ合えている感じだ。まあ、実際には触れられないんだけど。
(お、)
「ゆきだー!」
おわ。玄関扉を全開にしてはしゃぐのは、寺社の娘のみやちゃん。降り出した瞬間に気づいていたがエスパーか。
「こおら、冷えるでしょう?暗いし、早く扉閉めなさい」
すかさず母親の声。
「あぅ、ごめんなさい。でもさ、でもさ、つもるよね?おかあさん。ゆきのうさぎちゃんねぇ、つくるから。のいちごとっといていーい?」
「閉めなさい、とお母さんが言っているだろう?閉めなさい。」
お、みやちゃんのおとん。のっそりと彼女の半纏を持ってやって来た。ふんふん、と小さな半纏に小さな腕を通すみやちゃんを横目に外を眺める。
「残念だけど、積もらないと思うぞ。これじゃあ、少し降って止む」
「そんなあ」
大分しょんぼりしている。
「じゃあ、お地蔵様にかさかぶせたのもいらなかったかなあ」
あら可愛い。
「いみなくなっちゃった」
「はっは、そうかい……。みや、無くなってなんかないさ。そういう優しさをお地蔵様は見ていてくださるんだ。みやはとても大切なことをしたんだよ」
確かに見てみれば地蔵さんみんなが笠をしている。気づけば隊列は崩れていて、雪を追っかけぴょんこぴょこ、ぐるぐると、さっきのみやちゃんに負けないはしゃぎようである。もちろん人には見えない方が、だが。
「さあ、もう入りなさい。母さんの手伝いをするんだ。今夜は鍋だよ」
「おなべ!おかあさん、わたしがうどんいれたげる!」
扉が閉まる。すぐにいい匂いと湯気が漂ってくる。みやちゃんは良い子に育つんだろうなあ。地蔵たちにも気に入られるわけだ。
彼女は家の手伝いを良くする。冬でも嫌がらずに冷たい水で洗濯し、米を研ぐ。それでもその小さな手足がひび割れたり、しもやけになったりしたことは無い。地蔵たちが冷えから彼女を守っていることを、私はこっそり知っている。
(この美しい家族に幸多からんことを)
温かい住職を持って神冥利につきる。村の人々はもとい、彼らにさらなる幸福を、と。
「おなべおいしいくて、えがおになっちゃうねぇ、えへへ」
「あらみや、あなたえくぼができたのね」
「えっ!ほんとう!」
今日は普段より多めに幸せを授けたのだった。
授けたよな?
私は、確かに授けたよな?
なんで?
なぜ今、家が燃えている?
次→4月8日(火)20時
カクヨムでも投稿予定です。同じ名前です。好きな方で読んでいただけますと。
執筆用のツイッターはじめました。(@Huraharakiyomi)
ここまで読んでいただける皆様ならきっと仲良くなれると思います。
では。
JKよりJD派の富良原より