3-10,神以外が永遠だと思わないこった
次回→6月17日(火)20時
※土曜日の更新はちょっと別のものになりそう
これで三章は終わりです!
「な、な、なんなん゛!?」
私無理、あの寿郎尊さん。
(逃げやがった肩たたきはとりあえず許さないとして……)
「責任」を何か勘違いされた気がする。帰りたい。
「じゃあ帰ろっかぁ、ラクシュミィ」
「あ、帰りたくないなぁ」
怖。いつでも会えてしまうようになると、高尾はこうなるらしい。
(え〜……でも肩たたき君帰っちゃったみたいだし、ついて行くしかないか……?あ、そういえばオーナァとサラちゃんは)
「たまの痴話喧嘩は、永遠の時に沁みるにゃあ……帰ったらお酒飲も」
「サラにもください!ツケで!」
「もはやすごいなお前」
役に立たねえ。
「ラークシュミィ〜」
「あー……まあいいか。じゃあ高尾山で一緒に飲む?」
「ふへ、やったぁ」
イケメンめ、微笑むな。
「愚痴メインになると思うけど良い?結婚とか大袈裟なのよ……その辺をね。しっぽりと」
「うんうん、いっぱい聞くよ」
「責任っても必要ある?ねぇ、一回舌入れたくらいで」
「え゛?」
「あ、野太い」
今朝は濁点オンパレードらしい。
「まあ毘沙門君の重大かつ誠に遺憾たるその責任については後々“聞く”として-」
「高尾は私の何なのよ」
「もうね、とりあえず高尾山行こうか。飲んでお話してっていうのもあるし……大切なお話も、ね。」
端正な顔が、ことさらにスっと整う。目まぐるしく変わっていく空気感、慣れない。
「う、うん。分かっ-」
「ときにおゆきち」
「-って、え゛っ!?」
背後に人。じゃなくて神。多いなこのパターン。驚愕と濁点の宴すぎる。
「ンな驚くか?忍び足ってわけでもねェと思うンだけど」
気が付かなかった。いつの間にか戻ってきていたらしい燧石が背後から現れる。
「あれ?あんた帰ってきたの……?」
「え?言わなかッたか?」
「えー、どうだっけ……」
さも当然そうに戻ってきた燧石。ただし、その手には、
「それ……」
「ん?あぁ、おゆきちは一週間ぶりだろ……『知恵の実』」
ポンポンと右手で弄んでいるその白い実は、まさしく例の桑の実だ。燧石はこれを取りに行っていたということになるが……。
「えっと、つまり?」
「これ便利でなァ。外見イジくれるんだわ」
「えっ、まじ?」
そんな便利な代物だったのか、それ。
「あァ、でも基本的な身体の特徴は変えられねェよ?全体的な雰囲気とかは変わらん。底の信心が基だからな」
「それに、毒だしね」
高尾も補足する。
「ユリの毒をちょっとずつ体内に入れる感じかなぁ、バクバクいくと突然バタンするよ。だからラクシュミィが今食べるのとかは、危険」
「た、高尾」
「なぁにー?ラクシュミィ」
「力が強いっ!」
「おぇ?」
「肩から手を離してっ!ワナワナしないで!肩たたき君に殺気を向けないで!」
「あはは、高尾山帰ろうよ早くねえねえねえ」
「?おゆきちは俺と帰りますが」
「話を拗らせるなぁっ!!」
やだ。この子ら。
「肩たたき……。いいわよ、もう。本当にさ、私も納得しているし、適度な感じで楽しくやっていきましょうよ」
「そうそう、帰れー。まぁ逃がさないけど」
「高尾は一旦黙っててね」
「……失礼ながら、我が主」
燧石が静かに口を開く。やばい、これ以上何かを始めないで欲しい。
「これは……誰でもない、私のケジメです。大勢に迷惑をかけましたこと。主様と親交の深い彼女、雪夜口溶に失礼を働いてしまいましたこと、深く反省しております。」
「…………え?」
普通に喋れるのか、こいつ。
「ふぅん、で?」
「はい。ともかく、私は一度約束した事は曲げたくありません。私は負けた。私は彼女に代わって『妻の役目』を全て果たす所存です。」
「その彼女が望んでないのに?」
「……証明します。彼女は必ず俺を望む」
(は?私がこいつを望むって?)
燧石はうなだれて立ち上がる。
「……おゆきち、まァ見てろ」
「え、ちょっー」
何か言う間もなく、目の前の赤髪は躊躇なく知恵の実を口の中に放り込む。表情も見えず、俯いたまま動かない 。
そして、一瞬の間の後-
どろり
彼の体のそこかしこから真っ白な糸が漏れ出てくる。細くも艶めきのある糸が溢れ出て、まるで身体中を這っているような様は、神秘的でもあり官能的でもある。
「わ……」
思わず声が漏れる。涎が垂れてきて、慌ててパシッと口を覆う。燧石の邪魔をしたら悪いと思った。確か、噛んでも飲んでもダメだったはず。
彼はふるりと身体を震わせ、俯いたまま更に縮こまったかと思うと、少しずつ背を伸ばしていく。その視線の先には、生糸でできた人影。彼と同じ身長、同じ髪型。しかし、その体つきが少しだけ違う気がする。燧石の体つきが逆三角形ならば、目の前の人型は三角形だ。
(まさか、本当に)
目が離せない。くまなく見ていたい。時間が流れることがこんなに悔しいと思ったことは無かった。
「ん、んん」
生糸が完全に燧石の体を離れる。彼は口元をきゅっと結んだまま、肩で息をしている。惚けて、頭が回っていないことを示すような目。上気した頬。口元を手で覆う。妖艶だ。いや、いや……正直、
「えっろ……」
燧石が口元を押えたままの姿勢でこちらに気がついて、
「んふ」
笑う。
「っ!?」
-瞬間、生糸の人型が崩れる。崩れたそれは、再び元の身体を覆って、繭玉のように彼を隠してしまう。
(あぁ……)
良かった。残念だけど、良かった。今何かが開花した気がする。
(お口付け、か)
ネーミングセンスよ……と思っていたが、傍から見たらこれか。大分オブラートに包んでくれていたようだ。
そうこう考えているうちに、生糸がするりと解けていく。燧石の姿は足元から徐々に見え始める。
しなやかな脚。大きめの骨盤。
(あれ、姿が何か……?)
真っ直ぐ伸びた背中。主張が少しだけ増えた胸。彩りを与える、鎖骨の真っ赤な刺青。
(え、え、本当に)
ほっそりとした腕。傷だらけの顔、しかし赤子のように透き通った肌。赤髪の長さと三つ編みは変わらず、こちらも産まれたてのような艶を放っている。
「ンっ、ンんっ……。あ、あー。あー?あー。」
荒っぽい声。しかし、しかしどう聞いたって喉仏があるような声じゃない。明らかに高い。
「ん、良い声だな。気に入った」
燧石は口元に添わせていた手を離し、冠の位置を調整する。帯をきちんと結んでいない着物が危なっかしく揺れる。
「ちょ、ちょっと、服!」
反射的に手を伸ばし、着物を引っ掴む。大分良くない気がしたので、とりあえず帯を結び直させる。ただ、とっさに動いたはいいものの私だって体を持ったばかりなので、上手く帯を結んであげられない。
「あ、あれ、あれ」
「おゆきち」
帯を掴んで悪戦苦闘する私の手に、白い手が重なる。細い。柔らかい。青い血管が、本当に薄く手首に浮いている。
「ありがとう、後は俺がやンよ」
こ、声が、なんか高い。
「あ、はい……」
至近距離でバチりと目が合う。ん?と燧石が笑う。可愛い。
可愛い。
「はぇ……?」
「うお、ッと。おゆきち?」
「あれ、私……?」
気がつけば私は燧石に支えられていた。腰を抜かしたのか、もしかして。
「あっはは、まだ頭ふらふらすンなぁ。腕に力入らなくなったらごめんな?おゆきち」
帯をしっかり結びきれていなかったらしい。目の前に見える肌が目に毒すぎる。
「え、あ、えっとー、」
「なんだよ。あ、もしかして……この顔気に入ったか?んっふふ、この面食い」
赤い目。長いまつ毛。赤い唇。
「あ、わ、ひゃ」
「嬉しいよなァ、こんなべっぴんさんを娶れて。本望だなァ?」
「へ、はへ、あえ」
「ははッ。これからよろしく……マイ・ハニィ?」
「……うん。わたしの、およめさん……っ!」
「え、ちょ、ラクシュミさん?」
話はまとまった。
「よしよし……。我が主、そういう訳です。じゃ、家帰ンぞー。おゆきち、悪いが布団を敷いてくれねェ?少しだるい」
「ぁ、ねぇ、さっきの、あの」
「あ?……あァこれか?『マイ・ハニィ』?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!うんっ!!美味しいご飯も作るねっ!!」
「ら、え、ラク、ラクシュ」
「じゃあ、高尾!松姫レトロの皆さん!披露宴の出し物は頼みました!」
「うにゃ」「はい?」「ラクシュミ、」
間。
「「「えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」」」
恐るべき変わり身の速さ。だが仕方ないと思う、どタイプだったのだから。誰も彼もが眼中に無くなった私は、意気揚々と帰宅する。これからの住処。そう、“私達”の家、吉松院へ。
次回→6月17日(火)20時
※土曜日の更新はちょっと別のものになりそう
これで三章は終わりです!
やっと百合カップルを生成できました!私は某ラブライバーなので、ファンタジーに男の影は最低限でありたいです。
カクヨムでも投稿予定です。同じ名前です。好きな方で読んでいただけますと。
執筆用のツイッターはじめました。(@Huraharakiyomi)
ここまで読んでいただける皆様ならきっと仲良くなれると思います。
では。
JKよりJD派の富良原より




