1-1,間 神のお口付け
初投稿作品です。大いに褒めてください。
繭玉がほつれる。巻き取られるようにするするとそれは解ける。それは八本の長い絹糸となって、彼の指に収束する。しばらくすると糸の一本も見えなくなり、ぽつんと高尾山の山頂に高尾だけが立っていた。
吉祥天と会う前はまだ見えていた太陽は既にもう隠れ、白く見えていた月が代わりに、とでもいうように煌々としている。夜の暗さ、不気味さはほとんど感じられない。
高尾は黙ったままいたずらに指を弄ぶ。絹糸が数本指に絡んでおり、動かす度に皮膚が軽く張る。月光に絹糸が、透明に光る。
彼は何か触りたい、とでもいうように腕を前へ伸ばす。まっすぐの少し下、吉松院のある丘の方角。向こうからなら克明に見える高尾山だが、こちらからは視認できない。麓は遠く、月光の下でもただの闇が広がっている。
(何十年と勧誘してきたが)
はあ、と息を吐く。ため息が白く染まる。
「惜しいよなぁ」
平たい岩に腰掛ける。山水図のような絵柄が装飾された、絹製の敷物が敷いてある。
よく見ると周りの木々には絹製のタペストリーが、大きめの山小屋には絹製の暖簾がかかっており、座れる場所には全て絹製の敷物が置いてある。人間世界とは違った、異様で絢爛な「口」の風景だ。
「煌びやかな装飾ほど月の光くらいが似合う。稚拙な月光でぎりぎり見られる部分と、暗すぎて見えない部分がある。それが良い」
「……おっしゃる通りかと」
いつの間にかそばにいる人影に、しかし高尾は振り向きもせず言葉を続ける。
「勧誘はやめた」
「はい」
事務的な返答が返ってくる。
「惜しいよなあ、女々しいか」
「神一人で何か変わるということはありません」
冷たい返答が返ってくる。
「それより、昨夜の小火騒ぎについてですが、あなた様にはことの収拾を早急につけていただきたく―」
「変わるよ」
高尾は話を遮る。いや、もとから相手の話を聞いていなかったというふうだ。
「『八』王子なんだ、ここは。七ではキリが悪い」
「……皆、茶屋前に集まっています。ご指導として、お言葉を二言三言」
「分かったよ……そろそろ酒を飲みたい」
高尾はゆっくり立ち上がる。する、と落ちかけた敷物を手でおさえ、大事そうに敷き直す。絹で彩られた山道を下っていく。ぽつんとひとりごつ。
「一昨日も話したのに、話すことなんてないよ」
カクヨムでも投稿予定です。同じ名前です。好きな方で読んでいただけますと。
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ここまで読んでいただける皆様ならきっと仲良くなれると思います。
では。
JKよりJD派の富良原より