2-4,その出会い
次→5月6日(火)20時
2章お終いです!次回は一旦キャラ設定放り投げるかも……(時間稼ぎ)
「編み目に玉葱をねじ込んでみた……ちょっと待ってろ。確かこれで目の前一面、底を覗ける」
「これが……」
球体は輪になり、四角い枠のように変わる。
「……?」
枠が広がっていく。向こうに見える吉松院は、
「……っ!」
「気づかなかったが、大変だな。向こうは」
-轟々と燃え盛る大火が、家全体を包んでいる。
四角い枠はどんどん広がり、前方全てを映し出す。これが、今の底の様子。こちら側の、静かで暗い雰囲気とはまるで別の場所のようだ。
「ぁ……あぁ……」
私の覚えている限りでは火はまだ二階には届いていなかったが。もはやこの家で火の手が回っていない所はないのでは無いか。
その炎の凄まじい勢いに空まで応え、雲すら赤を反射している。夜中にあるまじき大勢の人間の騒ぎ声が聞こえる。
近所の、いや、村中の大人が集まっているのだろうか。寒いだろうに。皆でバケツを運び消化に努めている。
「あぁっ……!?そんなっ……」
家の柱が、骨組みが、真っ黒になっているのが見える。
『おいっ、吉松の父さん!』
「はっ……!?」
誰かが吉松院の人間を呼ぶ声がする。思わず立ち上がり、前方に駆け寄る。
「座っとけ。意味ねェ」
燧石の声。
「俺らは底を覗いてるだけだ。干渉も何も出来ねえよ」
砂利の上に胡座をかき、前方を見つめたままの燧石が私を引き止める。炎に照らされて、彼の顔もまたちらちらと明るくなる。
何を考えているのかは、分からない。
立ち上がった姿勢のまま、目線を戻す。村の男と、吉松の父さんが会話している。
『あんたはもういい。一番疲れてるのはあんた達家族だろう』
『いやしかし、村の人達だけに消火を任せる訳には……』
『平気だ。もう時期勢いが弱まる。飛び火にさえ気をつければ、これ以上広がることは無いよ』
『だがっ……』
村の男は、疲れた顔をした父さんの肩を叩く。
『平気なもんは平気なんだよ。お前はそろそろ家族のところに行け。それが役目だ』
(家族……)
「あ……」
怖い。だって、だって、私が最後に見たみやちゃんは、
『おこしにいかなくちゃ』
まっすぐ見つめたそのままで『おじいちゃんとおばあちゃんがもえちゃう』
いつもの駆け足で
『待ちなさいっみやあっ!!!』
(あぁ……)
「怖いなぁっ……?」
私を私たらしめる彼らの心は、今何を考えているのだろう。いや、もしかしたら、もう、何も
「おい」
「こわいっ、怖いなぁっ……」
「おい、おんな……っ、ユキヨノクチドケ」
「ぇ、」
名前を呼ばれて、私は目をつぶってしまっていた事に気づく。
燧石をみれば、さっきと同じように前方を見ている。が、
「あれだろ、ほら」
その顔が柔らかさを帯びる。
「ぁ……」
彼が指さす先には、庭で、大勢の人に囲まれる家族の姿。
吉松の父さんが彼らに近寄る。一人ずつ、優しく、抱き合う。
座り込んでいた婆さんと。
たっぷりとしわを蓄えた爺さんと。
涙を流す母さんと。
そして、
「あ、あぁ……」
『おとうさんっ!よかったぁ!』
駆け寄り、抱きつく、みやちゃん。
『みや、大丈夫かい?怪我は』
『ないよ!へいき!…………っうぐ、うぅ』
『あぁ、泣くな、泣くなみや。無事なら良い。無事なら……っ。本当にっ、よかった……っぅ』
家族は全員で抱き合い、涙ながらに無事を喜び合う。
「な?平気だ。分かッたか?」
「あぁ……そうか、良かった……良かった」
安堵に、緊張が解ける。
「ん……人は強い。だから俺らが生まれる。誇りに思え」
「良かった、そうか……っはぁ」
一筋。
流れる。
伝う。
頬のこの、熱いもの。
「良かっ……ぅぐ、良かっだ……ぁ、うぅ、ふぇ、うぅ」
思わず顔を覆う。指で拭いとったはずの水滴が、一筋。また一筋。
「あぅ、ぐっ……うぅ、っふ、良がっ……」
拭って、拭って。
でもまた落ちて。
流れる。
流れる。
私の、初めての感覚。
生まれて初めての、体を持って初めての。
この切ない、苦しい、
それでいて温かい私の涙。
私が人の信心ならば。人の心から生まれた神であるのなら。私は貴方の為に泣きましょう。貴方が私に届けてくれたその信心。そのために、貴方の運命のために。私は永遠を引き受けて、涙を流しましょう。
「あぅ……うぅ……っ良かったぁ……」
地面に落ちた涙が、少しだけ雪を溶かす。
(私の涙は、その炎を消せやしない)
でも、でも。
ぽた
ぽた
ぽた
雪を溶かしてゆける。雪は必ず溶ける、春が来る。私は美と幸福の、かの女神。災いは転じて福と成す。その運命を変えられやしないけど貴方の明日を美しく彩りたいから、
(だから、だから、前を向いて)
「……希望の先に、幸福を」
手を組んで、祈る。
「安っぽいなァ……うん、でもまぁ、それがいいさ」
私は、しばらくそのまま泣いた。泣くために持ったこの体で、気が済むまで泣き、そして祈った。
燧石は絹の手ぬぐいをぶっきらぼうにこちらへ渡す。椿をそのまま縫い込んだかのような、綺麗な色。
「……拭きな。で、座れ」
「……ありがとう」
しばらくの沈黙。底を映していた四角い枠は徐々に薄れていく。音が遠ざかり、薄暗い風景に戻りゆく。
「……手ぬぐい。持ってそうもない見た目」
「うるせェ。織物だけは豊富なんだよ……ここは」
「……綺麗な色」
「おん」
しばらくの沈黙。枠が完全に消える。夜空がさっきより明るい気がする。赤が濃くなった手ぬぐいを折りたたみ、膝に載せる。
「あー。なんだ、すまなかったな」
首元に左手を当て、燧石が口を開く。膝上の手ぬぐいに手を伸ばして、逡巡した後そのまま引っ込める。
「お口付け直後だとは思わなかった」
「もういいわよ」
白み始めた空に気が付き、振り返る。ちょうど背後が東。びっくりするほど、いつもの朝。
「……二回目なのよ、今回で」
言う予定は無かったのに、なんでだろうな。
「火事ね。ずっと前、徳川の頃だけど」
燧石は自身の赤髪を編み直しながら、聞いているような。聞いていないような。
「どうにもできない事だったけど、自分が許せなくて。辛いことだから」
「そうか」
「だから、うん。今回は、良かった」
「そうか」
遠くの雲が紫色にたなびく。鳥のさえずりは、聞こえない。
「……髪。地面ついてンぞ」
「え」
見れば確かに、毛先が砂利とこすれて埃っぽくなっていた。
「あー、そっち見てろ。擦れると傷むぞ」
「……編んでくれんの」
「嫌か」
「……別に」
「あっそ」
しばらくの沈黙。しゅる、きゅ、と髪を編む音。
「毎朝、法華経を読んでる」
おもむろに赤髪が言った。
「……勤勉ね」
「来い」
「……」
「来い」
「気が向いたらね」
雪は、いつの間にか止んでいた。
「利益は、さぼらず授けろよ」
「日課よ」
「明日からだ。今日は休め」
私の長い髪を全て編み終わった頃、日が登ってきていたのだと思う。
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書いたり書かれたりしました。富良原です。
2章終わりです!燧石くん!
カクヨムでも投稿予定です。同じ名前です。好きな方で読んでいただけますと。
執筆用のツイッターはじめました。(@Huraharakiyomi)
ここまで読んでいただける皆様ならきっと仲良くなれると思います。
では。
JKよりJD派の富良原より




