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謝罪の言葉

 弟妹の手紙を手にして、僕は少し緊張していた。


だけどそれを読み進めると、意外なことが書かれていたんだ。


「お父様から病気のことを聞きました。


お兄様は文字が変に見える病気で、サボっていた訳ではなかったと。


寧ろ変な風に見える文字を、懸命に読もうと努力していたと。


僕はそれがわからなくて、ずいぶんとお兄様に酷いことを言いました。


きっと怒っているよね。

怒っていて当たり前だよね。


本当は僕が助けてあげなきゃいけない立場なのに、他の人と一緒になってお兄様を責めてしまったんだもの。


兄弟なのに。


ごめんなさい。

許さなくていいけど、謝らせてね。


お兄様がお祖父様の家に行ってから、いろいろと治療をして良くなったことを聞きました。


本当に良かったですね。


お父様から、演劇の写真も見せて貰いました。


とても楽しそうで、良かったです。


僕はお兄様に嫌われているから、きっとこんな顔はもう見られないですね。


でも、良かったです。

笑ってるお兄様を見られて。


どうかお元気でいて下さい。


お兄様の部屋はあの時のままです。

時々お手伝いさんがお掃除しているから、綺麗です。

すぐに使えるようになっています。



もし帰りたくなったら、いつでも帰って来てください。

僕も青葉も待っています。


青葉は写真を見て、お兄様が大きくなっていると驚いていました。


ここにお兄様がいた時、青葉は何を話したか覚えていません。

まだ4才になったばかりでした。

だからもし、青葉がお兄様に悪い言葉を言ったなら、それは僕のせいです。


だから青葉だけは許してください。

お願いします。


寒くなるので、お体に気をつけて。


                   雅之」



字が滲んだ部分があった。

もしかしたら、涙なのかな?


そして、もう1枚は青葉からだった。



「お兄様、お元気ですか?


私はお兄様と遊んだ記憶しかありません。


いつの間にかお兄様が居なくなって、部屋で待つこともありました。


写真を見て、お兄様の顔を思い出しました。


背は高くなっても、顔はあまり変わらないですね。


病気のせいで、長野に行ったとお母様に聞きました。


病気が治ったのなら、帰って来てね。


待ってます。



                  青葉」


   


僕が家を出た時は、捨てられたと思って長野に来た。


家族を憎んでいた。


お母様や雅之に詰られるのが辛かった。


家に居なくて、庇ってくれないお父様を恨んだ。


能天気に笑う青葉にイライラした。


全部が憎くて、辛くて、悲しくて、きちんと出来ない自分が一番嫌いだった。


死んでしまいたかった。

消えてしまいたかった。



でもそれを、助けてくれる人がいた。


お祖父様とお祖母様と、友人達と、学校の先生と、中條医師(せんせい)と、麒麟さん達と、他にもたくさんの人達だ。


特に僕の病気を治療する糸口は、サクラさんだった。

感謝してもしきれない。



きっと神戸にいれば、誰も気づいてくれなかったと思う。



長野に来て、お祖父様とお祖母様と暮らしたから、障害が発見出来たのだ。



もう今は、家族を憎んでいない。

本当は気持ちを封印していて、わざと考えないようにしていた。


けれどここでの暮らしが楽しくなってからは、忘れるくらいだった。家族のことは、自然と考えることがなくなっていた。


それでも中條医師(せんせい)の所へ、お父様から電話が来た時は嬉しかった。


褒められて泣きそうになった。


雅之と青葉の手紙を読んで、謝罪が書かれていて、自分が忘れられていなくて安心した。


やっぱり僕は、寂しかったのかな?



……………お母様は、お母様だけはやっぱり、障害のある僕のことは嫌いなのかな?




◇◇◇

和成の心には、いろいろな感情が渦巻いた。


それでも険悪だった記憶のある、雅之から謝罪されたことで少し気持ちが軽くなった。



だから和成は手紙を書いたのだ。

電話はまだ、勇気が出なくて。



「元気ですか?


僕は元気にしています。


埼玉の医師へ治療に行く為、神戸には帰れません。



雅之のことも青葉のことも、怒ってないから気にしないで。


そのうち暇になれば、遊びにおいで。


空気だけは美味しいから。


僕も頑張るから、2人も元気で頑張ってね



                   和成」



「今はこれで精一杯だ。でも、怒ってないことを伝えれば、まあ良いかな?」


お祖父様もお祖母さまも微笑んで、それで良いと言ってくれた。



その後も時々、2人から手紙が来た。

僕は近況を書いて送り、向こうもそんな感じで送って来た。



もうすぐ、中学3年生。

今後の進路を決めないといけない時期が来ていた。






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