7杯目 先輩からの誘い
仕事の初日は無事とは言えないが終わった。今日の仕事は初日なので料理の注文を受けたり、配膳をするだけだったが、これからはいろんなことをすると思うので、早く覚えたい。仕事は毎日ある訳ではなく、私のシフトは月、火、木、金の週に4日なので、水、土、日は当然休みになる。つまり、社畜時代と違って週に休みが3日もあるという訳だ。じゃあ、その休みの日はどう時間を潰そうか。
仕事がない日になにをしようか考えていたら、小百合さんに話しかけられた。
「どこか上の空だね。何か楽しいことでも思いついたのかい?」
食事中だったのだが、考えごとをすることに集中して手が止まっていたようだ。
「楽しいことかは分かりませんが、喫茶店で働かない日はどうしようかと考えていたんです」
「せっかく時間はたくさんあるんだし、いろんなことをするといいよ」
「そうですね」
今日は、仕事で疲れたのでご飯を食べ終わって風呂に入ったあと、すぐにベッドに入った。少し長く感じた一日が終わる。
◇◇◇◇
朝起きて歯磨きをする。もう3日目となると、さすがに日常のようになった。食事を終えて部屋着から外着に着替えて出かける準備をする。
「小百合さん、いってきます」
「いってらっしゃい。2日目頑張れよ」
今日も仕事だ。しかし、前と違ってこの仕事に不満はない。むしろこんな好条件で働けるならさっさと転職したかった。
◇◇◇◇
「いらっしゃいませー、二名様でよろしいですか?では、席のご案内を致します」
ふう、2日目ということで客の案内の仕事も追加されたけど、なかなか大変だな。これを先輩たちは笑顔でやってたと思うと凄いを通りこして少し怖いよ。
「マリアちゃんだいぶ板に付いてきたね」
「そうですか?ありがとうございます鈴華先輩」
この人は樋川 鈴華さん、先月からここで働き始めた先輩だ。働き始めた時期が近いというのもあり、私が一番仲良くさせてもらってる先輩でもある。
「あとマリアちゃん、昼休憩入っといてね」
「もうですか、了解です」
鈴華先輩と入れ替わりで休憩に入る。頑張って働いていると時間が経つの早いなー。
スタッフルームに入って小百合さんに作ってもらった弁当を取り出す。今日はどんな弁当かな。
期待に胸をふくらませて弁当箱を開ける。
「わ!卵料理がたくさんだ!」
「ふあっ!?明莉ちゃん、いつの間に後ろにいたの…」
「えへへ、びっくりした?」
「いくら同期とはいえ、ちょっと距離感近くない?」
正直な気持ちを口にすると、明莉ちゃんは悲しそうな顔をした。
「…明莉、迷惑だった?」
「いやいやいや、迷惑なんかじゃないよ。ただ、ちょっと驚いただけで私も明莉ちゃんと仲良くしたいよ?」
「ほんと!?やったーーー!」
喜ぶ明莉ちゃんを横目に私は、安堵の息をもらす。鈴木 明莉、普段は明るいけれど感情の起伏が激しくちょっと対応が大変だ。
「マリアちゃん、私はもうご飯を食べ終わってるから先に行ってるねー」
明莉ちゃんが手を振ってくる。それに手を振り返す。
「行ってらっしゃい」
バタンっと大きめの音をたてて扉が閉まる。やっぱり明莉ちゃんは嵐のような人だな。
ま、そんなことは置いといてすぐにご飯を食べちゃおう。味たまもある、この弁当最高だね!
私はご飯を食べてお腹と心を幸福で満たして、残りの時間を頑張る気力を手に入れた。
昼休憩後の仕事は、ピークを過ぎて少しずつ客入りが減っていくので、午前中の方が大変だった。
「よし、これで今日の営業は終わりだ。おつかれさま」
「「おつかれさまでしたー」」
終了の挨拶をし、ロッカールームで服を着替える。外着に着替えていると、鈴華先輩に肩を叩かれた。
「どうしたんですか?」
「マリアちゃんって明日休みでしょ?」
「はい、そうですよ」
「もし良かったら一緒にお出かけしない?」
何事かと思ったらお誘いされるとは。特に断る理由もないし、暇になりそうだったから受けようかな。
「いいですよ」
「やった!じゃあ、明日東京駅に集合でいい?」
「はい、ですがどこに行くのですか?」
「それは秘密だよ」
鈴華先輩の口に人差し指を当てる仕草に少しドキッとした。同じ見た目的な年齢はそんなに変わらないと思うのだけれど、私と違って大人っぽい感じがする。
着替え終わり、店を出る。
「明日の10時にポチ像前に集合ね」
「了解です」
みんなと別れて家に帰る。明日何をしようか考えていたら鈴華先輩に誘って貰えてしまった。こんなこと昔はなかったから、嬉しいな。
浮かれながら帰っていると、あることに気がついた。
「あ!そういえばないじゃん!?」
走って小百合さんの待つ家に帰る。
◇◇◇◇
「小百合さん!…お願いがあります!」
はあはあ息を切らしながら話しかけてくる私に小百合さんは驚いていたが、すぐにいつも通りに戻った。
「お願いってなんだい?」
「お金を貸してください!」
社畜の時に鍛えられた完璧な土下座を披露する。
「いいよ」
「そうですよね、やっぱり無理….…え?」
「同じ店の子と遊びに行くんでしょ?」
「そうですけど…」
「それなら私は、今月のお小遣いとして君にお金を渡すよ。これなら、受け取りやすいだろう?」
「いいんですか?」
「もちろんだとも。君はもう、私の娘なんだ。少しは甘やかさせてくれ」
「ありがとうございます!」
「楽しんでくるんだよ」
「はい!」
まさかのことに普通に小百合さんからお金を貰えてしまった。とても嬉しいが、いつかお返しをしないとな。
夕飯を食べて風呂に入る。そして今日は、明日どんなことをするか考えながら眠りについた。
いやー、今年ももう少しですね。1月から始まるアニメやゲームのイベントがとても楽しみです。
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