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帰郷


 ──その刃は、深々と突き刺さった。

 石畳の表をうち抜き、根元までくい込んでいた。



「···コイツらが······ッ、コイツらのような連中がいるからッ、他人の命をモノとしかみないからッ!!

 俺たちは虫ケラのようにいつまでも地面を這いずってなきゃいけない! 俺たちはいったい何のために血を流してるんだ···ッ」



 気がつくと、彼は思いのたけをぶちまけていた。

我 ながら不格好だ。みっともない姿だとおもった。まるで駄々っ子が甘えているようではないか。


 マイシャはその姿に、言葉もなく見入った。彼がこれまで味わってきた、背負ってきたものが、どれほどの重さだったのかをたしかに感じた。

 ザイカの身体を、優しい腕がそっと包んだ。


「······うん。うん···。でも、だからこそね、アニ様はいまのアニ様を大切にして。あのコ達が誇りにおもっているいまのアニ様を······ね?」








 すべてはおわった。だが、都をでるには少々の時を要した。


 オルモン・ゴエス・ヴローエは、甥のアンドレともども、カドヴァリスではなく、ミロス神教会によって捕縛された。近々神座のまえで審問がなされるとのことだ。

 カドヴァリスに捕まったのは、むしろザイカのほうだった。

 事件の当事者ということで、さまざまな事情聴取をうけた。それはうんざりするぐらいしつこく、どうもこちらの知り得たこといっさいを把握するためのように感じられた。

 事件の裏をしるやんごとない筋とやらか、もしくはその敵対勢力か。もちろん憶測の域をでないものの、そんな上のほうの都合だっのかもしれない。

 たがザイカは、なにも知らぬ、俺は一鶏人(ケチャ)として闘場にたって戦っただけだと通した。ルクレナレなどをかばう気なぞ毛頭ないが、正直もう関わりたくもない。


 けっきょくザイカの言い分はとおり、晴れて自由の身ということになった。

 当然といえば当然だ。むしろ彼は、突如あらわれた正体不明のバケモノを倒し、民衆ほか、少々の貴族の命を救った勇者なのだから。


 聴取の最中もあとも、ルクレナレからはいっさいの接触はなかった。まるでもう用は済んだといわんばかりの無関心ぶりが、いかにもあの男らしいように思った。

 ただ、ザイカのなかで、彼への疑惑が拭いきれたわけではない。

 そもそもあの試合をみはからって、哀れなケヴァンにおぞましい実験の産物とやらを投与することが、はたしてオルモンらに出来たのか。

 もちろん、鶏闘(ケトル)本部にアンドレ以外の協力者がいれば可能だろう。そしてほぼ間違いなく、実際にいたはずだ。たが、オルモンの所業を暴くため、ルクレナレがおのれの部下にわざと「あれ」を使用した······そんな可能性はまったくないのか?



 その気になればあの男はやるだろう。


 ザイカに断言できるのはそれくらいだった。

 結局すべては、あの男の掌のうえでなされ、転がされていたような気がする。だが、もし奴が裁きを受けるべき者なら、いつか必ずそうなるし、それを果たすのは、マイシャの言うとおり、自分ではないのだ。

 そういえば、例の水も、なんのために使うのかわからずじまいだ。闇薬の材料にでもなったか、さもなくば、たんに上客用の美酒にでも化けたのかもしれない。




 マイシャとはあの後、ふたりだけでまた会う機会がもてた。といっても、おたがい出発のまえであれやこれやと雑務があり、店で食事しながらこれまでと近況を語りあうにとどまった。

 だがきっとこれでいい。もうふたりの歩む道は違うのだから。





 みおくりに来てくれたのは、ジャンバティスタ・ロマノク氏だけだった。意外にも、彼は今回の件を気にかけていてくれたらしく、別れ際も丁寧に詫びをいってくれた。

 ザイカもこちらこそと礼を返した。わざわざ鶏闘本部直々にⅠ級鶏人の免状がおりたのは、彼のとりはからいなのだと聞いている。このお墨付きがあれば、アザスミルに帰っても誰にも文句はつけられまい。

 ザイカはいまいちどその計らいへの礼と、わかれの挨拶をして門へと向かった。


 入京したときはおそろしく手間をかけられたものだが、出るときはあっさりとしたものだった。

 身分を確認されて手続きを済ませると、まるで追い出されるようにして彼は城門の外へとでた。









 長かった。ずいぶん長かったように感じる。とうとう俺は、この地獄の門を這い出ることができたのだ。

 そうおもうと全身に喜びと、活力が湧きあがってくる。こんな爽快な気分はこの都にきて、いや、この国にきて以来ひさしくご無沙汰だった······。



 俺たちは、どこへでも行ける。



 ザイカは胸いっぱいに空気をすいこむと、あたらしい道行きとなる馬の鼻づらを優しく撫でた。

 帰りはこいつとともにゆるりと行くと決めた。荷と鞍をつんだその背にひらりと跨がる。


 さあ行こう。この国をもっとよく知るのだ。





                             

                       完


ご完読、ありがとうございました。そして、おつかれさまでございました。

本作はこれにて完結とあいなります。

ここまで、未熟で中途半端にながく、はっきりしない代物にお付き合いくださった皆様には、ほんとう、感謝もうしあげるしかありません。

これから暑さきびしい頃となりますので、皆様のご健康をお祈りしつつ。


最後までのお付き合い、真に、真にありがとうごさいました!


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