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俺の魔王道  作者: K.DAMEO
はっははびより

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8/8

ミギ・ザ・ロック―終―

右・スタイラインの絶叫が玉座の間に響き渡った、その直後。



―――バンッ!!



再び扉が勢いよく開き、更にまた誰か入ってきた。


あれ? というか、さっき開け放たれた気がするけど?

一回閉めて……また開けた?



「姉さん!!」


白いローブを翻しながら、なんか女が入ってきた。


言葉的にも妹なんだろうことは分かるが、左の手の甲から前腕には女神と天使のタトゥーが堂々と刻まれている所を見るに、右・スタイラインの“死神とドクロ”と対になってる感じからしても、姉妹確定感は凄い。


「左っ……!」


右・スタイラインが気まずそうに目を逸らす。


左と呼ばれた女は、跪いている王を見て鼻で笑い、俺達へは軽く会釈し、最後に右の右腕を見て眉をひそめた。


「姉さん……やっと外したのですね。ということは……」


「あ、ああ……」


「というか……腐ってません? 右腕」


「おま、何を言うお前っ! 姉に向かってお前っ!!」


いや、言われてもおかしくない。

ガントレット外した瞬間、腐敗臭レベルの臭いが部屋中に漂ってやがるんだから。


「左の子の方は綺麗なんね」


「右は……見た目も臭いも、地獄だ」


右・スタイラインはまた耳まで真っ赤になっていく。


「見ぃるなぁぁぁ!! 嗅ぐなぁぁぁ!!」


叫ぶ右・スタイラインだったが、左はその叫びを完全に無視し、王を指差した。


「で、このクソはどうするんです? 魔王様」


「ん~……すぅ……」


どうする、か。



それはもう、決まってる。


「ふぅ~……」


煙草の煙を一吐きして、皆に聞こえるように言う。



「考えたんだけどさ、俺たちがどうこうするより……」



もっと、いい方法がある。



「単純に、今のこいつのゴミっぷりを、国民に見せてやりゃいんじゃねえの?」












―――スロト王国・中央広場。


朝の光が差し込む中、広場にはすでに大勢の国民が集まっていた。



「なんだ……?」

「王国が、魔王軍の手に落ちたって、ほんとか?」

「まさか……本当に……?」


その中心に―――。

縄で縛られ、腹を揺らしながら引きずられてくる王の姿があった。


「ひぃぃぃ!! やめ……やめろぉぉ!!」


骸骨兵たちは無表情で王を引きずり、グルドは片手で王の襟首を持ち上げ、ツバキは王の腹をつつきながら歩く。




その光景を見ながら、俺は魔王ムーンの上で煙草を口に咥え、広場を見下ろしていた。




その隣には―――。



「…………」


右・スタイラインが立っていた。


ガントレットは外され、右手の甲から前腕にかけてのドクロと死神のタトゥーが朝日に照らされている。


「あれ……右隊長……?」


右・スタイラインの姿に気付き、国民たちは息を呑んだ。



「右様……腕が……」

「右様が……魔王軍と……?」


国民の視線を受け、右・スタイラインは一歩前に出る。


「国民よ!!」


その声は、広場全体に響き渡り、集まった民たちのざわめきが一層強くなる。



「これが――お前たちの“王”だ!!」


骸骨兵が王を地面にドサッと落とす。


「ひぃぃぃ!! 右! みぎぃ……助けっ……」


王は情けない声を上げるが、右・スタイラインは汚いものを見る目を向けるだけ。


「…………」


右・スタイラインは再び民へ視線を向けると続ける。


「皆、よく見ろ! この醜いデブを! 公務を放棄し、民の声を聞かず、酒と女と贅沢に溺れ、国を腐らせた! その張本人……それが、こいつだ!!」


国民たちの顔が次々と青ざめていく。


「私は……この国を守るために動いてきた。だが……もう限界だ!!」


右・スタイラインは右腕を掲げる。


「私は魔王軍に身を置いた!! この国の未来のため、そして……お前たちのために!!」


国民たちは息を呑んだまま、右を見つめる。



「ふぅ~……」



俺もなんか言った方がいいっぽい雰囲気だな……。



「…………」



煙草を灰皿に押し付けると、椅子から立ち上がって広場全体を見回す。


「まあ、そういうことだ。この王国の全てを取り仕切っていた右・スタイライン・フェルナンは俺達、魔王軍へと下った」


広場に、静かなざわめきが広がる。


「今現在、お前たちの王国を取り仕切る者は不在だ。何故、こうなったかは……分かるよな? このデブはお前らにやる。後は、好きにしろ」



静寂。



まあ、そうなるだろうな。


いきなり国のトップが消えたんだ。

思考も不安も追いつかず、無になってしまうのは分かる。

ただ、俺としては、だからどうこうしようってのもないし、勝手に立て直しなり、暴動で崩壊するなり好きにすればいいと思う。



「さ、じゃあ……」



帰るか。



と、グルド達へ向き直った瞬間だった。



「魔王様! 万歳!!」


誰かが叫んだ。


「は?」


何を言って? と、群衆へ顔を向けると、次々に言葉が響いてくる。



「魔王様! 是非この国の王に!」



「魔王様の方がまだ信用できる!!」



「この国を立て直してください!!」



「右様と魔王軍なら向かうとこ敵なしだ!!」



「魔王様! どうか、この国を統治してください!」



「魔王様、お願いします!!」



広場が一気に沸き立つ。色々聞こえてた声が、次第に魔王様としか聞こえなくなっていく。


「いやいやいやっ、お前ら正気っ!? 誰の名前呼んでるかもう一回噛みしめろ! 魔! 王! 魔王だぞ!?」


焦る俺の背後で、骸骨兵たちはうんうんと頷き、グルドは笑い、右・スタイラインは毅然として歓声を浴び、ツバキはぐっすり眠ってる。



「違う……違うって。思ってた感じじゃないって……」



なんだこの、いじめられてる気分。


ただ、懐かしい、この感じ。



「なんなの……これ……」



歓声と祝福に囲まれる中、俺は頭を抱えて項垂れるしかなかったのだった。











―――夜。スロト城・屋上。


冷たい風が吹き抜ける。


「ふぅ~~~……」


ため息と共に煙を吐き出す。


「どーしよ。一国を統治するのは、違うだろ……」


一人呟いてしまう程、俺は嫌だった。


「そんなに……嫌ですか?」


背後からの問いにびくっと肩を跳ねさせてしまう。


「ああ……いや。まあ、嫌だけど……」


ゆっくり振り返ると、左・ビジィラインが立っている。


「魔王なのに、正直ですね……」


白いローブが夜風に揺れ、月明かりが彼女のタトゥーを淡く照らす。


「魔王だからとは考えないか? 人間うざいって、人類滅ぼそうとしてるだろ。色んな物語でさ」


左・ビジィラインはクスッと笑うと隣に腰を下ろす。


「…………」


「…………」


二人でしばらく黙って夜景を眺めたあと、俺は気になったことを左・ビジィラインへ口にした。



「お前は、臭くないんだな」


「いや、ちょっ、お前! 急に姉妹もろともディスるのやめろ!」


「あー、ごめんごめん。でも、思っても仕方ないだろ? お前のお姉ちゃんの右腕、くっそっ、臭いぞ?」


「はっきりゆっくり言うな! 妹として心苦しすぎるだろ!」



「いやぁ、でも……本当の事だしな……」



言いながら、煙草に火を点ける。



「そうですけど……。でも、それは、私のせいでもあるから……」


「ふぅ~……。お前の、せい? うんこでも塗りたくったのか?」



問うと、左・ビジィラインは強めに肩口を殴ってくると、一息ついて語り始める。



「元々、国に尽くして動いていたのは……私の方なんです」



「……ほ、ほう。つうか、いったぁ……マジ、パンチ…」


「私は正規軍の副隊長まで昇進して、軍政に身を尽くし……その頃の姉は、ただ無名の兵士でした。やる気もなく、賄賂なんかも喜んで受け取り、ギャンブルにのめり込んでは、酒浸りの日々……。そして、挙句には……“スカルヘル”というギャングにまで入って。何度か姉を捕らえたこともあります」


左・ビジィラインの思わぬ話に、吸い込んだ煙草の煙で咽てしまう。


「おいおぃ……右の過去っ……げほっ……そこからなんで、今のあれにっ……な、なる」


左・ビジィラインは思いだしたのか、笑みをこぼして続きを語る。


「当時の私も衝撃の連続でしたよ。追ってたギャングの証が姉の右腕にも刻まれてるんですから」


「そりゃ、そうだろうな……。まあ、そんな理由があったら、あんなデカいガントレット付けてまで隠してたのも納得ではあるが……なんで、そんな不良が、騎士隊長になんかなれたんだ?」


「それは、あの十七代目のゴミが……ある日、急に、姉さんを“騎士隊長”に任命したんです」


「は? 急に? なんで?」


「奴の、唯一の善行とも言えるんですかね。……まあ、今から思うと、あいつはただ、その時も酔っていて、視界に入ったのが姉だった。……ただ、それだけかもしれませんけど」


左・ビジィラインは続ける。


「でも……姉は、そこから一変しました。 過去を捨て、己の身体も心も、この国のために捧げるかのように、働いた。誰よりも、真っ直ぐに」


夜風が俺と左・ビジィラインの間を通り抜けた。


「…………」


自らの手で撫でられた女神と天使のタトゥーが、月光に照らされて光を放っているように見える。


「私は……馬鹿でした。姉と対になるようにタトゥーを入れたのに、私の方が早々に国を見限り、姉に全てを押し付け身を隠して……反旗を翻すことまで考えてた」


「……サラッと凄いこと言ったな、お前。でも、それだったら、俺達魔王軍が来なくても、この国を取り戻してたんじゃないのか?」


左・ビジィラインは小さく笑う。


「いえ。……仮に、アレを始末できていても、今日みたいに上手くはいかなかったでしょう。……少なくとも、右腕を隠したままの姉とは分かり合えず……刺し違えていた未来を……辿っていたと思います」


左・ビジィラインは悲し気な笑みを湛え目を伏せ、俺はなんて声を掛けたものか咄嗟には思いつかず、夜空へと視線を向ける。


「……それは悲劇、だな。……さっきまで、ほんと嫌だったが……それを聞くと、今日の収まりで良かったんだと、少しは思える」


「はい。私も、良かったです。……姉は残った唯一の家族であり、唯一心から尊敬できる……お姉ちゃん、ですから」



素晴らしい、姉妹愛だ。



「…………」



魔王とか関係なしに、なんだか、浮かんだ言葉に恥ずかしさを感じる。


「まあ、なんだ……」


だが、左・ビジィラインの言葉に、ちょっとだけ胸が熱くなったのは事実だ。



だから、俺からも言っておく必要があるだろう。





「世界で唯一、右腕が激臭いお姉ちゃんでもあるしな。偉大だ」




一瞬。



風の音だけが吹き抜けた。




次の瞬間――。



「っ………!」



左・ビジィラインの怒りの左手鉄拳が、俺の右頬にめり込んだのは言うまでもなかった。














―――翌朝。


スロト城前の広場に、魔王軍が集まっていた。


骸骨兵たちは整列し、グルドは地面に胡坐をかいて座り、ツバキは地面の虫を追いかけている。


俺は煙草を咥えながら、昨日の“国民総意で魔王統治”という悪夢みたいな展開を思い返していた。


「やべぇな……統治とか言葉しか知らねぇぞ……」


呟いた時だった。


「魔王様。おはようございます」


振り返ると、サエキさんが立っていて、その後ろには、見慣れない骸骨兵も一体居る。


「おはよう、サエキさん。……で、そいつは?」


サエキさんは骸骨兵を指し、静かに紹介した。


「彼の名は――志位しいでございます」


志位はカクンと丁寧にお辞儀した。


「志位であります。よろしくお願い申し上げます」


声は妙に落ち着いていて、骸骨兵にしては珍しく“知性”を感じる。


「……なんか、普通の骸骨兵とは違う雰囲気があるな」


俺がそう言うと、サエキさんは頷いた。


「はい。彼は“ハイブリッド”でございます」


「ハイブリッド?」


「身体の修繕の際、私と英と美威の骨に加え、ミセス・ゴメスさんの骨も使用しております」


「ほお、そりゃ凄い。……つうか、それがなんなんだ?」


俺の言葉にサエキさんは淡々と続ける。


「骸骨兵は、他者の骨を組み込むことで、その者の能力を継承できます。志位は四者の骨を併せ持つ、極めて珍しい存在です」


サエキさんの説明を受け、志位は頷く。


「立て直し、統治、交渉、軍事、内政……すべて、私にお任せください」


過信ではなく、当然の事のように堂々と言う志位。確かにハイブリットの様だ。


「わぁっはは! 志位なら大丈夫だぁああ!」


「よかったんねー。まおー」


テンション高めなグルドと相変わらず布袋に詰まってるミリーを他所に、ツバキは志位の足元をクンクンする。


「すんすん……あぶ? ひゃぁぁ……」


そんな、ツバキの頭を志位は優しく撫で、ツバキはとろける様に目を細める。


「ふふ。ツバキ様。後で、一緒に虫を追わせてください」


初めからツバキを手懐けるとは……流石、世話役のゴメスさんも混ざってるだけはある。確かにハイブリットだ。



「じゃあ、志位。改めて、よろしく頼む」


俺の言葉にサエキさんが静かに頷く。


「まずは、スロト王国の立て直し。お任せしますよ」


志位は深く頭を下げた。


「全力で務めさせていただきます」


「いきなりで悪いけど……ほんと、頼むな。俺、全くその辺分からないし」




こうして、スロト王国の方針も決まり、とりあえずは、国民が路頭に迷うことはなくなったのだった。





















来たれ、魔界に生きる者よ。


これより七の日が昇るまで……。


うぬらは労を要せど、疲と睡を感じぬ。


その身に傷を受け得れど、痕は残らぬ。


その身を貫き、抉り、焼失し、溶解し、凍結し、侵され、死が訪れようとも……一時。


再びその身は再生し、時と相間見えよう。


死を恐れ。

死を恐れるな。


向かうは“平安”の地のみ。



危険を越え、罠を越え、恐怖を乗り越え、ただ平安を目指せ。



そして、たどり着いた先で仲間と共に労を労え合うがよい。





“デスニック”。

 



開幕なり。





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