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第2話ー② 湖畔の罠

 ゆめかからの話があってから1週間後。キリヤたちの任務の日がやってきた。


「忘れ物はないかい? 宿の場所とか大丈夫かい?? そうだ、行く途中に――」

「所長。キリヤ君たちはもう大人なんだから、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うけどね」


 心配してソワソワする所長を横目に笑いながらゆめかがそう言った。


「そ、そうなんだが……研究所の管轄外の宿に泊まるってなると、なんだか心配で」

「これまで何度か外泊はしていますし、大丈夫ですよ。僕1人ならともかく、優香もいますし」


 そう言ってキリヤは優香の方に顔を向けた。


「……」

「優香?」

「あ、えっと何だっけ??」

「大丈夫? なんかぼーっとしてない?」

「ちょっと考ええごとをしていただけ。大丈夫です」


 そう言ってニコッと微笑む優香。


「そうだったらいいけど……」


 言葉ではそう言いつつも、優香の行動に疑問を抱くキリヤ。


 やっぱり何かを1人で悩んでいるんじゃないのか――隣でゆめかと話している優香を見つめながら、キリヤはそう思った。


 今はまだ言えない理由があるのかな。優香が何を打ち明けても僕は優香を信じる。そしてずっと隣にいるから――。


 じっと見つめるキリヤに気が付いた優香は、


「どうしたの、キリヤ君?」


 首をかしげながら、キリヤにそう問いかけた。


「ううん。行こうか、優香!」


 キリヤが笑顔でそう言うと、「うん!」と優香も笑顔で返したのだった。


「それじゃ、2人とも頼んだよ」

「また着いたら、連絡をくれるかな? 所長が心配のし過ぎで、胃に穴が開く前にね!」

「はい!」


 キリヤは笑顔でそう答えて、優香と共に研究所を出たのだった。




 研究所から数時間、キリヤと優香は電車を乗り継いで目的地付近の駅に到着した。


「わあ。富士山だ! すごい、大きいね!! ほら優香も――」

「あー、はいはい。そうだねえ」


 優香はニコニコとそう答える。


「僕のこと、子ども扱いしてない!?」

「してないよー。ほら、まずは宿に行こうよ。荷物を下ろしたら、依頼者のところに行かないとでしょ?」


 そう言って歩き出す優香。


「ちょっと待ってよ! ああ、もう少し富士山を見ていたかったのにな……って優香! 早い!!」

「早くしないと置いていくよー」

「わかったから、待ってって!」


 そう言ってキリヤは優香を追いかけたのだった。


 それから15分歩き続けたキリヤたちは、所長が手配した宿に到着した。


「私、民宿って初めて来た……」

「わかってると思うけど、僕も……」


 目の前に建つ民宿「ふじやま」を見ながら、そう呟くキリヤたち。


 いろはと会った施設とよく似た構造になっており、田舎のおばあちゃんの家を思い出すような見た目だった。


 まあ、僕はおばあちゃんの家には行った事なんてないんだけどね――


「初めて来る場所のはずなのに、不思議と懐かしい思いになるね」

「そう、だね」


 頷きながらそう言うキリヤ。


「ってこんなところで呆けている場合じゃないでしょ! 挨拶と大きい荷物を置いたら出かけるよ!」

「あ、うん! わかった」


 そしてキリヤと優香は民宿の中へと入っていった。




「お待ちしておりました。さあ中へどうぞ」


 キリヤたちが民宿の中に入ると、そう言ってエプロンをつけた小柄な老婆が出迎えた。


「あ、ありがとうございます」


 キリヤがそう言って頭を下げると、優香がキリヤの耳元でそっとささやく。



「どうやら私達のことは把握しているみたいね」


「そうだね。でも、把握って……そんな言い方しなくても」


「ここが研究所の管轄じゃない時点で、疑いの目を向けることはおかしなことじゃないはずだよ。どこでどうなるかわからないんだから――」


「それでは立ち話もなんですし、お部屋にご案内いたします。どうぞ、こちらへ!」



 そう言ってキリヤたちの間に立つ老婆。


 そして、話を聞かれていたんじゃ――と焦りながら後退りをして「よろしくお願いします」と老婆に告げるキリヤと優香だった。


 老婆の後を追って歩くキリヤたちは、その後姿を見ながらまたこそこそと話し始める。



「さっきは焦ったね。実はこのお婆さんがスパイ……とか? そんなことあるのかな」


「さあね。でも油断はしないようにしよう。キリヤ君なんて、きっと少し優しくされただけで騙されそうだし」


「ぼ、僕はそんな単純じゃないよ!!」


「お話し中、すみませんねえ。では、まずこちらのお部屋ともう1つは隣のあちらのお部屋をご用意しております」



 再び2人の間に立って、笑顔でそう告げる老婆。


「「あ、ありがとうございます」」


 そしてキリヤたちはそれぞれの部屋に荷物を下ろし、再び集合した。


「じゃあ行こうか」


 優香がそう言って宿を出ようとした時、


「お待ちください」


 と言いながら奥の方から出てくる老婆。


「ど、どうしたんですか?」


 キリヤは突然呼び止められて、緊張しながらそう返した。


「おかえりは何時ごろになるかなと思いましてね。……夕食の支度をしてお待ちしておりますので」

「え、あ……ありがとうございます! 少し話を聞きに行くだけなので、そんなに時間はかからないと思います」

「20時には戻る予定です。お気遣いありがとうございます」


 そう言って頭を下げる優香。そして遅れてキリヤも頭を下げた。


「頭をあげてくださいな。私はおもてなしをする立場の者ですから、これくらい当たり前のことですよ。それでは、お気をつけていってらっしゃいませ」

「いってきます!」


 そしてキリヤたちは民宿を出て依頼主の元へと向かった。

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