第2話ー① 湖畔の罠
ゆめかから連絡を受けたキリヤは『グリム』のミーティングルームに来ていた。
「優香、まだ来てないんだ……」
そんなことを思いながら、キリヤは扉の方を見つめる。それから最近、様子のおかしい優香にキリヤは疑問を抱いていた。
さっきの優香は別れを予感させるような口ぶりだった。独りぼっちになることを恐れていたはずの優香がそんなことを口にするなんて――
そして俯くキリヤ。
僕が悩んでいる間に、優香の身に何かあったのか――?
「ごめんなさい! 遅くなりました!!」
そう言って勢いよく部屋に入ってくる優香。
「大丈夫、まだ僕しか来ていないから」
キリヤはそう言って優香に微笑んだ。
「よかった……でも呼び出した白銀さんがまだだなんて、何かあったのかな」
「どうだろう? 所長のコーヒータイムがいつもより長引いているとか」
「それはありそうだね」
こうやって会話をしていると、いつも通りなんだけどな――そう思いながら、優香を見つめるキリヤ。
「な、何!? 私の顔に何かついてるの??」
頬を赤らめてそう言う優香。
「え? そんなことないよ! ただ……なんとなく??」
「なんとなくでそんなに見つめられると恥ずかしいじゃん!」
そう言って優香はキリヤの肩をポカポカと叩いた。
「ご、ごめん! 気をつけるよ!!」
キリヤたちがそんなやり取りをしていると、ミーティングルームの扉が開く。
「今日も仲が良くて、実に微笑ましいね!」
そう言いながら、ミーティングルームに入るゆめか。
「し、白銀さん!?」
ゆめかの姿を見つけた優香は、そう言ってキリヤを叩いていた手を止める。
「おはようございます、白銀さん!」「お、おはようございます!」
「おはよう。ふふふ。キリヤ君はまた優香君にどんな意地悪をしたんだい?」
ゆめかは楽しそうにキリヤへそう言った。
「え!? 僕は何も……あ、うーん」
「い、意地悪なんてされていません! そんなことより、次の任務の話を!!」
「あははは! そうだったな!」
それからゆめかは一枚の手紙をキリヤと優香の前に差し出した。
「この手紙は――?」
キリヤは手紙を見つめて、そう呟く。
「数日前にこの手紙が研究所に届いてね。私達の活動のことを知っているのか、能力者のことで解決してほしいって内容が書かれている」
「そうなんですね」
「でもなんでこの手紙を私たちに?」
優香は怪訝な顔でゆめかに尋ねる。
「優香君なら、きっとそう尋ねてくると思っていたよ。実はその手紙には、君たちに解決してほしいと書いてあるんだ」
「え……僕たちに?」
「ああ、ほら――」
そう言って手紙をあけるゆめか。そしてキリヤたちはその中身を確認する。
『私の子は能力者として覚醒して、自分の力に恐れて引きこもっています。私の子供を救うためにあなたたちの力を貸してください。
そして私の子はとても臆病で疑い深いので、なるべく年の近い若い男女にきてほしいです。噂を耳にしましたが、同じ能力を持つ方がいますよね。その方々にお願いしたいです』
「――本当だ。それに『グリム』の活動内容も大体把握しているみたいだね」
「でもここに書かれている噂って、誰から聞いた噂なんでしょうね。私達ってこっそりと任務をしているわけですし、内部の人間が情報をリークするか、もしくは私たちの知らぬ間に、本当にそんな噂が広がっているのかですね」
ゆめかは手をパンッと鳴らすと、
「まあ考えてもしょうがない。何かがあるのは確かだし、とりあえず引き受けてくれるかい?」
笑顔でキリヤたちにそう告げた。
それからキリヤは優香と顔を見合わせてから、
「もちろんです! 僕たちにできることがあるのならば、行かせてください!」
そう答えたのだった。
「あ、頼んだよ! それで今回なんだけどね、少し遠くになるから外泊をしてもらうことにした。一応宿はこちらで手配しておくから、よろしく頼むよ」
「はい!」「任せてください!!」
キリヤと優香は笑顔でそう答えた。
そしてキリヤたちに要件を伝えたゆめかは、ミーティングルームから出て行った。
「外泊、か……なんだか久しぶりだよね?」
キリヤは嬉しそうに優香へそう言うと、
「確かに。いつかのお屋敷ぶりかな」
優香も笑顔でそう言った。
「そうだね。仕事で行くってわかっているのに、なんだか楽しみなんだよね」
「それ、わかる! 今回はプチ旅行みたいなものだもんね」
そう、キリヤたちが向かう場所――それは日本一の高さを誇る富士山のふもとの街だった。