第6話ー⑩ 訪問者
数日後、研究所にて――
襲撃の件で『グリム』のメンバーはミーティングを行っていた。
「先日の件、みんなはどう考える?」
所長はそう言いながら、『グリム』のメンバーの顔を見た。
「『宣戦布告』ととらえるのが妥当だろうね。研究所の中が少し壊された程度で、他の被害はない。自分たちはいつでもお前たちを終わらせることができるんだという事を見せつけたかったように思える」
ゆめかは眉間に皺を寄せてそう言った。
そして優香はそう言うゆめかの方を見ながら、
「白銀さんの意見も間違ってはいないと思いますが、でも、今回襲撃者の目的はキリヤ君を連れ出すことでした」
真剣な顔でそう言った。
そして優香のその言葉を聞き、そこにいるキリヤ以外のメンバーが驚愕の表情をする。
「キリヤ君を……? それはどうしてなんだい?」
「それは私にも……」
ゆめかの問いに優香は俯きながらそう答えた。
「そうか……」
「そういうキリヤ君は、何か聞いているかい?」
所長がキリヤにそう尋ねると、
「いいえ。でも『エヴィル・クイーン』と言われる組織の存在を確認して、そこで『ポイズン・アップル』の研究と実験を行っていることとその組織をまとめている存在が『魔女様』と呼ばれていることだけはわかりました」
所長の顔をまっすぐに見てそう答えた。
「魔女、か……」
そう言って表情が曇る所長。そしてその表情を見た優香はすかさず、
「何か、心当たりでも??」
所長にそう問いかけた。
「いや。優香君たちが研究所に残っていた時、私達はとある施設の会議室にいてね。その時、映像で現れた女性がいて――」
「それがその魔女様なんじゃないか、と」
「そうだ」
それから部屋に流れる重たい空気に、神無月は大きなため息をついてから、
「はあ。まあ今はグダグダ考えも仕方がねえ。一応その『エヴィル・クイーン』にいた子供を確保しているわけだし、そいつからいろいろ聞きだせばいいんじゃねえか」
そう言ってニコッと歯を見せて笑った。
「そうだな。神無月君の言う通りだ。わからないことをいくら話しても答えは出てこない」
「その少年は今どこにいるんですか?」
キリヤがそう問うと、
「ああ、この建物の奥にある隔離部屋の中にね。今はそこで初美が一人で見張りをしてくれているよ。そろそろ様子を見に行ってあげないと、寂しがる頃かな」
ゆめかがニコッと笑いながらそう答えた。
「どうせ寂しくなれば、その隔離部屋に不法侵入でもして楽しむでしょうからきっと大丈夫ですよ」
優香は冷めた口調でゆめかにそう答えた。
「ははは! 優香君はいつも初美に辛口だな」
ゆめかは楽しそうに笑ってそう言った。
「それは、田川さんが悪いんです!!」
「ふふっ」
2人の会話を横目で見つつ、キリヤは所長の方を向くと、
「えっと、じゃあその子への尋問はどうします? やっぱり場慣れしている神無月さんが適任でしょうか」
首をかしげながらそう尋ねた。
「初めはそうしようかと思ったんだけどね……」
「はい?」
「年齢が近いキリヤがやったらどうかと、俺は思ったわけさ!」
神無月はそう言って笑う。
「ええ!? 僕、ですか……」
「キリヤには無理か?」
神無月さんは、今の僕を成長させようとこの提案をしてくれたのかもしれない――
そう思ったキリヤは、神無月の顔をまっすぐに見て、
「……やります。やってみたいです!」
そう答えた。すると神無月はニヤリと笑い、
「キリヤなら、そう言うと思ったぜ!!」
そう言ってキリヤの肩に腕を乗せた。
「ありがとう、ございます!!」
「おう! じゃあ、頼んだぞ!!」
「はいっ!」
キリヤは満面の笑みでそう頷いた。
「うん。じゃあ話もまとまったことだし、さっそく行こうか」
所長はキリヤにそう告げ、それからキリヤと所長は建物の奥にある隔離部屋へと向かったのだった。
――隔離部屋前にて。
「初美くん、ちゃんと見張りは出来ているみたいだね」
所長は初美の姿を見つけて、笑いながらそう言った。
「どういう意味じゃい!! ゆめかか優香が何か言ったんじゃな。まったく失礼な2人じゃ!! 今度、部屋に黙って侵入するしかないのぉ」
「あははは……」
そう言う初美を見て、キリヤは苦笑いをしながら、きっとそれが原因なんだろうなと思っていた。
「こほん。それで中にいる少年の様子はどうだい?」
気を取り直して所長が初美にそう尋ねると、
「そうじゃな。おとなしいもんじゃよ。時々物音がするから、脱走した様子はないが、でもこんなに静かだと心配になるわい」
初美は腕を組みながら、少しだけ心配した様子でそう答えた。
そして初美の言葉を聞いたキリヤは、黙って隔離部屋の扉を見つめる。
この先に『エヴィル・クイーン』の少年が……キキと名乗る少女と同じ組織の仲間。つまり慎太の命を奪った存在だ。
僕はそんな相手とまともに会話ができるだろうか。感情が爆発して、能力のコントロールができなくなったりはしないだろうか――
そんな不安を抱くキリヤ。
「――状況はわかった、ありがとう初美くん。じゃあキリヤ君、中に入ろうか」
所長は静かに扉を見つめるキリヤにそう告げた。
「……はい」
キリヤはそう言って頷き、開いた扉の中へと入っていったのだった。