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第6話ー⑧ 訪問者

「烏丸、狂司……」

「烏丸狂司?」


 そしてその烏丸狂司と呼ばれた少年は、不敵な笑みを浮かべ、ローレンスを見つめていた。


「へえ。僕のこと、ご存じなんですね。まあ、どこで知ったのかは聞かないでおいてあげましょう」


 それから狂司はゆっくりと剛の方を向いた。


「君はちょっとどいててもらえます? 一般人には関係ない案件なんで」

「はあ?」


 そして狂司は剛の目を見つめた。


(な、なんだこれ……身体が動かねえ――)


 剛はそう思いながら、自分を見つめる狂司から目をそらせずにいた。


「僕の能力は集団催眠。君は今、僕の能力で動けなくなっています」

「性格悪い能力だな。キキの調べ通りだ。それが『アンチドーテ』のやり方か」


 そう言うローレンスの方に、ゆっくりと顔を向ける狂司。


「ははは。悪者にそんなこと言われたくないですね」

「どっちが悪者なんだか」

「さて、今から君をいたぶって黒幕を引きずり出そうと思うんですけど、心境はいかがですか?」


 そう言いながら、ニヤリと笑う狂司。


「俺をいたぶったところで何か状況が変化するとは思えないけどな。でもお前にいたぶられるのは嫌だから――」


 そう言ってローレンスは自身の腕にうろこをまとわせる。


「へえ。やる気満々って感じですね。良いですよ。君みたいな外道が僕に勝てるはず、ないですけど」


 狂司はそう言って右手を天に掲げた。すると、その手の周りに黒い羽根が生成される。


「悪い奴らは、1人残らず僕が排除します」


 そう言って狂司は右手を下ろすと、黒い羽根はローレンスに向かって飛んでいった。


「こんな羽! へでもねえ!!」


 ローレンスはそう言いながらその羽を跳ねのけると、狂司に向かって突っ走った。


「なかなかやりますね。さすがは『ポイズン・アップル』使用者」


 そして狂司は再び羽根を生成してローレンスに飛ばすが、ローレンスはそれを全て弾き飛ばしていった。


「接近戦なら、俺は負けねえ!」

「そうですか……」


 狂司はそう言ってローレンスの瞳を見つめた。


「ぐ……」


 そして身体が動かなくなるローレンス。


「僕の能力は一つじゃないってわかっていましたよね?」

「くっそ、身体が、動かねえ……」

「じゃあどうしようかな。とりあえず殺しておきますか? それくらいじゃ、僕の気持ちは収まらないですけど」

「くっそ……」


 2人のやりとりをただ茫然と見ることしかできない剛。


(このままじゃ、ローレンスが……なんで動かねえんだ、俺の身体! 早く何とかしないと)


「さて、どうしてあげましょう。催眠を使って、自分の能力を体内で発動するように誘導しましょうか? すごーくいい声で鳴いてくれそうですよね」


 その言葉に息を飲むローレンス。


「君もそれがいいって? わかりました――」

「狂司、それまでだよ」


 狂司が能力を発動する前に、そう言って誰かが静止した。


(今度は誰だ……?)


 そう思うも、身体が自由に動かない剛はその声の主の顔を見ることができなかった。


「翔先輩……でもこいつは――!」


(翔先輩……?)


「狂司にとっての仇だってことはわかってる。でも僕たちは殺人をするためにここへ来たんじゃない」

「……はい」

「目的は達成した。だからここを離脱するよ。そろそろ研究所の大人たちが戻って来る」

「わかりました……じゃあ今回はこのくらいにしてあげます。次はないと思ってください」


 そう言って狂司はローレンスの額をつつくと、ローレンスは眠りに落ちた。


「彼も自由にしてあげるんだ」

「はい……でも先輩の顔を見たら」

「狂司!」

「わかりました」


 そして狂司は剛の瞳を見つめた。


「はあああ。やっと声が」


 そう言って尻もちをつく剛。


 そんな剛に、


「狂司がごめんね」


 と翔と呼ばれていた少年が手を差し出した。


「あ、ああ……」


 その手を握る剛。


 なんだか誰かに似ている気がする――剛は翔の顔を見てそう思った。


「じゃあ僕らはこのへんで。その子のことは頼んだよ。捕虜でもいいし、保護施設で更正させるってのもいいかもね」


 翔はそう言って、狂司と共にどこかへ行ってしまった。


「あいつ、何者……?」


 剛はいなくなった2人の方を見つめて、そう呟いた。


 それからしばらくすると、剛の前にキリヤが現れたのだった。



 ***



「剛も優香も大丈夫かな……」


 キリヤはそんなことを呟きながら、廊下を進んでいた。


 目が虚ろな少年が僕たちの前に現れたってことは、優香の身に何かあったのかも――


 そう思うキリヤは、不安な顔をしながら歩く足を速めた。


 もし優香に何かあったら、僕は……僕は今のままでいられるだろうか。また慎太の時のように塞ぎこんで、もう立ち直れなくなるかもしれない。あの時は優香が支えてくれて、それで――


 自分の想いにはっとするキリヤ。


「僕にとって、優香は――ん? あれ、何だろう?」


 遠くに人影があるのを見つけるキリヤ。


「誰か倒れてる。急がなくちゃ」


 それからキリヤは駆け足でその人影の元へと向かった。


 そしてそこにいたのは、先ほど別れた剛と――


「おう! キリヤ、無事みたいだな!」

「う、うん。それより……」


 そう言って視線を倒れている少年に移すキリヤ。


「まあいろいろあって……今は眠ってるだけだよ」

「そっか……。あ、ねえ、剛は優香を見なかった?」

「え? 俺は見てないなあ」

「そっか」


 キリヤはそう言ってしゅんとした。


 優香、本当に大丈夫かな――


「まったく、なんて顔してんだよ! 優香のことだし、きっと大丈夫だろ。まあでも、心配なら早く見つけてやれって」


 そう言って剛は微笑んだ。


「うん! じゃあその子はよろしくね、剛!」

「わかったよ!」


 そしてキリヤはいったん剛と別れたのだった。


「それにしても、優香はどこへ行ったんだろう――」


 そう呟きながら角を曲がると、キリヤは誰かとぶつかった。


「すみません、あの――」

「やっと見つけた!!」

「え……あ! 優香!!」

「まったく探したんだよ? どうかなっちゃたんじゃないかって、心配したんだから!」


 そう言ってニコッと微笑む優香。キリヤは優香のその笑顔に顔を背けて、


「それは僕も同じことを……」


 ほっとしながらそう答えたのだった。


「そういえば、あの子たちは? ほたるって子、急に血相を変えてどこかへ行っちゃって……」

「そのほたるとキキの2人は逃がしちゃった。でも1人は剛と一緒だよ」

「火山君と??」


 そういって首をかしげる優香。


「うん。じゃあ、とりあえず剛のところへ行こう。きっと困ってると思うから」

「そうだね」


 それからキリヤと優香は剛の元へと向かったのだった。

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