第6話ー⑤ 訪問者
僕は、どうしたら……先生、助けて――
キリヤはそう思いながら、目を閉じると、
「間に合ってよかった」
そう言う声と共に、フードを被った少年が現れる。
「……誰?」
キリヤが目を丸くしていると、その少年は大蛇に姿を変えて、キキに絡みついていた。
「へ、へえ。『ゼンシンノウリョクシャ』、ですか。うう……ちょっと、私には、不利な状況みたい、ですねえ……」
「このまま君を絞め殺すこともできるけど」
「それは、勘弁ですね……まさか、逃がして、くれるなんて?」
「それはない」
そう言って絡む力を強める大蛇の少年。
「ううう……」
苦しむキキ。
そしてキリヤは苦しそうにするキキを見て、心が揺れていた。
あの少女は、友人の人生を狂わせた存在。だから自分も復讐しようと、キリヤはそう思ったはずだった。しかし――
「もう離してあげて! このままじゃ、本当に死んじゃうよ!!」
キリヤは大蛇の少年にそう言っていた。
「でも、この子は君の敵なんじゃないの?」
「そう、だよ。でも、やっぱり――」
そう言ってキリヤは俯く。
命の灯が消えるところを二度と見たくない――キリヤはそう思ったのだった。
「はあ。あの人の影響を強く受けているわけか。わかった」
そして力を緩める大蛇の少年。すると意識を失っていたキキは、その場に倒れ込んだ。
「ありがとう、助かったよ」
キリヤは大蛇の少年にそう言って微笑んだ。
それから大蛇の少年は元の姿に戻ったが、深く被ったフードのせいで、キリヤは少年の顔がよく見えないままだった。
「じゃあ、僕はこの子を――」
そう言って大蛇の少年がキキに触れようとすると、廊下に電撃が走った。
「!?」
驚いた大蛇の少年は、キキに伸ばしていた手を引っ込める。
そしてその隙に電撃を身にまとった少年がキキを抱き上げると、
「間に合ってよかった。キキがいなくなったら、魔女様の作戦に支障が出る」
そう言ってその場を離脱した。
「はあ、逃がしちゃったか……」
ため息交じりにそう言う大蛇の少年。
そして申し訳なさそうな表情をしたキリヤが、
「ごめん。僕、余計なことを……」
そう言って顔を伏せた。
「いいよ。また捕まえればいい。それに、今回は君を守護するために来ただけだから」
「え……僕の、守護?」
「そう」
この子も、僕のことを知っているのか。でも、なんで――?
「なんで、僕を?」
「ドクターから頼まれてね」
「ドクター??」
「僕は三谷翔。反政府組織『アンチドーテ』のメンバーの一人さ」
「え……」
キリヤは『アンチドーテ』というワードにはっとした。
それって確か、狂司がいるって言う……それと、もう一つ――
「ねえ、今……三谷って言った??」
それはよくある苗字。だから同じ苗字の暁とは無関係でただの偶然だと、キリヤはそう思いたかった。しかしその予感は的中していて――
「うん、そう言った。そして、三谷暁は僕の兄。生き別れのね」
そう言って被っていたフードを取る翔。
あらわになった翔の顔立ちは、暁の顔にとてもよく似ていた。
「ほ、本当に……?」
「そうだよ。でも、僕は兄さんと一緒にいた頃の記憶がほとんどないんだけどね」
淡々とそう答える翔。そんな翔を見たキリヤは、どうして暁の血縁関係にある彼が『アンチドーテ』にいるのか……そのことが気になって仕方がなかった。
「ねえ、なんで反政府組織なんかに……」
「ドクターが僕を救ってくれたから。だから僕は、あの人の為に生きると決めた。政府を敵に回しても、本当の家族を裏切ったと言われても……僕は、僕を救ってくれたドクターについていくとそう決めたんだ」
翔はキリヤの顔をまっすぐに見つめて、そう告げた。
そしてキリヤは、翔のその言葉に何も言い返せなかった。その言葉も視線も自分が暁を慕い、尊敬する表情に似ている気がしたから。
「そう、なんだ……わかったよ。じゃあ僕がこれ以上何かを言う事はしない」
「……じゃあ僕はこの辺で。連れと合流してから帰ることにするよ」
そう言ってキリヤに背を向ける翔。
「連れ……?」
「そう。僕の弟みたいな存在」
振り向きながら、翔は笑顔でそう言った。
「そうなんだ」
「うん。じゃあね、桑島キリヤ君」
そう言って翔はどこかへ行ってしまった。
先生の生き別れの弟か……知らなかったな――
そんなことを思いながら、翔が向かった方を見つめるキリヤ。
「そうだ。僕も優香のところへ行かないと」
それからキリヤは、優香と別れた場所へと向かったのだった。