第6話ー② 訪問者
研究所内、廊下にて――。
「急に休みって言われても、どうしようか……」
キリヤは隣を歩く優香にそう尋ねた。
「まあ、たまにはこうして研究所の中を歩き回るのもありなんじゃない?」
「そうだね……あ」
そしてキリヤは扉の表記を見て立ち止まった。
「どうしたの?」
優香はそう言ってキリヤの顔を覗き込む。
「ここ、まゆおの……」
キリヤが見つめる先にある名札には『狭山武雄』と書かれていた。
所長からまゆおの兄のことは聞いていたが、実際に部屋まで来たのは初めてだったキリヤ。
「どうする? 覗いていく?」
「…………やめておくよ」
「そう」
「僕の兄さんじゃないのにね、なんでか見るのが嫌だって思うんだ」
そう言って悲しそうに笑うキリヤ。
「まあ友人の親族が寝たきりなんだから、そりゃ見たくないって思うよね。私も正直、見たくはないかな」
「ありがとう。じゃあ次行こうか」
「うん」
そう言って2人はまゆおの兄が眠る部屋の前から立ち去った。
それからまたキリヤたちは研究所内をブラブラと歩き回る。
すると――
「君たちは何者なんだい??」
そう言う警備員の声を聞いたキリヤたちは、その声の方に急いで向かった。
「あの、何かあったんですか?」
キリヤがそう警備員に尋ねると、
「うふふふ。見つけましたよ、桑島キリヤ君」
そう言って不敵な笑みをキリヤに向ける奇抜な服装の少女。
「お、あいつが魔女様のお気に入りか?」
「そうだと思う」
奇抜な服装の少女の後ろから、ツンツン頭の目つきが鋭い少年と細目の少年とぼーっとした少年が現れた。
「君たちは、何者なの……?」
その子供たちがただ者ではないと察するキリヤ。
「あ、あなた!!」
優香は目を見開いて、ぼーっとした少年を指さしながらそう言った。
「優香、知ってるの?」
「うん。前に保護施設が襲撃されたことがあったでしょ? その時にいた男の子だよ」
「へえ。お姉さん、あの時にいたんですかあ? 私とはお姉さんのこと、知らないですけどお」
そう言いながら、不気味な笑いをする奇抜な服装の少女。
「ってことは、あなたもあの時に……」
優香がそう言って、少女を睨むと、
「はい! その時は黒髪のお姉さんとうさぎを使うお姉さん、銀髪の女の子と剣道のお兄さんがいましたねえ」
指を折りながら少女はそう言った。
「あ、シロを狙っていたっていう襲撃犯……」
「そう。……あなたたちの狙いのシロちゃんは、もうここにはいないですけど。何の用ですか?」
優香がきつめの口調でそう尋ねると、
「今日は違う。そこの桑島キリヤをもらいに来た」
ぼーっとした少年はそう言った。
「ぼ、僕……?」
まさか自分がターゲットだなんてと驚くキリヤ。
でも、なんで――?
「そうですか。狙いがキリヤ君というのなら、私も容赦するわけにはいきませんね。それにあの時のリベンジもしたいところですし」
優香は笑顔で目の前の子供たちにそう告げる。
「僕は、あなたに用はない」
少年はそう言って、キリヤに視線を向ける。
「あなたになくても、私にはあるんだって――」
優香はそう言って、生成した蜘蛛の糸を少年に放った。
そして少年は両足に電撃を纏わせて、優香の糸を易々と避ける。
「キリヤ君。この子の相手は私がするから、そっちの2人をお願いね」
「2人をって……わかった」
そしてキリヤは子供たちがいる方向の反対に向かって走り出した。
狙いが自分なら、きっと追ってくるはず――
そう思ったキリヤは優香と距離を取るために全力で走った。
「ちょっとお、逃げないでくださいよお!」
「待てって、キキ! 俺も行く!! ほたる、その女は頼んだぞ」
そう言ってキリヤを2人は追ったのだった。
* * *
――残された優香とほたると呼ばれた少年。
「これで戦いに集中できるね」
「さっさと片付けて、ターゲットを補足しないと……そうじゃないと、魔女様に嫌われる」
「さっきから魔女様、魔女様ってなんなの?」
「あなたには関係ない。さっさと、死んでよ」
そう言って右手を突き出すほたる。そしてその手から電撃が繰り出された。
優香は蜘蛛の糸を天井につけて、空中へ飛びあがり、その電撃を躱す。
「一度見た技に何回もかからないっての。そこまで私は馬鹿じゃないから」
優香は空中からそう告げるが、その一方でほたるは優香の方を見向きもせず、
「早くしないと、魔女様が……」
そう呟き、不安な表情をしていた。
「私のことは完全に眼中にない、か。まあ、いいけど。その方が好都合かもね」
そして優香は再び地に足をつけて構えの姿勢を取る。
「警備員さんは危ないので、避難していてもらえますか?」
「え、でも……」
「死にたくはない、ですよね?」
優香が笑顔でそう告げると、警備員の男は急いでその場を去った。
「これでよし」
それから優香はゆっくりとほたる視線を移した。
「さてと――じゃあ、神無月さん直伝の体術を見せてあげる!!」
優香はそう言って、ほたるに向かって走り出したのだった。