第6話ー① 訪問者
――『グリム』のミーティングルームにて。
所長に呼ばれたキリヤと優香は、神妙な面持ちで机を囲んでいた。
「――え、政府に呼ばれているんですか? しかも『グリム』メンバーのほとんどが??」
キリヤは呆気にとられながら、そう言った。
「ああ。だから今日は臨時休暇だ。ゆっくり過ごしてくれ」
「臨時休暇って……訓練は――」
「もちろん、禁止だ」
所長は笑顔でそう言った。
「そうですか……」
せっかくの休みなのに、残念――
そう思いながら肩を落とすキリヤ。
「……でも、この招集は偶然なんですかね。誰かが意図して、『グリム』の人たちを呼び出しているように思えるんですが」
優香は頬に手を当て、首をかしげながらそう言った。
確かに、優香の言う通りだな――とキリヤは心の中でそう思った。
滅多にお呼びがかからない政府から緊急招集がかかったうえ、その呼ばれたメンバーのほとんどが『グリム』の隊員だったことに、キリヤは違和感を覚えていた。
僕や優香は呼ばれなったけど、でも――
キリヤはそう思い、所長の顔をまっすぐに見つめる。
「優香君の懸念はわかる。でも断るわけにもいかないからな。仮に何かあったとしても、君たち2人がいてくれれば、研究所は何とかなるだろうし!」
「あはは。それは嬉しいお言葉です。『グリム』の総司令官殿にそう言っていただけるとは」
そう言ってぺこりと頭を下げる優香。
「総司令官!? 私はそんな大層なもんじゃないさ! ただの研究者で、ここを任されている所長なだけだよ」
そう言いながら、恥ずかしそうに頭を掻く所長。
「でも、所長あってのグリムですから」
優香はニコッと笑いながらそう言った。
「あははは。ありがとう、優香君」
「いえ。それと、所長たちも気をつけてくださいね。何かあるとしたら、私達じゃなくて所長たちのような気がします」
優香は所長の顔をまっすぐに見てそう告げた。
「そうですよ。敵のアジトに呼ばれたわけだし……」
キリヤが不安な顔でそう告げると、
「敵って! それは大げさだよ。大丈夫――って絶対的な自信があるわけじゃないけど、でも神無月君も花咲君もいるからね。いざとなったら大丈夫さ」
所長はそう言って笑った。
「あはは。確かに、神無月隊長がいたら百人力ですね」
「そうだろう?」
「ま、まあそうですね……」
「だからキリヤ君、そんなに心配しなくても大丈夫さ。それよりも君たちはここを頼んだよ」
「「はい」」
そして翌日、キリヤと優香を除くグリムのメンバーは、政府に指定された場所へと向かって行ったのだった。
***
とあるビルの屋上。研究所の方を見ている3人の子供たち。
「ふふふ。のこのこ出て行きましたよ、お馬鹿な大人たちが」
双眼鏡を顔につけながら、キキはそう言った。
「キキは相変わらず、性格が歪んでんな……。それで、ほたる。この後の段取りは?」
ローレンスはキキを横目に、ほたるにそう尋ねた。
「大人たちがもう少し遠くに行ったら、僕たちはあの建物に乗り込む。そしてターゲットを手に入れる」
「ターゲットって、魔女様のお気に入りだろ? 手に入れるって言っても、どうやって」
「話し合いで無理なら、力づく……ですよね、ほたる?」
「うん。魔女様の願いは、全て叶える。それが僕の役目」
ほたるは研究所の方をまっすぐに見つめてそう言った。
「相変わらず、魔女様にお熱なわけだ……」
ため息交じりにそう言うローレンス。
「ローレンスは魔女様の敵なの?」
ほたるは冷たい視線をローレンスに送った。
「そういうわけじゃないって! ただ俺はほたるほど、魔女様に心酔できてないって言うか……まだまだこれからってことだな」
「そう。よかった。ローレンスとは仲間でいたいって思っているから」
そう言ってほたるは再び視線を研究所にうつした。
「あ、そろそろ頃合いじゃないですか? 車もだいぶ遠くまで行ったようですよ」
キキは双眼鏡を覗きながらそう言った。
「行こう」
ほたるがそう言うと、ローレンスとキキはそれぞれ頷いた。
それから3人はビルの屋上を出て、研究所へと向かったのだった。