第5話ー⑧ 不安
翌日。訓練室にて――。
キリヤは神無月と対峙していた。
「はあ、はあ」
「今日はこのくらいにしておこうか!」
「ふうう。はい」
キリヤはそう言ってその場に座り込む。
「そういえば、この間の課題の答えはみつかったのか?」
神無月はそう言って笑いかけた。
「はい! と言ってもうまく伝えられるかなって言う不安はありますが……」
「いいさ。それで、聞かせてくれるか?」
そしてキリヤは頷くと、
「僕の願う強さは、揺るぎない覚悟を持ち続けることです」
神無月の顔をまっすぐに見て、そう告げた。
「ほう。どうしてそう思ったんだ?」
神無月にそう問われたキリヤは、少しだけ視線を下に移す。
「僕は、弱い。それは力の大きさではなくて、目の前の現実から目を背けていたからです……」
「なるほどな」
「だから、もう目を背けるのはやめにします」
そう言って、神無月の顔をまっすぐに見るキリヤ。
「目の前のことにしっかりと向き合って、その時にできるすべてのことを考えます。そして覚悟を持って、自分のやるべきことをやり遂げると決めました!」
「あはははは! いい面になったじゃないか!! その強さ、すごく良いと思うぞ。この間の闇雲に頑張っていた時よりもずっといい答えだ!!」
大声で笑い出す神無月にきょとんとするキリヤ。
「褒めてるんだから、もっと喜べよっ!!」
そう言ってキリヤの肩をバンッと叩く神無月。
キリヤは肩をさすりながら、
「あ、ありがとうございます」
と恥ずかしそうにそう答えたのだった。
「ははは! はあ。じゃあ俺は任務があるから、この辺で! お疲れさん!!」
「お疲れ様でした!」
そして訓練室に一人残るキリヤ。
「覚悟、か……」
言葉にすることは簡単だ。あとは、僕がこれからどうするかだよね。……ただ闇雲に頑張るのではなく、揺るぎない覚悟で自分のすべてをかけること。そしてそれが、簡単なことじゃないことくらいわかっているよ。でも――
「僕は、強くなりたい。本当の意味でね」
それからキリヤは立ち上がり、訓練室を後にした。
***
研究所内、廊下にて――。
「キリヤ君、今日も訓練かな。昨日の買い物で息抜きできたならいいけど……」
そう言って歩いていると、正面からキリヤが歩いて来る姿に気が付く優香。
「キリヤ君! お疲れ様。今日も訓練?」
「優香、お疲れ様。そうだよ」
そう言って微笑むキリヤ。
その表情を見た優香は、キリヤが出されていた課題をきちんと達成したんだと悟った。
「そっか。もう終わったのなら、一緒にカフェ行こうよ! これからのことも話したいしね!」
「わかった。僕も優香ともっと話がしたいって思ってたところだよ」
それから優香とキリヤはカフェに向かったのだった。
研究所内、カフェにて――。
優香とキリヤは向き合って座りながら、コーヒーを口にしていた。
そして楽しそうに話すキリヤに、優香は相づちを打ちながらその話を聞いていた。
少し前まで不安でたまらなかったはずなのにね――
キリヤを見て、そう思いながら優香は微笑む。
不安だったことを力に変えて、キリヤ君は前へ進んでいった。もがいて苦しんだ分、きっと大きな成長に繋がったんだろうな。
それに引きかえ私は……? 私はまだ何一つとして解消していない。未来への不安やこれから起こり得ることとか……いろいろと考えなくっちゃならないことはあるけれど、でも――
「それでさ、真一たちのこの曲! すっごく良いと思わない??」
そう言いながら、笑うキリヤ。
そんなキリヤを優香は優しい笑顔で見つめていた。
でも今は君の笑顔を見ているだけで、私の不安は薄れていくような気がする――
「優香、聞いてる?」
「え? うん、聞いてるよ。それで『はちみつとジンジャー』の曲がなんだって?」
「うん! 実は今度ね――」
不安はことは山積みだけど……今はただ、この時間を大切にしたいな――
そう思った優香だった。