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第5話ー⑦ 不安

 だいたいの買い物を終えたキリヤたちはショッピングモールの近くにある公園を訪れていた。


「ずいぶんたくさん買ったね……」


 キリヤはベンチに置かれた優香が買った洋服の紙袋の量を見ながらそう言った。


「まあね。買える時に買っておきたかったの! 次はいつ来られるかもわからないし、それに……」


 そう言って俯く優香。


「優香??」


 キリヤは優香の顔をそっと覗き込んだ。


「あ、ごめん。何でもない! ちょっと喉が渇いたし、飲み物買ってくる! キリヤ君は、ここで私の買った服の見張りをよろしくね!」

「え、うん。わかった」


 そして優香は走って行ってしまった。


「ふう」と息を吐いたキリヤは、紙袋の隣にそのまま腰を掛ける。


「今日は余計なことを考えずに済んだな……優香はもしかして、僕のことを気遣って、今日の買い物を――?」


 やっぱり優香は優等生だな――そんなことを思いながら微笑むキリヤ。


「いつまでも悩んでいられないよね」


 そしてキリヤは神無月に言われている課題のことを思い出した。


「僕の願う強さ、か……」


 そう呟いたキリヤは頬杖を突きながら考えた。


 そういえば、剛が『本当の強さは自分の弱さを知ることだ』って暁先生から教わっていたんだっけ。確かに先生が言いそうな言葉だな――


「じゃあ僕の弱さってなんだろう」


 そしてキリヤは暁に出会う前のことを思い出した。


 あの頃の僕は大人を信じることが怖くて、裏切られるくらいなら信じることを諦めようって思っていた。でもそんな僕を孤独から連れ出してくれた暁先生。『俺を信じろ!』って何の根拠もなく、ずっと言い続けていたな――。


「そんなまっすぐな暁先生だったから、僕は信じようと思ったんだっけ」


 その時のことがあって、少しは自分も成長したと思っていたけど……でも実際は――


「僕はまだ、弱いままなんだな。だって今でも自分の弱さを知らないんだからさ……」


 そう言って俯くキリヤ。


「結局僕の弱さって、何なんだろう」


 キリヤはそう言ってため息を吐き、膝に手をついた。


 慎太を救えなかったのは、やっぱり僕が弱かったからだ。僕に先生みたいな『無効化』があったら、慎太の能力を抑え込めるほどの大きな力があったら……慎太を助けられたかもしれないのに――


「本当に優香の言う通りだな。今の僕じゃ、仕方のないことだったんだよ……」


 だから、今は強くならなきゃいけないんだ――キリヤはそう思い、両手の拳を握る。


 もっと強くなって、そして能力者の子供たちを救う。より強い力を持てば、今よりもっと多くの子供たちを救えるはずだから、キリヤはそう自分に言い聞かせた。


 それからふと慎太と楽しく過ごしていた時を思い出すキリヤ。


 バーガーショップへ行ったこと、街中を2人で他愛ない話をしながら歩き回ったこと。そのすべてがキリヤにとってかけがえのない時間だった。

 

 一緒にこの街を出よう――その話をした直後に、悲劇は起こった。

 

 そしてキリヤはその当時のことを思い出し、はっとする。


「いや。違うだろ――」


 僕がもっと早く過ちに気が付けたら、慎太は救えたかもしれなかった。だから力がなかったから、慎太を救えなかったってわけじゃない――!


「もしかして、僕の弱さって……自分のダメなところを隠そうとするところなのか? 何かを言い訳にして、それで仕方なかったってことにして」


 じゃあ、僕の願う強さは――


「綺麗な顔をしているわね」

「……え?」


 キリヤは突然そう言われて、いつの間にか目の前に立っているその声の主の方を向いた。


「うふふ。ごめんなさい。つい本音が」

「あ、ありがとう、ございます」


 たとえそれが本音だったとしても、初対面の人間を相手にそんなことが言えるものかな――?


 突然現れたその女性は真っ黒なワンピースに日傘をさしており、顔はよく見えなかった。しかしその口調から、おそらく自分よりも年齢は上だろうと察するキリヤ。


 全身真っ黒って……まるで魔女だな――


 そんなことを思いながら、キリヤはその女性の方を黙って見つめた。


「うふふ。そんなに見られると恥ずかしいわね。それで、君はここの公園にはよく来るのかしら?」

「い、いえ。今日が初めてです。近くに住んでいるわけでもないので……」


 あまり素性は話さないようにしないと――そう思いながら、その女性に掛ける言葉を慎重に考えるキリヤ。


「へえ。そう。なら、一つだけ君に忠告。君がいつかまたここへ来たとき、そこで出会った少女の手は離さないことね。もしも君の願いを遂げたいというのなら」


 そう言って、ふふっと笑う女性。


「……どういうこと、ですか?」

「いつかわかるわ。くれぐれも少女には優しくね。まあ、もしかしたらそうならない未来になるかもしれないけれど……それじゃ、さようなら」


 そしてその女性はどこかへ行ってしまった。


「なんだったんだろう。不思議な人だったな」


 キリヤは首をかしげながら、その女性の背中を見送ったのだった。


「キリヤくーん! お待たせ!!」


 後ろから優香の声がして、振り返るキリヤ。


 そしてその優香の両手にはカップの飲み物があった。


「ちょっと混んでて、時間かかっちゃった。はい、キリヤ君の分も!」


 そう言ってキリヤに飲み物を差し出す優香。


「ありがとう!」

「うん! ……なんだか甘い香りがする。女の人と会ってたの?」

「え……う、うーん」

「なんか怪しい」


 目を細めてそう言う優香。


「な、何その目!? 確かに女の人だったけど、変な女の人だったというか……」

「変な女の人?」

「そう。だって、信じられる? 全身黒色コーデでまるで魔女みたいな人だったんだよ!」

「……へえ」


 そう言いながら、飲み物に口をつける優香。


「もしかして、もうこの会話に飽きてない?」

「…………うん」


 自分から聞いてきたのに、そんなこと言っちゃうわけ――!?


「――地味に傷つくんだからね」


 キリヤは唇を尖らせてそう言った。


「ごめん、ごめん!」

「まったく……」


 そう言いながら、飲み物に口をつけるキリヤ。


「まあそんなキリヤ君も、私は嫌いじゃないけどね!」


 優香はそう言ってキリヤの方を見ながら微笑んだ。


「ありがとー」


 キリヤはまた口を尖らせて、そう言った。


「もう、機嫌直してよお」


 そう言いながら、楽しそうに笑いあう優香とキリヤだった。

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