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第5話ー⑥ 不安

 ――翌日。


「キリヤ君、準備はできた?」


 扉越しに優香がキリヤにそう告げた。


「ま、待って!」


 約束の時間って、確か8時半だよね? 今、7時50分なんだけど――そう思いながら、大急ぎで着替えるキリヤ。


「お待たせ」


 キリヤはそう言いながら、部屋の扉を開けた。


 そしてその扉の前には、ライトグリーンのワンピースに白のジャケットを羽織り、足元はシルバーのパンプス。顔はしっかりと化粧でメイクアップされており、髪は下ろして少しだけ巻いている優香の姿があった。


 服装一つでこんなに印象って変わるものなんだな――


 キリヤはそう思いながら、いつもと違う優香に見とれていた。


「どうしたの?」


 優香はそう言ってキリヤの顔を覗き込む。


「え? なんだか、いつもと違う優香だなって思って」

「こういうの嫌だった?」

「ううん。そんなことないよ。似合っていると思う! なんだか大人っぽくて、見とれちゃってたんだ」


 キリヤはそう言って、照れ笑いをした。


「もう! そういうの、ずるいんだって!!」


 優香は頬を赤く染めて、そう言いながらそっぽを向いた。


「ず、ずるい?? え……?」

「ああ、もういいから! 行くよ!」


 そう言って優香はキリヤの腕を掴み歩き出した。


「うん!」


 キリヤは笑顔で優香に手を引かれて歩いたのだった。



 ***



 研究所入り口。八雲が車を入り口につけて待機していた。


「ちょっと早すぎたかな……」


 そう言いながら、車の中で大きな欠伸をする八雲。


 それから窓をノックする音がして、その方を向くと、


「おはようございます、笹垣さん。お休みなのに、すみません」


 優香がそう言って申し訳なさそうな顔をしていた。


「おはよう、2人とも。まあ僕にとって休みは休みじゃないからね、ははは」


 そう言って遠い目をする八雲。


「大丈夫ですか……?」


 心配そうな表情でそう告げるキリヤ。


「ああ、うん。一応ね。じゃあ行こうか」

「はい!」「よろしくお願いします」


 そして車は目的地を目指して走り出したのだった。



 ***



 ――都内ショッピングモールにて。


「じゃあまた夕方くらいに迎えに来るから。楽しんできて」


 八雲はキリヤたちにそう告げると、車で元来た道を帰っていった。


「たぶん帰ったら拓真さんにこき使われるんだろうね」

「ええ、きっとね……」


 キリヤたちは八雲の車を見ながら、そう呟いたのだった。


「よし。じゃあ気を取り直して、行こうか! 時間は限られているからね!! じゃあまずは、こっち!!」


 優香は指を差して、先に歩いて行ってしまった。


「ちょっと待って!」


 キリヤはそんな優香を慌てながら追いかける。


 優香に追いついたキリヤがふと優香の顔に視線を向けると、その顔はとてもキラキラとして楽しそうな表情に見えていた。


 普段、こういう優香を見ていなかったから、なんだか新鮮だな。ちゃんと女の子らしいところもあるんだね――


 そんなことを思いながら、キリヤは微笑んだ。


 するとキリヤの視線に気が付いた優香は、「何、その顔??」と目を細めながらそう言った。


「優香もちゃんと年頃の女の子なんだって思ってただけだよ」

「はあ? 私はずっと年相応の女の子なんだけど! 私のこと、どう見え――これ!! 雑誌で見てほしかったやつ!!」


 優香はショーケース越しに見えている宝石の付いたシルバーのバングルを指さしながらそう言った。それからそのショーケースに歩み寄ると、


「わあ。いいな。かわいい……」


 そう言ってショーケースをじっと見つめる優香。


「あはは。そうだね!」


 もし自分に『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の能力がなければ、学生時代にマリアや学校の友達とこうやって普通に買い物を楽しむことができたのかもしれないな――


 キリヤは優香の楽しそうな笑顔を見て、そんなことを思った。


 そしてそんなキリヤの視線に気が付いた優香は、


「その顔、馬鹿にしてるでしょ!? こんなところではしゃいでって子供みたいだって!」


 唇を尖らせてそう言った。


「ううん。なんだか、こういう普通のことも楽しいなって思ってるだけ」

「ふーん。そう。……まあ、それならいいよ! あ、ほら!! あっちも見てみようよ!!」


 そう言ってキリヤの手を引っ張って歩き出す優香。


「はいはい」


 キリヤはそう言いながら、やれやれと言った顔で微笑んだのだった。

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