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第5話ー① 不安

「キリヤ君の様子はどうですか?」


 優香はそう言いながら、モニターを覗くゆめかの隣に立った。


「今日は神無月さんと訓練しているよ」


 ゆめかは振り向きながら、そう答えた。


 そしてゆめかの前にある画面を覗く優香。


「ちょっと根詰めすぎじゃないかって思うけど、優香君の意見はどうだい?」

「私の意見、ですか」


 ゆめかの問いに優香は少し黙って考えた。


 本当は少し無茶しすぎかな、とは思っているけれど――


「私はキリヤ君が決めたことなら、応援しようと思います。もし何かあっても、私が彼の傍で支えます。だって私は、キリヤ君の頼れる相棒ですからね!」


 そう言って微笑む優香。



「それは頼もしい限りだね! よろしく頼むよ、優香君。でも一人じゃ、どうにもならない時には、必ず私を頼ること! いいね?」


「はい!」


「優香君は、本当にキリヤ君を信頼しているというか、愛が深いというか。彼のことが大好きなんだってことが伝わってくるよ」


「は、はい? た、確かに信頼はしていますが、愛が深いとか大好きとかそういうわけじゃ! まあ好きと言えば、好きですけど……でも、それは友人としてですね――」


「あーはいはい」



 ゆめかはにこやかな顔でそう言った。


「白銀さん、聞いてますか??」

「ほら、優香君もキリヤ君の頑張りをちゃんと目で見てあげないとね!」

「はい……」


 ゆめかの大人の余裕を見せられた優香は、言われるがままモニターに視線を戻す。そしてそのモニターに映るキリヤは、膝に手を乗せながら息を切らしていた。


 大丈夫って言っていたのに。大丈夫じゃない、じゃない――


 優香はそんなことを思いながら、そこに映るキリヤを見つめるのだった。



 ***



 ――訓練室。


「ちょっと休憩にするか? もうずっとノンストップだろう?」

「い、いえ……まだ大丈夫です。それに、神無月さんとの時間を、無駄にしたくないので……」


 キリヤは息を切らしながら、神無月にそう告げた。


「やる気があるのは何よりだが、それで身体を壊したら意味がないからな。訓練が本番じゃない。自分のやるべきことを間違うなよ」


 自分のやるべきことを間違うな、か――


 キリヤは神無月の言葉に、胸が痛くなる。


 自分があの時に間違わなければ、きっと――そんな思いがこみ上げるキリヤ。


「強く、なりたいんです。自分の力のなさで救えない命があるのは、もう、嫌なんです」


 キリヤは俯きながら、そう言った。



「身体を鍛えるだけが強くあることじゃないと思うぞ……はあ。今日はこの辺にしよう。俺も次の仕事があるからな」


「……わかりました」


「次の訓練までに、課題を出す。キリヤの願う強さが何なのか。その答えを俺に聞かせてくれ」


「僕の願う強さ……」


「ああ。……って、そろそろ時間が!? 急がないと、つばめにどやされるな……じゃあ、お疲れさん」



 神無月はそう言って訓練室を後にした。


 一人になったキリヤはその場に座り込んだ。


 強さに種類なんてあるんだろうか。誰にも負けない力、誰でも救える力。それが強さじゃないのかな――


「はあ」


 神無月さんは僕に何を言わせたいんだろう――


 そんなことを思いながら、キリヤはボーっと神無月の出て行った扉を見つめる。


 能力者である僕は、その力がなければただの非力な人間でしかない。優香のように優れた身体能力と頭脳があるわけでもない。神無月さんのように強靭な肉体を持っているわけじゃない――


「だったら、そうなれるように今はただ頑張るしかないじゃないか……」


 そう呟いたキリヤは訓練室にあるカメラの方を向き、


「白銀さん、見ているんですよね? 模擬訓練、お願いします」


 そう告げたのだった。



 ***



 ――モニタールーム。


「だ、そうだよ?」

「『だ、そうだよ?』じゃないですよ! 今の今まで組み手をしていたじゃないですか! ダメです!! 今日はもう終わりです! オーバーワークです!!」


 優香は血相を変えて、ゆめかにそう言った。


「でもさっき応援するって――」

「ええ、言いましたよ! 言いましたけども!」


 さっきは白銀さんにカッコつけてそう言ったけど、でも今のキリヤ君を見ていたら――


 そう思いながら、モニターに視線を移す優香。


 そこに映るキリヤは神無月から食らったであろう傷が痛々しく、息も上がりきっており、これ以上続ければ彼は倒れてしまうのでは、と優香は心配していた。


「でも彼は、まだやめる気はないって顔をしているね」

「そう、ですけど……」


 そう言って俯く優香。


『白銀さん? 聞いていますか??』

「どうする?」


 やれやれと言った顔で優香を見つめるゆめか。


 白銀さんもここでやめるつもりはないって顔してる……仕方ないな――


「……わかりました。でもちょっと待っててください! 私も行きます!!」

「そう言うと思ったよ」


 そう言って微笑むゆめか。


 そして優香は大急ぎでモニタールームを出て行った。


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