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第4話ー② 知らされる真実

 研究所内、打ち合わせルーム。


「それで、話ってなんですか?」


 椅子に腰かけた優香は早速暁たちに尋ねた。


「ああ、じゃあミケさん。よろしくお願いします」


 暁がそう言うと、ミケは優香の前にちょこんと座った。


『ええ、あーあー。私の声が聞こえるか。蜘蛛の子よ』


 どこからか急に聞える聞き覚えのない声に優香は驚く。


 一体、誰の声なの? 暁先生じゃない。だったら――


 そしてミケの方をみた優香は、


「聞こえます。あの、あなたは?」


 そう尋ねた。


「やっぱり……」

「え? 何がやっぱりなんですか?」

『優香も暁と同じ『ゼンシンノウリョクシャ』という事だ』


 先生と同じ――?


「それってどういうことですか? 『ゼンシンノウリョクシャ』って……もしかして私の能力と何か関係があるってことですか?」


 ミケの方をまっすぐに見てそう問う優香。


『察しがよくて助かるな。そうだ』

「それでその『ゼンシンノウリョクシャ』って?」

「俺や優香みたいに全身で能力を発動する能力者ってとこかな」

『補足をすると暁や優香のように別の生き物に身体を変化させる能力者だな』

「なるほど……」


 そして優香は自分と暁に共通するあることについて思い出す。


「そういえば、暴走時の記憶の欠落がありましたよね? それももしかして『ゼンシンノウリョクシャ』ってことと何か関係があるのでしょうか」

『そんなことにまで気が付いていたのか。暁よりも優秀だな!』


 ミケは笑いながら、そう言った。


「ちょっ……俺だってそれくらい」

『ほう』

「嘘です。気が付きませんでした」


 優香は暁たちの方を見て、咳ばらいをすると、


「……それで、どういう関係があるんですか?」


 ミケにそう問いかけた。



『ああ。『ゼンシンノウリョクシャ』は自分以外の生き物の魂を身体に宿すことで、その力を発揮している。能力の暴走時はその魂が宿主の身体を支配するため、その後の記憶が一部なくなるというわけだ』


「もう一つの魂を宿す……それって、私の中に蜘蛛が生きているってことですか?」


『そうなるな』



 それを聞いた優香は俯き、自分の置かれている状況を考える。


 もう一つの魂。そしてしゃべる猫……それを私に話して、何を伝えようとしているのかな――


「でもなんでわざわざそんなことを伝えに来たんですか? 何か良くないことがあるから、ここまできたんですよね? それと、ミケさんは一体何者なんです?」


 ミケの方をじっと見つめて優香はそう言った。


『ああ、私もかつては『ゼンシンノウリョクシャ』だったからな』

「!?」


 かつては『ゼンシンノウリョクシャ』……? でも今はただの猫に――


 そして優香ははっとして、


「もしかしてその『ゼンシンノウリョクシャ』って、いつか宿した魂の生き物に身体を奪われるとうことですか」


 神妙な面持ちでミケにそう尋ねた。


 そして少しの沈黙ののちに、ミケは


『……そうだ。だからいつか優香もヒトでいられなくなる』


 ゆっくりと優香にそう告げた。


「そんな……」


 私はこのままじゃ、本当の蜘蛛になってしまうってことだよね。もしそうなら、私は――


「優香、大丈夫か?」


 そう言って優香の顔を覗き込む暁。


「あ、はい……」


 そして暁と目があった優香は、暁には何の変化もないことに気が付く。


「あの、先生は『獣人化ビースト』の影響を受けていないように思うんですが、それはどういうことなんです?」

『暁はまた特別でな。無効化の能力がうまく聞いているようで、ヒトの形を保っているんだ』


 ちょっとずるいな――とミケの話を聞いた優香は内心でそう思っていた。


「なるほど。それじゃ、私のヒトとしての寿命はあとどれくらいあるんですか?」

『私が完全に猫になったのは、26歳の時。能力が発動して16年くらいだったかな』


 だいたい26歳くらいで、身体が支配されるとしたら――


「今の私が19歳だから、あと7年くらいと考えるのが妥当ですかね」

『そうだな』

「なんだ、まだあと7年もあるんですね」


 そう言って笑う優香。


「優香……」

「ミケさんも先生もあんまり真剣に言うもんだから、あと1,2年かと思いましたよ! でもあと7年もあれば、たくさん思い出が作れる。まだキリヤ君と一緒にいられる」


 優香はほっとした顔でそう言った。


『優香は随分、前向きに捉えてくれるんだな』

「時間が限られているのなら、落ち込んでなんていられませんよ! 確かに悲しいし、驚きましたけど、おかげで毎日を大切に過ごせそうです!」

「優香が、そう言うのなら……」


 暁が暗い表情でそう言うと、


「もう! なんで先生が悲しそうな顔をするんですか? まだまだ先の話なんですから! それに先生だってまだわからないんですよ? だから1分1秒も無駄になんてしないでくださいね!」


 明るい口調でそう言う優香。


「そうだな。……わかったよ。ありがとな、優香」


 暁はそう言って微笑んだ。


『じゃあ話はまとまったようだし、帰るか暁。私は疲れたから、いつものベッドで昼寝がしたい……』


 そう言って大きな欠伸をするミケ。

 

「ああ、わかったよ。話せる猫って言うのもなかなか手がかかるなあ」


 暁は腰に手を当てながらため息交じりにそう言った。そんな2人のやり取りを見て、楽しそうに笑う優香。


「あれ? そういえば、一緒に来ていた女の子の姿が見えないみたいですけど」

「え……!?」


 そして暁は部屋を見渡した。


「本当だ! まずいな。ちょっと探してくる! ミケさんは……ちょっとここで休憩しててくれ」


 暁は困った顔でミケにそう伝えると、


『わかった』


 とミケはそう言って、その場にしゃがんだ。


「仕方がないので私がミケさんを見張っておきますね」

「助かるよ! じゃあ、ちょっと行ってくる!」


 そう言って暁は打ち合わせルームを飛び出していった。


「あんなに急いで……大切にしているんだな」


 優香はそう呟きながら、暁が出て行った扉を見つめた。


『うーん。それはちょっと違うな』

「あれ、お昼寝したんじゃなかったんですか?」

『やっぱりふかふかのベッドじゃないとな……』

「あはは。そうですか」


 本当に手がかかりそうな猫だなあと思う優香。


「それで違うって言うのは?」

『あの子供……水蓮は厄介な能力持ちでな。目が合った対象を石化してしまう能力者なんだ。しかもSS級クラスだからその力は強大なんだよ』


 まだあんな小さな子供なのに『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』が覚醒しているなんて……それに――


「SS級……暁先生の他にもいたんですね」

『そのようだ。だから無効化の力がある暁と一緒にいないと、能力が勝手に発動したりして、被害者が出てしまうなんてことも』

「そうなんですね」


 あの子はまだ小さい。だからきっと自分で能力をコントロールできないんだ。もし自分の能力のせいで大切な人を失うなんてことがあったら、きっと辛い思いをすることになる。そうならないよう、先生には頑張ってもらわないとね――


 優香はそう思いながら、ミケと共に打ち合わせルームで待つことにしたのだった。

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