第3話ー⑱ 毒リンゴの力
「僕が今やれること……」
キリヤは俯き、ぽつりとそう呟いた。
「うん」
「いつまでも後悔しないこと、かな」
キリヤは優香の方を向いてそう言うと、
「そうだね」
優香は笑顔でそう答えたのだった。
「そっか。僕……こんな結果になるのなら出会わなきゃよかったなんて思っていた。それじゃ、慎太との思い出を否定することになるよね」
「うん」
「僕、忘れないよ。一緒に過ごした時間も慎太のことも。同じように他の能力者が悲しい思いをしないように、僕たちはやるべきことをやらなくちゃね」
そう言って微笑むキリヤ。
「そうだね。私達は今私たちができる最善のことをしよう!」
「うん! ありがとう、優香。助かったよ!」
キリヤはそう言って、満面の笑みを優香に見せる。
「う、うん……」
優香はその笑顔に胸の鼓動が早まるのを感じた。
『惚れた男の悩む顔なんて――』
それから優香は初美の言ったその言葉を思い出す。
べ、別に惚れてなんて――!
そう思いながら、頬を赤く染める優香。
「どうしたの、優香? 顔が赤いよ? 熱でもあるの?」
そう言って、キリヤは自分のおでこを優香のおでこに当てる。
「わ、わあ! 何してんの!!」
そう言いながら、優香はキリヤを突き飛ばした。
「え!? だって熱があったら大変だって思って」
「こういう時、普通は額に手を当てるものなの! な、なんでおでこなんて!!」
「うーん。僕の家ではそうだったんだけどな」
「それって、いつの話!?」
「あはは。でも元気ならよかった」
そう言って微笑むキリヤ。
「私が励ましに来たはずなのに、なんで最終的に私が心配される立場になってるの……」
「あははは!」
そしてキリヤは楽しそうに笑っていた。
良かった、いつも通りのキリヤくんだ――。
安心した優香はそれからキリヤと共に笑って過ごしたのだった。
***
数時間後――
「じゃあ今日はゆっくり休んでね!」
優香はそう言ってキリヤの部屋を出て行った。
それから1人になったキリヤはベッドに寝転ぶ。
「心配させちゃったんだな、僕。優香に余計なことで悩ませたくはなかったんだけどな」
でも優香の言う通りだ。慎太と過ごした思い出はなくしちゃいけない。僕は僕のやるべきことをやるんだ。困っている能力者たちを救うために――。
そしてキリヤはふいに爆発現場を思い出した。血まみれの地面と慎太が着ていたと思われる服の切れ端。
――慎太は、あの時あの場所で命を落とした。
「僕が殺したようなもの、だよね」
大切な人の死を目の当たりにしたのは初めてだったキリヤは、その重さを痛感していた。
いつもならこんな時に恩師の暁へ相談しようと思うキリヤだったが、そのことの重さから、相談すべきことではないと思ったのだった。
そう。今回ばかりはダメだ。先生に同じ重さを背負わせるわけにはいかない――
「これは、僕が1人で背負うべきものだから……」
キリヤはそう呟き、天井を見つめた。
慎太が生きた証を残すためにも、僕は僕のできることをやっていく――
キリヤはそう思いながら頷いた。
「『ポイズン・アップル』のことも結局何も解決できていない。それに『キキ』って呼ばれる少女と『エヴィル・クイーン』のこともまだ……」
慎太が残してくれた大事な手掛かりだ。だから僕がどうなっても、命がけでこの事件を解決する――
「それが、せめてもの罪滅ぼしになるはずだから」
それからキリヤは眠りについたのだった。