第3話ー⑭ 毒リンゴの力
――繁華街にて。
「だ、大丈夫か! もうすぐ助けが来るから、頑張れ!!」
路地裏の方へそう声を掛ける男性。そしてキリヤと優香はその男性の元へ駆け寄った。
「あの、いったい何があったんですか?」
優香が男性にそう尋ねる。
「君たちは……?」
「えっと通報を聞いて駆け付けた捜査関係者というところでしょうか」
優香が真剣な顔でそう言うと男性は優香の言葉を信じたようで、
「そ、そうか。ほら、あの子だよ! 少しずつ身体が膨らんで……」
そう言って路地裏に視線を向けた。
そして男性の視線の先には全身がパンパンに膨らみ、今にも張り裂けそうな少年の姿があった。
「え、あれって……」
その少年は、キリヤがよく知る人物だった――。
「しん、た……?」
キリヤがそう言うと、慎太は苦しそうな顔でキリヤたちの方に視線を向ける。
「キ、リヤ君……?」
「そうだよ! 僕だよ!! ねえ慎太、どうしたの!? なんでこんなことに――」
「僕、にもわから、ないんだ。急、に身体、が暑くなっ、たと思ったら、身体が、膨、らんで……」
「そんな……なんで」
そう言いながら、目を見開くキリヤ。
どうして、こうなった……? さっきまで何ともなかったじゃないか――!
「えっと、慎太君って言ったっけ? 君の能力は何?」
優香はキリヤの目の前に立ち、慎太にそう問う。
「僕の、能力は、爆発。対象の、物質を、爆発する」
「なるほど。今の君は自分にその能力が向いているわけね……とりあえず今は近くにいる人たちに避難してもらわないとね。被害は最小限に――ってキリヤ君、聞いてる?」
キリヤは目の前の慎太をただ茫然と見つめていた。
目の前で自分の友達が苦しんでいる。何とかしなくちゃ――とキリヤは必死に考えていた。
「キリヤ君! 今、やれる最善の行動を考えて!! 避難誘導が最優先だよ? 他のことはあと! 手遅れになる前に」
優香はキリヤの方をまっすぐに見てそう告げた。
「で、でも……このままじゃ、慎太は!?」
「誘導しながらそれは考えよう!! 今は避難誘導が先!」
優香の言葉にキリヤは頷くと、
「わ、わかった……慎太、ちょっと待っていて!!」
そう言って路地裏を出た。
それからキリヤと優香は慎太のいる路地裏から半径100M以内は立ち入り禁止区域として、一般人が立ち寄れないようにした。
『白雪姫症候群』の関係ですと言うと、大概の一般市民の人が協力をしてくれていた。その為、避難誘導はスムーズに終わった。
それからキリヤと優香は慎太の元に戻る。
「ここからどうするか、だよね」
優香は今にも破裂しそうな慎太を見ながら、冷や汗をかいていた。
その様子を見るに、きっと良くない状況なのは間違いない。暁先生がいてくれたら、こんなに悩むこともないのに――。
キリヤはそんなを思ってから、慎太の方に視線を向けた。
「慎太、落ち着こう? 心を落ち着かせれば、きっと力は収まってくるから」
「……」
「……慎太?」
可笑しい、慎太から返事がない――。
キリヤがそう思って慎太を見つめると、
「……!? キリヤ君!! 今すぐここを離れよう!!」
優香は急に焦った声を上げた。
「え……」
「早く!!」
そう言って優香はキリヤの腕を強引につかみ、走った。
「優香、何? 慎太を助けないと!!」
「いいから、走って――!」
そして2人が路地裏から少し離れたところまで走ると、大きな爆発音とともに突風がキリヤたち襲った。
「わあああ!」
その爆風に飛ばされるキリヤと優香。そして2人は地面に転がる。
「いてて――」
そう言いながら、すぐに身体を起こすキリヤ。それからはっとすると、
「慎太――!?」
そう言ってキリヤは自分が出てきた路地裏の方に向かった。
「何、これ……」
そしてそのあたり一帯が爆発によって吹き飛んで無くなっていることを知る。
「――慎太は? 慎太!!」
キリヤは慎太がいたあたりまで戻るとそこに慎太の姿はなく、その代わりに大量の血が残されているのを見つける。
これって血液……? いや、でもそんなはずは――!
「慎太……? 嘘だよね? こんなことって!! ねえ、どこにいるの? 慎太!! 慎太!!」
キリヤはその名を何度も叫んだけれど、誰もその声に応えてはくれなかった。
「慎太……? 嘘だよね!! 慎太が、慎太が爆発するなんて!! ねえ、意地悪しないで出てきてよ!!」
そう叫ぶキリヤの肩を優香が強く掴んだ。
「キリヤ君。彼は……慎太君はもういない。そこの布を見て。慎太君が来ていた服と同じ色。この意味、わかるよね?」
優香は淡々とそう告げる。
そしてキリヤは自分の肩にある優香の手を掴み、ゆっくりと優香の方を向く。そしてそのまま優香を睨んだ。
「わかるよねって? …………わかるわけない。優香の言っている意味が、僕にはわからないよ!!」
「ええ。じゃあそんなキリヤ君に教えてあげるよ! 慎太君は自分の能力で爆発した。死んじゃったんだよ!! だからどんなにその名前を叫んだって、彼はもう返事なんてできないんだよ!!」
優香に言われなくてもキリヤはわかっているつもりだった。だが、それを優香に言われることで急に現実味を帯びてしまう。
「そ、そんな、こと! だって、慎太は――」
キリヤは焦った口調で優香にそう言うと、
「私、言ったよね? 目的を間違えないでって!! これが君の望んだ結末なの? もっとできたことはなかったの?? 今更、なんで後悔なんてしてるの??」
優香は少しきつめの口調でキリヤにそう言った。
もしかして慎太の暴走は、僕のせいなのか……優香に言われたとおりにもっと早く彼を保護していたら、違ったの? こんな結末にならなかったの――?
そう思ったキリヤは急に力が抜け、その場に座り込んだ。
「ごめん……きつい言い方だった。君だけのせいじゃないのに。私も、何もできなくてごめん」
優香はそう言って俯いた。
「……」
しかしキリヤは優香に何も返すことができなかった。




