第3話ー⑨ 毒リンゴの力
バーガーショップを出たキリヤたちは再び『キキ』という少女を捜し歩いた。
しかし一向に手掛かりはつかめず、今日の捜索は打ち切りとなった。
「キリヤ君、仕事中だったのにありがとう。ごめんね!」
「ううん。慎太とたくさん話せて楽しかったから、そんなに申し訳なく思うことはないよ!」
キリヤがそう伝えると、慎太は微笑む。
「ありがとう、キリヤ君!」
「じゃあ、今日はもう帰ろうか。慎太のご両親も心配するだろうしね」
「わかった。ねえ、キリヤ君。……また、会えるかな?」
慎太はもじもじとキリヤにそう言った。
「もちろん! この街にはしばらく仕事で来ると思うから、また一緒にハンバーガーを食べよう!」
キリヤがそう伝えると、慎太は笑顔になり、
「うん!!」
と答えてから帰っていった。
「さて、僕も帰ろうか」
そして優香と約束をしている集合場所へと向かった。
集合場所に着くと、優香は到着しているようだった。
「遅い!! 何していたの!!」
キリヤに向かってそう言いながら、腰に手を当てて仁王立ちをする優香。
「ごめんって! ちょっといろいろとね?」
「へえ。それはさぞかし有力な情報を得たのでしょうね?」
久しぶりに見る優香の黒い笑顔にちょっと寒気を感じつつ、
「も、もちろんだよ!! またあとで話すから!!」
負けじとキリヤはそう言った。
「ふーん。楽しみにしてるね」
それからしばらくして八雲が車で到着した。
「おまたせ!! ごめんね、待ったかな?」
そう言っている八雲の顔は疲れ切っている様子だった。
きっと僕たちを送った後に、また拓真さんにこき使われていたのだろうか――なんてことを思ってしまうキリヤだった。
そして車に乗り込んだキリヤたちは、それぞれの調査結果を報告した。
「それで、優香の方はどうだった?」
「あんまり有力な情報はなかったかな。黒服も田中さんの家に来たっきり、あのあたりには姿を現していないみたい」
「そうなんだ……」
「まああまり同じ地域に固まってターゲットを探しているわけではないってことが分かったから、良しとしようかな。それで? キリヤ君は?」
優香がニコニコとしながらキリヤにそう問いかける。
「それが――」
僕は慎太と出会った事とその時に聞いた話を優香に伝えた。
「『キキ』という少女と『エヴィル・クイーン』って言葉か……」
優香はそう言いながら、顎に手を当てて考えているようだった。
自分だけじゃピンとこなかったこのワードに、優香だったらもしかして何かに気が付くかもしれないとキリヤはそんな期待をしていた。
「『エヴィル・クイーン』って白雪姫の物語に出てくる魔女の名前のはず。もしその慎太君が聞いた言葉が確かなら、彼がいた場所は『ポイズン・アップル』の事件に関係している組織の拠点の可能性が高いね」
「そうなんだ……」
「その子、何もされなかったの? そんな場所に連れていかれて、無傷なんておかしくない?」
優香にそう言われ、キリヤは慎太との会話を思い返す。
「えっとね。その場所を出てから、『白雪姫症候群』の能力値がアップしたって言っていたんだ。それまでは低級能力者だったって」
「じゃあ、その時に『ポイズン・アップル』を……」
そう言って俯く優香。
「たぶんね」
「その子、研究所で保護したほうがいいんじゃない?」
優香が顔を上げてそう言うと、
「そう思う、よね。でももしかしたらこの事件を解決する大きな手掛かりが掴めるかもしれない。だから気は引けるけど、もう少し彼には協力してもらおうかなって」
キリヤは優香の顔をまっすぐに見てそう言った。
そしてそう言うキリヤに少々驚く優香。
「キリヤ君がそう思うのってなんか珍しいね」
「ははは。僕も僕らしくないなとは思う。でも僕はこの事件をどうしても解決したいんだよ」
「……わかった。でも何かありそうならすぐにやめてね。能力者を救うことが私達の役目だってことを忘れないでよ?」
「うん」
そしてキリヤたちを乗せた車は研究所に到着した。
それからキリヤたちは所長への報告のために廊下を歩いていた。
「今回得た情報はどこまで伝えるの?」
優香はキリヤにそう尋ねた。
おそらくすべてを話せば、所長は優香と同じように慎太を保護したほうがいいというだろうとキリヤはなんとなくわかっていた。
「とりあえずまだ黙っておくよ。危なくなったら、ちゃんと所長に報告するから」
「そう。でも八雲さんも聞いていた可能性があることも忘れないでね」
「うん」
それから所長に田中家でのことをだけを報告したキリヤたち。
そして所長から、『行方不明の少年が家に帰った』ということを知らされた。
それを聞いたキリヤは、慎太が『ポイズン・アップル』の件に関わっているという疑惑から確証に代わったのだった。
――このまま慎太と共に行動すれば、きっと事件解決に近づける。
キリヤはそんなことを思うのだった。