第3話ー⑧ 毒リンゴの力
キリヤと慎太はざっと繁華街を周ったころ、探すことに夢中になって昼食を食べ忘れていたことに気が付く。
「そういえば、お腹空いたね……」
慎太はそう言いながら、腹をさすって歩いていた。
「そうだね。休憩がてら、どこかで昼食にしようか!」
「それ、いいね!! 僕、行きたいところがあるんだよ!」
「慎太の行きたいところ? いいよ、そこにしよう!!」
「やった! じゃあついてきて!」
そう言った慎太の後ろについて、キリヤは歩いた。
それから歩くこと数分――
「じゃーん!! ここだよ!」
「ここって……」
慎太が指をさす看板に目を向けると、そこは大手ハンバーガーチェーンのお店だった。
「新作のバーガーをどうしても食べたくって!! いいかな、キリヤ君?」
「こ、ここは……」
呆然とその店の入り口を見つめるキリヤ。
「え、どうしたの?」
「うん、ここがいい! ここにしよう!!」
キリヤは慎太の方を見て、今日一番の大声でそう告げた。
「わ! 急に大きい声出して、どうしたの!? ただのハンバーガーショップじゃない?」
「実は僕、こういうお店に来たことがなくて――」
小学生の時から保護施設にいたキリヤは大手ハンバーガーチェーン店に足を運んだことがなかった。
テレビで観ていてその存在は知っていたものの、実際に来ることは初めてだったため、目の前にある店を見て興奮していた。
まさか友達と来ることができるなんて……夢だったんだよ――!
そんなことを心の中で叫んでいた。
「そっか、来るの初めてなんだ!? こんなポピュラーなお店なのに! へえ」
キリやの話をきいた慎太は驚いた顔をしていた。
無理もないか。普通に生きてきた慎太には僕が生きてきた人生をわかるはずもない。僕が慎太の生きてきた人生がわからないようにね――
そう思いながら、慎太の顔を見るキリヤ。
そしてそんな自分たちがこうやって繋がることができるなんて、本当に人生ってわからないものだなとキリヤは思ったのだった。
「キリヤ君、どうしたの?」
「ううん、何でもない」
「そう? じゃあ、こんなところでボーっとしていないで行こうか!」
慎太は笑顔でキリヤにそう告げると、店の中に入っていった。
「ま、待って!!」
続いてキリヤも店内に入る。
「いらっしゃいませー」
甲高い女性の声が響き、若者の客でごった返しているその店内はキリヤにとって未知の世界だった。
「わああ」
キリヤは店の入り口で感動のあまり見とれて動けずにいた。
「キリヤ君、そこにいると邪魔になるから! ほら、こっちに来て!!」
慎太はそう言いながら、キリヤの腕を掴んで歩く。
それからカウンターの前に来たキリヤと慎太。
「今から僕が注文するから、同じようにしてね?」
「わかった」
「辛口チーズバーガーセット、サイドメニューはポテトでドリンクはコーラ。単品でナゲットを一つ、限定のチリソースで。……こんな感じ」
「え!? 何今の呪文……」
キリヤは慎太の言っていた言葉に困惑していた。
カラクチチーズバーガーセット? サイドメニューハポテト――?
「ほら! キリヤ君も」
急かす慎太。しかしキリヤはどうしたらいいのかわからず、
「お、同じものをください」
そう伝えたのだった。
それからキリヤたちは席に着く。
「ううう。大手ハンバーガーチェーンのお店……かなり手ごわかった」
キリヤはそう言って机に突っ伏す。
「ま、まあ初めはあんなもんだよ。また挑戦しよう?」
笑顔でキリヤにそう告げる慎太。
「うん……」
それからしばらくするとキリヤたちの机に先ほど頼んだバーガーセットが運ばれてくる。
「これがファストフード、なんだね」
そう言ってからキリヤはごくりと唾を飲み込み、ハンバーガーを手に取った。そうして包み紙をゆっくりとはずして、バーガーを口まで運ぶ。
「こ、これは!?」
口の中に辛みの効いたチーズとお肉のうまみがキリヤの口の中広がっていった。
「お、おいしいね! 外にはこんな素敵な食べ物屋さんがあるんだね……」
「うんうん」と頷きながら、初めて食べるハンバーガーの味にキリヤはとても感動していた。
「ははは! キリヤ君って面白いよね!!」
そう言ってから、慎太もバーガーを頬張る。
「ううーん。この辛み、絶妙だなあ! 今回もアタリだね」
そう言って食べる慎太を見たキリヤは、
「慎太はよくここへ来るの?」
そんな質問をしていた。
「そうだね。ここのお店は結構好きなんだ。だからよく来るかも!」
「そっか」
「他にもいろんなメニューがあるからまた来よう、キリヤ君!!」
「うん!!」
それからキリヤたちはしばらくそのバーガーショップで過ごしたのだった。