第3話ー④ 毒リンゴの力
――剛の個室にて。
訓練を終えたキリヤは剛の部屋に来ていた。
喉の調子が戻り通常の会話ができるようになった剛と話をするため、キリヤは毎日この場所に来ていたのだった。
「――なあ、キリヤはいつもどんな仕事をしているんだ? 研究所って何かを研究するところなんだろう? キリヤも何かの研究をしているのか?」
剛は首をかしげながら、そんなことをキリヤに尋ねる。
本当のことを伝えるべきか……いや、きっとそれは今じゃない――
そう思ったキリヤは、剛に真実を告げることはしなかった。
「ま、まあそんなところかな! 今日も能力者の子供たちのデータをね――」
キリヤはそう言ってはぐらかしつつ、嘘の情報を剛に伝えた。そして剛は何の疑いもなく、キリヤの話を真面目に聞いていたのだった。
今の話はほとんど嘘なのに、こんな馬鹿真面目に話を聞いてくれるなんてさ
……見た目に似合わず、剛は真面目過ぎなんだよ――
そんな剛を見て、キリヤは余計に自分たちのことを伝えたらいけないと思った。
きっと僕の仕事のことを知ったら、剛は自分も協力すると言いかねない。それだけは絶対にダメだ――!
剛はまだ目を覚ましたばかりの上、憧れている夢がある。また前に進むことを許された剛の道を誰も阻むことは許されない。
だからこの事件が解決して、剛が無事に夢を叶えた時に真実を告げようとキリヤはそう決意したのだった。
それが剛の為であり、自分が願っている能力者の救済の一つってことなんだろうな――
「キリヤ?」
キリヤが急に黙り込んだことを心配したのか、剛はキリヤの顔を覗き込みながらそう言った。
「あ、ごめん! ちょっと考え事をしてた」
「大丈夫か?」
「うん、平気だよ!!」
キリヤは笑顔でそう言った。
「そっか。キリヤがそう言うなら。……あ、そういえば。俺が見ていた夢の話をするって約束してただろ? それをいつにしようか!」
確かにそんな約束をしていたっけ。でも――
「ごめん。その話はまた今度でもいい? しばらく仕事でバタバタしそうでさ。僕からの頼み事なのにごめんね」
「そっか……働くって大変なことなんだな。わかった! またひと段落したらでいいぞ」
そう言って剛はキリヤに微笑んだ。
「ありがとう、剛」
それからキリヤは剛の部屋を出た。
話があると剛がそう告げている時点で、きっと剛も夢を見ていたんだろうなと推測するキリヤ。
結論は出ているけれど、でも剛がどんな夢を見ていたのかキリヤは興味があった。
「ははは。もう何があっても、帰ってこなくちゃいけない理由ができちゃったな」
キリヤはそう呟き、自分の部屋に向かって歩き出したのだった。