第3話ー② 毒リンゴの力
廊下にて――。
キリヤと優香は訓練の途中で所長から任務の話があると呼び出され、『グリム』のミーティングルームへ向かっていた。
「任務って何なんだろうね……もしかして『ポイズン・アップル』関連かな」
キリヤは隣を歩く優香にそう聞くと、
「どうだろうね……私達だけでその任務に行かせることはきっとないだろうから、単純に能力者関連の事件捜査なんじゃないかな」
優香は前を向いたままそう答えた。
「……そうだね。優香の言う通りかも」
そう言いながら肩を落とすキリヤ。
「そんなに気落ちしないでよ! どんな任務でも、能力者を救っていることに変わりはないはずでしょ? 今は自分たちのできることから! ね?」
優香は微笑みながら、キリヤにそう告げる。
「わかった! そうだよね。今は僕にできる最大限のことをやるよ!」
「その意気、その意気!」
そしてキリヤたちはミーティングルームに到着した。
キリヤたちがミーティングルームに入ると、そこにはキリヤたちを呼び出した所長と普段は任務で不在なことの多い神無月がいた。
「神無月さん! お疲れ様です!! 珍しいですね、こんな時間に」
キリヤは神無月の顔を見るなり、嬉しそうにそう言った。
「おう! たまには新人の顔も見てやらないとな!」
「新人って……私達、もう2年目なんですが」
優香は新人と言われたことにとても不服そうな表情をしていた。
「いやあ、悪い悪い! 俺の中では、お前たちはまだまだかわいい新人なんだよ! でももう2年か……時が経つのは早いものだな! ははは!!」
そう言って豪快に笑う神無月。
「盛り上がっているところ申し訳ないが、本題に入っても?」
所長が神無月とキリヤたちに向かってそう言うと、
「ああ、すまない。邪魔したな! じゃああの子の件はよろしく頼んだぞ」
そう言って、神無月はミーティングルームを出て行った。
「あはは。神無月さんは相変わらずですね」
キリヤは神無月が出て行った扉を見つめながらそう言った。
「彼があのままでいてくれるから、私達も安心できるのさ。じゃあさっそくだが――」
それから所長は、キリヤたちを集めた理由を話し始める。
「――少年が行方不明になった?」
「ああ。帰り道にA級クラスの高校生に絡まれているところを目撃したという情報まではあるんだが、その先の行方がね……」
そういえば、裕二の時もA級能力者の高校生たちが裕二を路地裏に連れて行ってってことがあったな――
キリヤがそう考え込んでいるうちに、優香と所長はどんどん話を進めていく。
「それって神隠し、とかでしょうか」
「いや。おそらく誘拐事件の可能性が高い」
所長は顎に手を当てて、そう答えた。
「? その根拠はなんですか?」
優香は所長に問う。
「実は最近、低級能力者の誘拐事件が増えていてね。行方不明のままの子供もいれば、クラスアップをして戻って来る子供もいるみたいなんだ」
「クラスアップ!?」
キリヤは『クラスアップ』という単語を聞いて、ふとあることを思い出していた。
『ポイズン・アップル』は特性として、使用者は現状の能力値より飛躍的に強い力を得ることができるということだ。
いろはもそれでS級になったんだったよね。それにさっき読んだ報告書の中にも――
「キリヤ君は何かに気が付いたみたいだね」
所長は何かを察してか、キリヤの顔を見ながらそう言った。
「はい。これって、『ポイズン・アップル』が関係しているってことですよね」
キリヤの言葉を聞いた優香は、「なるほど」と小さく呟きながら頷く。そして、
「ご名答。私もそういう見解だ。これが『ポイズン・アップル』事件の根本を解決するわけではないが、放ってはおけないと思ってね……この案件を君たち2人に頼めないかなと」
所長のその言葉を聞いたキリヤが優香の方を見ると、優香はニコッと微笑んだ。
そしてキリヤも優香に笑顔で返し、
「その事件、お引き受けします!」
所長にそう答えた。
「ありがとう。助かるよ。それじゃあ、出発は2日後。それまでに目を通しておいてほしい資料があるから、また用意するよ」
「わかりました」
そしてキリヤと優香はミーティングルームを出た。
「一歩前進だね」
優香は部屋に出てから、キリヤに微笑みながらそう告げる。
「そう、だね……」
先ほどとは違う、浮かない顔をするキリヤに首をかしげる優香。
「どうしたの? もしかして怖気づいた?」
「そ、そんなんじゃないよ! ここからなんだなって思ったらさ」
「なるほど、そういう事……。ねえキリヤ君、頑張ろう。私達にできることをしようよ!!」
優香がそう言って笑うと、「うん!」とキリヤも笑顔で答えたのだった。
そうだよ、僕はようやく『ポイズン・アップル』事件に関わることができる。いろはの自由のため、そして『ポイズン・アップル』で苦しむ能力者を救うため……僕はできることをするんだ――!
そして覚悟を決めたキリヤたちは、再び訓練室へ戻り訓練を再開したのだった。




