第4話ー② もう一人の自分
それからキリヤがまゆおたちと会話をしていると、1人の少年が食堂にやってきた。
「おーい、真一。新曲のことなんだけど……誰?」
その少年はキリヤと優香を見て、驚きながらそう言った。
無理もないよね。僕も同じ気持ちだ――
そしてキリヤは、たぶん彼が暁の言っていた転入生なんだろうということを察した。
「えっと……桑島キリヤです。ここの卒業生で……たぶんマリアのことは知っているよね? 僕はマリアの兄です」
キリヤはそう言いながら、頭を下げた。
「ご、ご丁寧にありがとうございます。自分は鳴海しおんと言います。そこの真一とロックミュージシャンを目指しているアマチュアギタリストです」
そう言って、しおんは丁寧に頭を下げた。
「……真一が、ロックミュージシャン?」
キリヤはしおんの言ったその言葉に驚く。
「そう。僕としおんはコンビを組んで、音楽活動をすることにした」
真一はいつものように、無関心な声でそう言った。
「し、真一が誰かと一緒に……? しかも、音楽活動って……え? ええ!?」
真一が誰かを頼るなんてところを見たことがない。僕がいなくなってから、この施設にいったい何があったというのだろうか――
そんなことを思いながら、真一を見つめるキリヤだった。
「2人の歌、すごくいいんですよ!」
結衣は嬉しそうにそう言った。
「そうなんだ!? ねえその話、詳しく知りたい!!」
キリヤがそう言うと、
「仕方ないなあ。じゃあ、少しだけだからね」
真一はそう言って、これまでのことをキリヤたちに話し始めた。
「SNSで拡散されて……へえ」
「あの時はびっくりしたね」
「ああ、そうだったなあ。そういえば、あの後にさ――」
それからしおんを交えて、真一は当時のことを楽しそうに語っていた。
真一が誰かとこんなに楽しそうに話すなんてね――真一としおんから話を聞きながら、キリヤは心の中でそう思ったのだった。
それから数時間、キリヤたちは他愛ない話で盛り上がり、あっという間に時間は経過ていた。
――夕食時、食堂にて。
食堂にさっき顔を見せていなかった2人の女子生徒が来ていた。
1人は優雅で可憐な少女だったけれど、初対面のキリヤたちのことを警戒しているのか、あまりいい印象を持っていないようだった。
「ごめんな、織姫は人見知りというか……仲良くなれば、もっと友好的になってくれるんだけど」
暁はそう言って申し訳なさそうな顔をして、キリヤたちに謝っていた。
「大丈夫! 気にしていないよ」
キリヤはそう言いながら、暁に笑いかけた。
そしてそんなキリヤたちの前に、
「せーんせっ! このかっこいい人は誰ですかぁ?」
そう言いながら、楽しそうに笑う少女がやってきた。
「り、凛子!? いつの間に……」
「もう、ひどいこと言いますねぇ! りんりんのスーパーアイドルオーラ、感じ取れなかったんですかぁ?」
「す、すまん……」
「あの、えっと……君は?」
キリヤは目の前に突然現れた凛子に困惑しながら、そう問いかけた。
「失礼しました! 私、人気アイドルの知立凛子です☆ 以後、お見知り置きを!」
そう言って、ウインクをする凛子。
「よ、よろしく……」
「おい、凛子! 人気アイドルは嘘だろ! 子役崩れアイドルですってちゃんと言えよな!」
しおんが凛子へ挑発するようにそう言った。
「はああ? そういうしおん君だって、へっぽこギタリストでしょぉ? ちゃんとそうやって説明しましたかぁ?」
「は? やんのか!!」
睨みあう凛子としおん。
「こら! お前らはいつも……今日はお客さんがいるんだから、それくらいにしておけって!!」
「「ふんっ」」
暁の言葉を聞いた2人は、そう言って同時にそっぽを向いていた。
「悪いな、騒がしくて」
暁は再び申し訳なさそうな表情でキリヤにそう告げた。
「だ、大丈夫……」
キリヤは苦笑いをしつつ、暁にそう告げたのだった。
先生の言った通り、なかなか個性の強い生徒たちぞろいだ――とキリヤは思ったのだった。