第3話ー⑨ 異変
キリヤたちがミーティングルームに着くと、そこには所長の姿があった。
「何かあったんですか?」
キリヤは所長の顔を見るなり、そう問いかけた。
「ああ。まずいことになった。君たちが確保した能力者の少年が、警察署から逃げ出したらしい」
「え……」「そんな!」
所長の言葉を聞き、驚愕の表情をするキリヤと優香。
「それで、また君たちにその子を捕まえてほしいんだ。能力がわかっている君たちの方が、他の隊員を向かわせるよりもリスクは少ないだろう」
「そうですが……」
そう言ってキリヤは優香の方を見る。
確かに戻って来た時の優香よりは元気を取り戻している。でも優香の中にあるスライムがまたいつ牙をむくかなんてわからない――。
キリヤはそんな優香を連れて行くのは、正直不安だった。
もしも優香に何かあったら――。
そう思って暗い表情をするキリヤ。
そして優香はそんなキリヤの気持ちを察したのか、
「私なら大丈夫だから。だから信じて、ね?」
と微笑みながらそう言った。
「優香……」
そうだよ。僕は優香を信じる。そう約束したじゃないか――!
「うん、わかった。僕は優香を信じるよ」
キリヤはそう言って優香に向かって強く頷いてから、所長の方に顔を向ける。
「所長、行きます! 今すぐにでも!」
「ありがとう。面倒をかけてすまないね。車は入り口に着けてあるから、急いで向かってくれ!」
「「はい!」」
そしてキリヤたちは再びあの街へと向かった。
***
ビルの屋上。そこには不敵に笑う少年の姿があった。
「ふふふ。さて、仕返しは倍返しでしなくちゃね」
そう言ってから少年は屋上の扉を出て行った。
***
キリヤたちは再びあの街に着くと、時刻は午前3時を過ぎていた。
「大丈夫かい? 移動時間で少しでも休めたのならいいけれど……」
八雲は心配そうにキリヤたちの顔を見ながらそう告げた。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ。八雲さんもずっと運転で疲れていると思うので、ここでゆっくりと休んでいてください! 必ずあの少年を捕まえて、戻ってきますから」
キリヤが笑顔でそう告げると、
「ははは。心配したつもりだったのに、逆に心配されるなんてね。ありがとう。君たちが無事に帰ってくるのを僕はここで信じて待っているからね。だからくれぐれも気をつけるんだよ」
八雲はキリヤたちの方をまっすぐに見てそう言った。
「はい!」「わかりました」
そしてキリヤと優香は、スライム少年を探しに出る。
深夜の街中を歩くキリヤたち。
「探すって言っても、あてがないんじゃ……。どうする、優香?」
キリヤがそう言って優香の方を向くと、優香は額に手を当ててふらつきながら歩いていた。
「優香!? やっぱり、調子が悪いんじゃ……」
そう言いながら優香の肩を抱き、優香の身体を支えるキリヤ。
「大丈夫、大丈夫……。そんなに大げさなもんじゃないからさ。……さあ行こう。早く解決しないと、また誰かが傷つくことになる」
優香はそう言ってキリヤの手を振りほどくと、再び歩き出した。
「うん。わかった……」
君は大丈夫って言うけどさ、やっぱり心配だよ――そう思いながら、キリヤもまた歩き出した。
それからまたしばらく歩くと、優香は突然真っ暗なビルの前で止まり、じっと中を見つめた。
「優香、どうしたの?」
そんな優香に疑問を抱いたキリヤは、優香の見ているところに視線を向けて優香に問う。
「ここ、かもしれない……」
優香は静かにそう言った。
「それって少年の居場所ってこと……?」
「うん。なぜかわからないけれど、でもここだってわかるんだ」
「え……」
これはもしかして優香の中にあるスライムが、元の能力者である少年に反応しているのだろうか――。
そんなことを思いつつ、優香とビルを交互に見つめるキリヤ。
そして優香は一人でビルの中に入っていく。
「待って!!」
キリヤは優香を追い、遅れながらもビルの中に入っていった。




