表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/126

第3話ー⑦ 異変

 優香は廊下を歩きながら、先ほどの自分の態度に後悔していた。


 なんであんな言い方をしてしまったんだろう……。そんなつもりなかったのに。今度こそ、本当にキリヤ君には愛想をつかされたかもしれないな――。


「ちゃんと謝らなくちゃね……はあ」


 スライム少年の能力を受けてから、自分がおかしくなってしまったことをなんとなく察する優香。


 優香は見えているものや聞こえているもの、そのすべてが自分を責めているように感じていた。それは信頼しているはずのキリヤに対しても――。


「本当に私はどうしちゃったんだろう……」


 それから優香は部屋に入り、そのままベッドに寝転んだ。そして部屋の天井を見上げながら、どうしたらいいのかわからないこの状況に悶々と悩んだ。


「私、もうここにはいられなくなるのかな。今のままじゃ、きっと役に立てない……」


『ええ。あなたはいらない子よ。ここでもあなたのことなんて、誰も必要としていないわ。あなたなんて生まれてこなければよかったのよ……』


「え……お母さんの声?」


『あなたがいなければ、私は……』『あんたなんて、死ねばよかったのよ!』


 優香はどこからか聞こえてくるその声に耳を塞ぐ。


「やめて……。やめてよ」


 しばらくすると、その声は止んだ。


「もう嫌だ……」


 それから優香は膝を抱えて、俯きながら座る。


 すると、扉を叩く音が聞こえた。そして優香はその方をゆっくり見る。


 もしかして、キリヤ君かもしれない――。


 そんな期待をして返答をしようとすると、


「優香君、いるかい?」


 その声から部屋に訪れたのはキリヤではなく、ゆめかだという事を知る。


(そっか、キリヤ君じゃなかったか……)


「白銀さん……。どうかしましたか」


 優香は覇気のない声でゆめかに答えた。


「いや、さっき様子が変だったのが気になってね。入ってもいいかい?」


 優香は扉の前まで行き、この扉を開けるべきかを悩んだ。


 いつもの優香なら、迷うことなく簡単にこの扉を開けていたかもしれない。しかし今の優香はいつもと違い、人と関わることが怖かった。


(白銀さんが悪い人じゃないことはわかっているのに、会えばきっと不安になる。その言葉に悪意を感じてしまう。だから今は――)


「今日はもう休むので……ごめんなさい」

「そうか……」


 もしかしたら白銀さんは、とても嫌な気持ちになったかもしれない。せっかくの私の好意をって思うかもしれない――。


 そんな思いを抱き、後悔する優香。


(私、最低だ……)


 そして再び聞こえる幻聴。


『いつまで引きこもっているのよ! あんたがいつまでもそうしていると、こっちが迷惑なの! なんでわからないかな』

『なんでこんな子を産んじゃったのかしら。あー、やだやだ』


 そして優香はまた両耳を塞ぐ。


「……もう嫌。放って置いてよ……。私なんかいなければいいんでしょ!」

「優香君……?」

「もう終わったって思っていたのに、なんで。また……」

「優香君!!」


 優香はゆめかの言葉で我に返る。


「あの、私……」

「きっと優香君も疲れたんだね。だから今夜はゆっくり休んでくれ。それでまた明日、必ず会おう。私は君を待っているからね」


 ゆめかはそう告げて、歩いて行ってしまった。


 そして扉の前から去っていく足音を聞いた優香はその場でしゃがみこむ。


「また私は、ひどいことを……」


 やっぱり私はいらない子なんだ。人を裏切り、傷つける。最低な人間――


「こんな自分、嫌だよ……」


 優香はその場で両手をつきながら、大粒の涙を流した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ