第3話ー③ 異変
数時間後。訓練を終えたキリヤは訓練室に併設されているシャワー室で汗を洗い流してから、『グリム』のミーティングルームにやってきた。すると、
「やあ。お疲れ様。今日は2人で訓練をしていたんだね」
先にミーティングルームにいたゆめかがそう言って、キリヤを迎えた。
「白銀さん! お疲れ様です。そうですね。今度の任務に備えて、ちょっと身体を作っておきたいなって思って」
キリヤはゆめかにそう言って、ミーティングルームの中に入っていく。
「まじめでいいね。感心、感心」
ゆめかは頷きながら答える。
「そういえば、出張ってどこへ行っていたんですか?」
キリヤがそう尋ねると、ゆめかはニヤッと笑う。
「今日はキリヤ君がいた保護施設に行ってきたのさ。いつも暁君に来てもらってばかりだから、たまには私の方からと思ってね!」
「え、一人で遊びに行ったんですか?」
キリヤはそう言って疑いの目をゆめかに向ける。
「いやいや。仕事だよ! 仕事!! 生徒たちのヒアリングにね。最近いろいろとあったみたいだから。少しでも暁先生の役に立てたらいいなと思って、私から直々にね」
「そうですか……」
キリヤはその話を聞き、施設にいる暁のことが少し心配になった。剛が暴走して目を覚まさなくなった時に暁は自分のせいだとひどく落ち込み、自分の道を見失っていた姿を見ていたから。
もしかして今の先生も、同じ状況なんじゃ――。
そんなことを思いながら、暗い表情になるキリヤ。
「君が思うようなことにはなっていないから、そんなに心配することはないよ。私が見る限り、彼は健康だった。それに前よりもずっと強くなったと思ったよ」
ゆめかは嬉しそうに微笑んでそう言った。
そんなゆめかを見たキリヤは、彼女は施設で何を見てきたんだろうと羨ましく思ったのだった。
――そう言えば、僕は卒業してから一度も施設に戻っていなかったな……今度の任務が終わったら、優香と一緒に施設に遊びに行こう。僕が経験したこれまでのことを先生に話したいから。その為にも今回の任務は絶対に遂行する!
キリヤはそんなことを思い、
「そんな話を聞いたら、僕も負けていられませんね」
そう言いながら、ゆめかに微笑んだ。
それを見たゆめかはキリヤの目の前に来て、ニコッと微笑むと、
「そうだね。君は君らしく。君の道を行ってくれればいいよ」
そう言ったのだった。
「はい!」
キリヤは笑顔でゆめかにそう返したのだった。
「あれ、白銀さんですか? お疲れ様です」
背後から急に聞こえたその声に、振り返るゆめか。
「ああ。優香君、お疲れ様。キリヤ君をいじめ過ぎなかったかい?」
「なんで僕がいじめられている前提なんですか!!」
キリヤはその言葉にむきになってそう答えた。
「だって、ねえ?」「はい……」
ゆめかたちは顔を見合わせながら、そう言った。
「なんなの、もう!!」
キリヤがそう言うと、ゆめかたちは声を出して笑っていた。
その後、キリヤたちは次の任務の話へ。
「そういえば、次は調査任務なんだって?」
ゆめかは座っている椅子の上で足を組みながら、笑顔でキリヤたちに尋ねる。
「そうですね」
優香は頷きながらそう答えた。
「能力が不明の相手にどう挑むのか……。それがカギになりそうだね」
「でも能力が不明なだけに、やっぱり少し不安ですね」
キリヤは俯きながら、そう答える。
「大丈夫じゃないかい? 君には心強いパートナーがいるだろう?」
そう言われたキリヤは優香の方に目を向ける。
そして優香は自信満々な顔でキリヤのことを見ていた。
「そうでしたね」
キリヤはそう言いながら、くすっと笑った。
「なんだか馬鹿にされたように思えるんですけど?」
顔を見て笑ったキリヤに、優香は不満そうな顔をした。
「ははは……」
さっきからころころと表情が変わり、優香は忙しそうだなと心の中で思っていたキリヤだった。
「でもその通りさ。君たちは1人じゃまだまだでも、2人が揃えば、最強のバディだと私は思っているよ。それは訓練をずっと見ている私だからこその判断さ」
「白銀さん……」
(そんなことを思ってくれていたんだ……日々、鬼畜上司とか思っていてすみません。これからはもっと感謝の気持ちを抱きながら白銀さんのことを見ますね)
そう思いながら、ゆめかの顔を見るキリヤ。
「次の任務も君たちらしく解決してくれたら、それでいいんだよ」
そしてキリヤたちはゆめかのその言葉を聞くと顔を見合わせ、
「「はい!」」
と笑顔でそう答えたのだった。




