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第3話ー① 異変

 キリヤたちが所長室に入ると、所長はソファで優雅にコーヒーを嗜んでいた。


「やあ、待っていたよ」


 そう言いながら、キリヤたちに顔を向ける所長。


「とても待っている人の態度には見えないのですが……」


 優香は所長の状態を見ると、呆れながらそう告げる。


「ははは! まあまあそう言わず。君たちもどうだい? 今日は新作を入荷してね!」

「あはは。結構です!」


 優香は笑顔でそう答え、


「そうか……」


 そう言って所長はしゅんとしていた。


 自分一人だとこういう時はつい相手に流されがちだけど、優香と一緒にいると巻き込まれずに済むから本当にありがたい――キリヤは優香たちのやり取りを見てそう思ったのだった。


「それで、今回の任務はなんでしょうか?」


 優香は落ち込む所長のことはお構いなしに、ここへ来た目的を果たすために所長へそう問いかけた。


「そうだね。君たちはその為にここへ来たんだよな……。そうだよな」


 所長はさみしそうに、コーヒーカップの中を見つめる。


 カップの中に注がれているコーヒーに所長の顔が映り、とても悲壮感溢れる顔をしていることがわかる。


 キリヤは優香の肩を叩き、後ろを向くようにジェスチャーで伝える。


 それを見た優香は、少々めんどくさそうな表情をしつつも後ろを向く。


「たぶんコーヒーを飲まないと、話してくれないつもりだよ。諦めて、所長のおすすめコーヒーを飲もうよ」


 キリヤは所長が聞こえないくらいの小さな声量で優香にそう言った。


「はあ。わかったよ……。まったく…」


 優香はため息交じりにそう答える。


 そしてキリヤたちは所長の方を向くと、


「ああ、優香。コーヒー飲みたくなってきたね」

「そうだね、キリヤ君」


 心の全く籠っていない言葉で会話をするキリヤと優香。


 それを聞いた所長は、目を輝かせた。


「そうだろう、そうだろう! 今準備するから、少し待っていてくれよ!」


 そう言って所長は、奥の給湯室に消えていった。


「はあ」

「ちょっと! 所長に聞えるよ!?」

「これくらいいいでしょ」

「あははは……」


 仕事をしているときの所長は、仕事のできるかっこいい男性だとキリヤは思っていた。


 しかし個室にいて、コーヒーを片手に持っている所長は要注意しなければならない。それはいつもキリっとしているはずの所長がその雰囲気がなくなり、コーヒーのことばかり考えて締まりがない感じになるからだった。


 所長が新作のコーヒーを手に入れた時は、必ず研究所の誰かが生贄となり、共にコーヒーの儀を執り行わなければならないという暗黙のルールがある。


 そしてそれを終えるまで、話が全く進まないというどうにも面倒なイベントだった。


 そんなことを考えているうちにコーヒーの支度ができたようで、所長はコーヒーカップを2人分用意して給湯室から出てきた。


「じゃあ、2人ともそこに座ってくれ」


 そう言ってキリヤたちをソファに座るように促す所長。


 キリヤたちは言われるがまま、ソファに腰を掛ける。


「今回のコーヒーは香りにこだわってみました!」


 そう言いながら、所長はキリヤたちのカップにコーヒーを注いでいく。


「さあ、飲んでごらん?」

「あ、はい。いただきます」


 キリヤが普通にカップへ口をつけようとすると、


「ストップ! 待ってくれ、キリヤ君。香りにこだわったと言っただろう?」


 そう言って、コーヒーを飲もうとしたキリヤを静止する所長。


「はい、聞きましたけど……。あの、それで……」

「香りを楽しむときは、いきなり口に運ぶのはもったいないって話さ!! いいかい? コーヒーって言うのはね――」


 それからかれこれ1時間ほど、所長のコーヒー愛を聞かされたキリヤたちのコーヒーはすっかりと冷めていた。


「じゃあ今のことを踏まえて!」

「じゃ、じゃあ」


 しかし冷めきったコーヒーからは、もう何の香りもしていなかった。


 これは試練だと思いつつ、キリヤは所長の言われた手順でコーヒーを飲み干した。




「じゃあさっそくだけど、任務の話をしようか」


 所長はコーヒーセットを片付けると、自分の机に着き、ようやく任務の話を始めた。


 さっそくとは言いつつも、どの辺が「さっそく」なのかぜひ説明してもらいたい――キリヤは心の中でそう思ったのだっだ。


「次の任務はとある調査の依頼だ」

「とある調査……?」

「ああ。どうやら能力者が町の人に自分の能力を使って、いろんな事件を引き起こしているらしい」


 優香は頷き、


「なるほど。その事件を起こしている能力者の特定と、可能であれば事件の解決ということですね?」


 そう尋ねる。


「ああ、そういうことだ。しかしどんな能力者なのかがわからないから、細心の注意を払ってくれ。君たちに何かあったら、私は暁君に顔向けできないからね」


 笑顔でそう言う所長。


 確かに。僕たちにもしものことがあったとなれば、暁先生は泡を吹いて倒れてしまうかもしれないな――。


 キリヤは、先生のそんな姿はみたくないと思い、所長の言葉を肝に銘じることにした。


「じゃあ任務は3日後からだ。それまでに準備を進めておいてくれよ」

「「はい!」」


 そしてキリヤたちは所長室を出た。




「じゃあとりあえず、訓練室に行く? もしものために何か役立つことを得られるかもしれないし」


 キリヤは廊下を歩きながら、優香に問う。


「そうだね。なんだか思い切り身体を動かしたい気分だよ! コーヒーもたくさん飲んだしね」

「あはは。そうだね」


 それからキリヤたちは訓練室のある、『グリム』の隠し部屋へ向かった。

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