第2話ー③ 風船少年
夕食の用意ができたことを伝えるために、紗季は優香の部屋に訪れていた。
「お迎えに上がりました。食事のお時間です」
それから優香は紗季の後ろについて歩く。
そして優香は食堂に向かう途中でキリヤの姿がないことに疑問を抱いた。
「あの、キリヤ君は……」
「先ほど、お部屋の前でお呼びしたのですが、桑島様からの返事がなくて。もうお休みになったのかなと思い、それ以上は何も」
「そうですか」
優香は紗季の言葉に違和感を覚える。
通常のキリヤ君ならともかく、任務中のキリヤ君がそんなことをするだろうか。むしろさっきまで何もせずにゴロゴロしていた私の部屋に来て、『ちゃんとして!』って言ってくるような人のはず――。
「何かあったのかな……」
優香はそんなことを考えて歩いていると、正面から七三分けの少年の姿を見つける。
そして少年も優香の存在に気が付き、
「紗季、その人は?」
優香の顔をまじまじと見ながら、紗季にそう尋ねた。
「はい。こちらは明日のパーティで太陽坊ちゃまの警護をすることになっている、糸原優香様です」
「こんにちは。初めまして」
優香は紗季に紹介され、その少年に頭を下げる。
「へえ」
なんだか態度の大きい少年だなあ。浜風さんへの態度を見ると、おそらくこの子が太陽坊ちゃまなんだろうね――。
そんなことを思いながら、太陽を見つめる優香。
「警護役って、2人もいたんだね」
「2人も……?」
まるで自分以外にもいることを知っているような口ぶりね――
そして優香ははっとして、
「もしかして、もう1人のお兄さんにあった?」
笑顔で太陽にそう尋ねた。
「さあ? 知らなーい!」
そう言いながらニヤニヤと笑い、太陽はどこかへ走り去った。
(あれは何か知ってる言い方ね……キリヤ君、こんなに小さい子に何されてるのよ)
そう思いながら、額に手を当てる優香。
「はあ。あの、浜風さん……。太陽坊ちゃまが来客の人が来たときって、いつもどんな感じですか?」
優香が呆れながらそう尋ねると、紗季は困った顔をしながら、
「……お察しの通りです。太陽坊ちゃまはご主人様や奥様から構ってもらえないさみしさからなのか、お客様や警護の方にいつもいたずらをするのです」
「そうですか」
確かにここにいると、さみしさを感じてしまうかもしれない。親から見てもらえないさみしさは、私にも理解はできる。構ってほしくて、自分を見てほしくて、つい間違った行動に走ってしまうもの――。
そう思いながら、優香は俯く。
(今はそうじゃなくて!!)
そして優香は顔を上げて、
「あの、キリヤ君の場所に心当たりはないですか?」
紗季にそう尋ねた。
「たぶん――」
それから優香は紗季に連れられて、キリヤの捜索に向かったのだった。