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第2話ー② 風船少年

 御茂山おもやまの部屋についたキリヤたちは、御茂山本人から今回の依頼の概要について改めて説明される。


「――つまり明日行われるホームパーティの間だけ、息子の太陽たいようのお守りをしてほしいというわけだ」

「わかりました!」

「ははは! でも君たちみたいな若い子が来てくれてよかったよ。ここは大人しかいないから、太陽と遊んでやれる友達がいないからね」


 御茂山は話を終えると、ほっとした顔でキリヤたちにそう話した。


「そう言っていただけて、光栄です。太陽くんのためにも頑張ります」

「ありがとう。一日だけでもいいから、太陽のお友達としてよろしく頼みます」


 御茂山はキリヤたちに深々と頭を下げた。


「そんな! 頭を上げてください!! こちらこそ、太陽くんと仲良くなれたらいいなと思っております!!」

「それは太陽もきっと喜ぶと思います。それではお守りの件、頼みます」


 それからキリヤたちは、今夜寝泊まりする部屋に案内される。


「こちらのお部屋が桑島様のお部屋です。なるべくお近くの部屋いいかと思い、糸原様の隣のお部屋をご用意いたしました」

「ありがとうございます」

「それでは、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」


 そう言って、部屋を後にする紗季。


「まるでテレビとかでみる高級ホテルのような佇まいだな……」


 その部屋は天井に豪華なシャンデリアが付いており、何人座ることができるかわからないくらいの大きなソファ、最新型の壁掛けテレビ、そして王様のような天蓋付きのベッドが設置してあった。


 持っていた荷物をその場に置いたキリヤは、大きなソファに近づき、そのまま身を預けた。


「わー。ふかふかだー」


 初めて触感のソファにキリヤは心を奪われていた。


 このまま、眠ってしまおうかな――。


 そして自分がここへきた目的を思い出すキリヤ。


「いや、違う! 僕はこんなことをするために来たわけじゃ!」


 キリヤはそう言って自分の頬を両手で叩いた。


 こんなの初めての経験だったから、僕はその誘惑に捕らわれてしまったのかもしれない――。


「優香のところに行かないと」


 そしてキリヤは、隣の優香の部屋に向かった。


「優香、いる?」


 部屋の扉をノックするが、返事はない。


「いないのかな……」


 キリヤは優香が遅れて出てくるかもしれないと思いしばらくその場でとどまっていた。しかし、優香がその部屋から姿を現すことはなく――


「まあ優香のことは、またあとでいいか。とりあえず太陽くんに挨拶しにいかないと」


 そしてキリヤは太陽に挨拶をするべく、使用人の紗季を探すことにした。


「さっき別れたばかりだし、きっとすぐに見つかるよね」


 そう呟いたキリヤは屋敷の中を歩き始めたのだった。




 ――キリヤが屋敷を歩き始めてから数分後。


「どこにもいない……。というか屋敷の中が広すぎて、僕は今どこにいるかさえわからないんだけど!! はあ」


 困り果てたキリヤは、ため息をつき、その場で少し考えることにした。


 一人で行動したのが間違いだったかな……。優香がいたら、この屋敷の中をすぐに把握してくれただろうに――。


「はあ」


 そう考えていると、つい大きなため息がこぼれた。


「お兄さん、だあれ?」


 背後から声が聞こえたキリヤは振り返る。


 そしてそこには髪がきっちりとした七三分けにされていて、蝶ネクタイを締めてきれいな服を着た少年の姿があった。


 その見た目からこの少年が今回の警護対象の御茂山おもやま太陽たいようだという事を察するキリヤ。


「君は……太陽くんだね?」

「そうだよ! 僕が太陽だよ!」


 そう言って、とても無邪気な満面の笑みをする太陽。


 見るからにとても素直でいい子な少年みたいだ――。


 太陽の笑顔を見たキリヤはそう感じた。


「あ! もしかしてお兄さんが、明日まで僕と遊んでくれるの?」

「うん、そうだよ! 明日まで僕は太陽くんのお友達だよ」


 キリヤはそう言いながら、太陽に笑顔で返す。


「そっか!」


 キリヤは無邪気に笑う太陽を見て、弟がいたらきっとこんな感じなのかなと嬉しく思った。


「ちょうど今、退屈してたんだよね。じゃあちょっと僕に付き合ってよ。すぐ済むからさ!」


 太陽はキリヤにそう告げて、どこかに向かって歩き始めた。そしてキリヤはそんな太陽の後に続いて歩き始める。


「ねえ、どこに向かっているの?」


 しばらく歩みを進めたキリヤは、ここまで一言も話さずに歩いている太陽にそう尋ねる。


 いったい、僕をどこに連れて行こうとしているのかな――。


 そんなことを思っていると、太陽は足を止めて、


「ここ」


 そう言って目の前の部屋を指さした。


「ここは……?」

「ちょっと、この中で待っていてくれない?」


 太陽はそう言って、キリヤをその部屋の中へ押し込む。


 その部屋は電気もなく、真っ暗だった。


「え、う、うん。でも、なんで?」


 キリヤの問いに答えることもなく扉を閉める太陽。そして「カチャリ」と鍵をかける音。


「これってどういうこと!? ね、ねえ!」


 キリヤは慌てながら扉を叩き、外に向かって叫んだ。


 すると太陽は笑いながら、


「ここの扉は外からしか開かないんだ! それとここはほとんど誰も通らない廊下でね! お兄さんは明日までそこでゆっくり過ごすといいよ! あはははは!!」


 そう言って足音を立てて、どこか行ってしまった。


「これ、どういうこと……?」


 キリヤは状況が理解できずに、困惑していた。


 さっきの無邪気な笑顔はなんだったの!? 全部お芝居なの?


「どうしよう……」


 キリヤは扉の前で途方に暮れていた。扉の奥から物音一つしないことを考え、そこにもう太陽がいないことを察する。


「このまま誰にも見つけてもらえなかったら、僕は任務を放棄したことに……。そんなことになったら、僕はどうなるんだろう。また白銀さんの鬼訓練の日々が始まるのかな……」


 そんなことを考え、キリヤは余計に気分が落ち込んだ。そしてそこで座りこみながら縮こまる。


 能力を使って扉を壊すわけにもいかないよね。……能力さえ使えたら、僕はすぐにでもここから出られるのにな――。


「はあ」


 キリヤは大きなため息をつき、その場で誰かが来るのを待った。

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