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第6話ー① 新世界

「――!?」


 勢いよくベッドから身体を起こしたキリヤは、「はあ」とため息を吐いてから額を押さえた。


 それからキリヤは周りを見渡し、


「あれ、ここは……?」


 驚いた顔でそう呟いた。


 良く知っているような知らないような場所。そうだ、ここは確か僕の――


 そして急に扉をノックする音が響くと、


「キリヤ、朝だよ。起きてる?」


 そう言って誰かが自分を起こしに来たことをキリヤは知る。


「この声、マリア……? なんでマリアが僕を起こすんだ。それにここも、子供の頃にいた僕の部屋だし――」

「キリヤ、聞いてる?」


 そう言って部屋に入ってくるマリア。


「え、ああ。うん。おはよう」

「起きているなら返事して。心配するでしょ」

「ごめん、ごめん!」

「もう。じゃあ先に下行ってるから。早くしないとお母さんに怒られるよ」


 そう言ってマリアは部屋を出て行った。


「お母さん……?」


 なんでお母さんもここに? これは僕の夢なのか――?


 そしてここがさっきまでいた世界とは全く違う場所だという事を察するキリヤ。


 それからはっとすると、


「そうか。僕は時空のはざまに落ちて……それで、世界の改変に巻き込まれたってことだよね?」


 そう呟きながら、口元に手を当てて考え込むキリヤ。


 そして視界に入る優香とお揃いのバングル。


 僕は元の世界に戻ることができなかったんだ。だからもう優香とは――


 そう思い、悲し気な表情をするキリヤ。


「キリヤー!!」


 下の部屋から聞こえるマリアのその声を聞いたキリヤは、


「今行くー」


 そう言って立ち上がった。


 とりあえず、今はこの世界のことを調べよう――


 それからキリヤはリビングへと向かったのだった。




 キリヤがリビングに行くと、そこにはマリアと久しぶりに顔を見る母、そして義父があった。


「遅かったじゃない! おはよう、キリヤ」


 母はそう言ってキリヤに微笑みかける。


「おはよう、母さん」

「昨日は帰りが遅かったから仕方がないさ。男子にもいろいろとあるんだよ、な?」


 義父は笑顔でキリヤにそう問いかけた。


「え、う、うん……」


 キリヤは義父にどんな顔をしていいかわからず、そっけなくそう返す。


「お父さん、デリカシーなさすぎ。それじゃ、キリヤも嫌な顔するでしょ」


 マリアは義父の隣に座って、そう言った。


「マリアは相変わらず厳しいなあ。あはは!」


 そう言って楽しそうに笑う義父。


 マリアとあの人が仲良く会話を――?


 キリヤはその様子を驚きながら見ていた。


「ほらほら。そんなところで呆けてないで、早くご飯食べちゃいなさい? お迎えが来るわよ」

「お迎え……?」


 キリヤは首をかしげてそう呟く。


「昨日も2人で遅くまでお出かけだったのに、本当に仲良しよねえ」


 母はそう言って楽しそうに椅子に腰かける。


「そういえば、今日は午後からクラブの集まりあるから。2人でどこか出かけないようにね」

「クラブ?」

「もしかして忘れてた? キリヤは先生のことより、愛しの彼女ってことですか、はいはい」


 そう言ってからご飯を頬張るマリア。


 そしてマリアの言った『先生』というワードにキリヤは目を見張る。


「ねえ先生って、暁先生のこと?」

「そう、だけど? どうしたの、そんな驚いて?」


 マリアはきょとんとしてそう言った。


 この世界にも暁先生がいるんだ――そう思い、ほっとするキリヤ。


「ほら! 本当に早く食べなさいって!」

「あ、はい」


 それからキリヤはテーブルに着き、朝食を始めた。


 今まで家族でこんなこと、絶対になかったのにね――


 そう思いながら、キリヤは静かに朝食を済ましたのだった。


「じゃあ私、今日は一限あるから先に行くね」


 マリアはそう言って、義父と一緒に家を出て行った。


「キリヤも今日は二限からでしょ? 早く着替えちゃいなさい」

「う、うん」


 それからキリヤは部屋に戻ったのだった。




 ――キリヤの部屋にて。


 キリヤは着替えを済ませる際、部屋に置いてあるものを見て、この世界の自分がどう生きてきたのかを知った。


「この世界の僕は、大学生3年生か……」


 そう呟き、キリヤはベッドに寝転ぶ。


 この世界の桑島キリヤはずっと実家に住んでおり、地元の高校を卒業後は家から一番近い大学に進学していた。


 そして三谷暁との関係性は、担任教師と生徒と言う関係ではなく、地元で活動しているキッズクラブの先生とそこに通っていた生徒という位置づけのようだった。


「本当に僕は別の世界に来てしまったんだな……」


 キリヤはため息交じりにそう呟き、天井を見上げた。


「元の世界に戻る方法はないのかな」


 僕はもう、優香には会えないのかな――


 そう思いながら、悲し気な表情を浮かべるキリヤ。すると、


「キリヤ! お迎えが来たわよ!」


 下の階からそう叫ぶ母の声を耳にするキリヤ。


「わ、わかった!」


 そう言ってキリヤは身体を起こし、立ち上がる。


 それにしても、この世界の僕って誰と付き合っているのかな。もしかして奏多……とかじゃないよね。もしそうだったら、この先の関係は考えなくちゃ――


 それからキリヤは勉強用具の入ったカバンを持ち、部屋を出た。


 そしてリビングの前に着いたキリヤは、母が誰かと楽し気に会話をしていることを知る。


 この声――


 聞き覚えのある声に、キリヤははっとしてリビングを覗いた。



「この間は、ありがとうってお母様に伝えておいてくれる? それとまたショッピングに行きたいって!」


「はい! きっと母も喜ぶと思います! ずっと私と2人きりで、友人って存在を欲していたので、桑島さんのおかげで母は毎日楽しそうです。それと、私も桑島さんとお話ができて、その……嬉しいですよ」


「あらぁ、嬉しいこと言ってくれるのね! うふふ。ああ、もう優香ちゃんも私の娘になってくれたらいいのにっ!」


「そんなこと言っていただけるなんて、恐縮ですよ! ありがとうございます」



 キリヤの視線の先には楽し気に会話する母と――嬉しそうに笑う優香の姿があったのだった。


 それからキリヤは、ゆっくりと優香の前に歩み寄る。


「あ、おはようキリヤ君」


 優香はそう言ってキリヤに微笑んだ。


 それからキリヤはほっとした表情で優香をそっと抱きしめる。


「ちょっ! お母さんに見られてますけど!?」


 優香は顔を真っ赤にしてそう言った。


 そしてキリヤははっとして、優香から離れた。


「ご、ごめん……つい嬉しくて」

「嬉しくてって……まあ、そう言われて悪い気はしませんが」

「あらあら。朝からお熱いのねえ。じゃあ、邪魔者は退散しますか」


 そう言って母はリビングを後にした。


「なんだか気を遣わせてしまったみたいですね」

「あはは……」

「じゃあ準備もできているみたいだから、行きましょう」

「え、行くって……?」


 きょとんとするキリヤ。


「大学!! 二限あるでしょ?」

「あ、ああ……そうだね!」


 それからキリヤは優香と一緒に家を出たのだった。


 


 キリヤと優香は大学へ向かって、一般住宅が建ち並ぶ道を並んで歩いていた。


 まさか、僕が優香と……何がどうなってこうなったんだろう――


 そんなことを思いながら、キリヤは隣を歩く優香をちらりと見つめる。


「ねえ、なんか変じゃない?」

「え……?」

「今日のキリヤ君、絶対におかしいって」


 優香はそう言いながら、キリヤの方を見た。


「そう、かな」

「昨日、あんなことがあったから……?」


 優香は恥ずかしそうにそう言って顔をそらした。


 あ、あんなことって何? 昨日の僕は優香に何をしちゃったの――!?


 そう思いながら、顔が赤くなるキリヤ。


「ああ、えっと……」

「まあ付き合ってまだ1か月だもんね。あれくらいで恥ずかしがっていたら、ダメだよね」

「そう、だね」

「じゃあ慣れってことで……」


 そう言って優香は立ち止まり、キリヤの顔を見つめる。


 そしてキリヤは、昨日自分と優香に何をしたのかを察したのだった。


「ちょっと待って! ここは公共の場でしょ? そういうのは、こう……2人きりの空間じゃないとって言うか!!」


 狼狽えながらそう言うキリヤ。


 それを聞いて優香ははっとすると、


「それはそうね……危なかった。優等生としての私の地位が危ぶまれるところだった」


 そう言って額を押さえた。


 優等生の地位って――そう思いながら、苦笑いをするキリヤ。


 ちょっともったいなかったけど……でも、こんなところでそんな恥ずかしいことできないよね――!


 キリヤはそう思い、「うんうん」と1人頷いたのだった。


 それから大学に着いたキリヤは、それぞれの学科の講義を受けるために一度優香と別れたのだった。

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